0013
やがて、二人が休んでいる部屋に料理が運ばれてきた。ディアンとフォートが作った軽食は、質素で豪快という不思議な状態だ。
「お腹を空かせてるお嬢さんの事を考えてたら、つい作りすぎました」
豪快なのは、その量だ。アリアの体格を考えれば到底食べ切れるはずもない山盛りの肉料理が、皿の上で文字通り山になっている。
質素なのは、フォートが手がけただろうスープ。野菜をふんだんに使って煮込まれたそれは、肉料理とは合うだろうが味付けらしい味付けをされていないように見える。
「こいつ、軍所属なもんでね?そこと同じノリでこの量⋯止める間もなくやりやがってさぁ~」
ディアンの料理に対して文句を言うフォートだが、ディアンも負けてはいない。
「お前だって、お腹空かせてる時に濃いものはダメとか言って、野菜ばかりのスープじゃ体力つかないだろう」
二人なりの思いやりの結果が、この状況だった。
「⋯えっと、どちらも美味しそうよ?」
人間の食事に知見の浅いレヴィでも、作られた料理はあまり食欲を唆られるものではない。しかしアリアは嬉しそうに言う。
「早速、頂いてもいいかしら?」
フォークを握り、皿の上に積まれた山を眺め、比較的小ぶりな肉を選んで口へと運んでいく。何度か咀嚼して飲み込んだ後、アリアはそっと、水の注がれたグラスを手に取った。
「少し濃いめだと思うけれど⋯美味しいわよ?」
言いながらグラスに口を付け、なみなみと注がれていたはずの水を飲み干していた。
「⋯⋯お前、彼女に何を食わせた?」
その様子を見守っていたレヴィは、じろりとディアンを睨む。
アリアからフォークを奪い取り、味を確かめるべくレヴィも、山のように積まれた肉の一つを口へと運ぶ。だが口腔へ放り込んだ瞬間、レヴィもまた表情を顰める。
「⋯⋯何だ、この味は?」
見た目から、それほど期待はしていなかった。だがそうした低い期待すらも裏切るほどに、山と積まれた肉の味はあまりにも濃い⋯どころではなく、身体への害を懸念するほど塩辛かった。
「え⋯あっれぇ⋯⋯?」
殺気を込めた瞳でディアンを睨み付けるレヴィの様子に、アリアはクスクスと笑っていた。
「大丈夫よ、レヴィ」
「は?」
言いながらスプーンを手に取り、野菜だらけのスープを一匙掬って口へと含んだ。
肉の時は即座に水を飲んでいたが、アリアは二口、三口と、繰り返しスプーンを持つ手を動かしている。
「うん、このスープと一緒なら、丁度いいかもしれないわね」
そして再びスープを飲みながら、アリアは肉の山を眺め小さな塊を選んで食べ始めた。
思っていた以上に空腹だったのか、それともこれが本来アリアが食べる量だったのか。うず高く積まれていた肉の山は次第に切り崩され、既に三分の一は減っている。
味を確かめたレヴィはその光景を見て表情を顰めるが、食べているアリア本人は幸せそうに笑みを浮かべていた。
「⋯⋯あっ、僕はルークの所に行ってくるよ!二人が休める部屋、一番良いとこにしろよって、アイツに念押ししてくるから!」
順調に食べ進めていくアリアの姿に安心したのか、フォートは隣にいるディアンを小突きながら告げる。
「⋯⋯そうだな⋯あっ、いや待て!お休みになる前に、風呂は⋯!」
フォートの言葉に賛同しかけたところで、ディアンが言い返している。
「なぁに言ってんだ!三階の奥なら、部屋に備え付けがあるじゃん?」
「⋯あ、そうか。確かに、あの部屋ならお二人も⋯⋯⋯」
どこか納得したように軽く頷いたディアンは、食事を続けるアリアと、すぐ隣に立ち見守っているレヴィへと視線を向けた。
「フォートと一緒に、寝室の用意をしてきますよ。食べ終わりましたら、そのまま三階まで来て下さいね」
軍人であるというディアンは、僅かに姿勢を正してから、にこやかに笑うフォートを引き摺るように部屋から出ていく。
二人の男のやり取りを見ていたレヴィは、彼らの会話に何かの含みがあるように感じていた。それを嫌だとは思わないものの、何故かそこはかとない嫌な予感がじわりと生じている。
「⋯⋯レヴィ?」
名を呼ばれてふと視線を落とせば、いつの間にか肉の山は半分まで削られていた。
「⋯⋯⋯かなり食ったな?」
未だ皿の上に積み上がっているのは、アリアが一口では食べきれない大きな塊ばかり。破片のように小さなものは、ほとんどが食べ尽くされていた。
「⋯もうちょっと食べられそうなのだけど、お肉が大きくて⋯⋯」
その言葉を聞いた瞬間、レヴィは思い悩んだ。
痩せているアリアにはしっかりと食べさせたい。だがこんなにも急激に摂取して、身体に悪影響は無いのだろうか。
「まだ、食う気か?」
どうしたものかと考え、レヴィはアリアの意思を確かめる。返事はしなかったが、蒼い瞳はまだ物欲しそうに肉の山を見つめている。




