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Desiderium~竜と神のヴェスティギア 千年の悔恨~  作者: 絢乃


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 それから数分も経たない内に、酔っ払いの男達は地面に頭を擦り付け土下座の姿勢を取っていた。

「すんませんでした!もう勘弁してくださいッ!」

 涙を浮かべながら謝罪する男達は、十分に反省しているようだ。

「レヴィ、許してあげたら?」

「お前は分かっているのか?こいつらはお前に絡もうとしていたんだぞ」

 事の発端は確かにアリアの存在。彼女に手を出そうとした男の腕を叩き落とした事から始まった。

「でもレヴィ、楽しそうだったよね?」

「⋯⋯⋯」

 瞬時に否定は出来なかった。事実、単純な物理で殴り飛ばす事を、途中から愉快に感じていた。

 そして宣言通りアリアの回復魔法に守られていた男達は、レヴィに殴られ続けていて尚、怪我どころか痣の一つも残ってはいない。

 土下座する男たちの前で、わざと足音を立てて近付く。ビクリと身体を震わせる三人のうち、レヴィに対して下劣な発言を浴びせていた真ん中にいる男の前に立つ。地面に垂れるほど長い金髪を、ゆっくりと膝を曲げてしゃがんだレヴィが掴みあげた。

「⋯ヒッ!」

「絡むのなら、相手を良く確かめる事だな」

「ほ、本当に⋯す、すみませんでした!お、お詫びに何でも⋯しますから⋯⋯」

「⋯⋯⋯何でも?」

 掴んでいた髪を離して、レヴィは思案する。無知で無謀な下衆共だが、利用は出来るかもしれない⋯と。

 怯えた様子で沙汰を待ち続ける男達は、ガタガタと震えながらレヴィの、そしてアリアの反応を窺っている。自分達を蹂躙したこの男がどう断ずるかは彼女に懸かっている。すっかり酒の抜けた男達は冷静にその事実を見抜いていた。

「良かろう。ならば挽回の機会をくれてやる」

 視線だけで男達を促し、その場に立たせる。指示通りに立ち上がり姿勢を正す様は、まるで軍人のようだった。

 三人が立った直後、レヴィは右腕を動かし、手首に着けていたブレスレットを袖の奥から出現させる。シャラリと軽い金属音を立てながら現れた美しい装飾品に、男達の視線は釘付けとなった。

「⋯な、なんスか、これ」

 彼らもどうやら初めて見る代物らしい。だが自分の身に着けている物に頓着の無い竜は、さらりと伝えた。

「これを売れる店を探している」

「「「えええええっ!」」」

 三人の男達は声を揃えて驚愕の叫びを上げる。

「やかましい」

「す、すんません!」

 黒髪を束ねた男が、再びブレスレットを見つめて思案顔を浮かべている。他の二人より知的な雰囲気を纏う男は、しばらくしてからレヴィへ回答した。

「これ、めちゃくちゃ純度が高いですね⋯こんなもの、軍でも見た事が無いぞ」

 魔石の質を見抜いた黒髪の男に同調するのはもう一人の、青い髪をした最も小柄な男。

「ですねぇ⋯こんな凄いもの、市場に出回りでもしたら貴族やどっかの王族連中が黙ってないっす」

 彼らは口を揃えて、軽々しく売ってはならない理由と、出回った後にどうなるかの見解をレヴィへ伝える。

 共に居るアリアの事を考えても、あまり目立つ真似はしたくない。彼らの言が人の世の常識に沿っているならば、確かに売るべきではない代物なのだろう。

「ほら、ね?こんな凄いもの、買い取ってくれるお店があるかなぁって、私も言ったでしょう?」

 これを売ろうとしているのはアリアのためなのだが、しかしアリア本人が難色を示している。

「なら、どの程度の物であれば売れる?」

 知識を持っているだろう黒髪の男に向けて問えば、彼は少しだけ考えてから答えた。

「さっきの奴の、半分くらいの純度なら⋯それでもかなりの値が付きますけどね」

 男が示す程度の魔石は持ち合わせていない。身に着ける物に執着は無くとも、わざわざ低質な物を持つ気は無かったから。今すぐ創れなくもないが、物質創造の魔法を使えば目立つ。それでアリアの存在が知れ渡ってしまえば、本末転倒もいい所だ。

 腕を組み思案するレヴィと、その姿を見上げて待っている少女。不思議な組み合わせにも思える二人の様子を見た青い髪の男が、抱いた疑問を投げ掛ける。

「何で売りたいんすか?」

 三人の男達はどうやら同じ事を思っていたようで、軽い目配せをしてからレヴィへと視線を集中させた。

「金が必要だからだ。それ以外の理由はあるまい」

「分かりやすい理由ッスね⋯でも、そんな凄い物を持ってるのに、金は無いんすか?」

 人間が扱う貨幣を所持していない理由を、どう答えるべきか。いっそもう一度殴って黙らせるか⋯などと、面倒臭く感じ始めたレヴィは物騒な思考へと至ってしまう。

 だがその場を取り繕ったのは、他でもないアリアだった。

「私がね⋯落としちゃったの⋯」

 レヴィの後ろで少しだけ俯く少女が、金が無い理由を語る。

「ここまで来る途中に魔物と遭遇してね、驚いて何度か転んじゃって、多分その時に⋯」

「アリア⋯?」

 今は黙っていて⋯視線だけで訴えてくる少女の意図を汲んだレヴィは、この場は任せようと口を噤む。

「そりゃあ災難だったなぁ」

「お嬢ちゃんに怪我が無くて良かったぜ」

「まあこれだけ強い兄さんが付いてりゃな」

 機転を利かせて吐いた嘘だが、男達は信じたようだ。しかし半分は真実でもある。魔物とは実際に遭遇していて、アリアは何度も躓いて転びかけていた。

「そういう事情なら、俺が何とかしましょう!」

 黒髪の男が声を張り、レヴィとアリアに向けて告げる。

「俺にはそこそこの伝手があります。希少な魔石でも極秘に換金出来るよう手を尽くしてみます」

 その言葉を受けて、レヴィは改めて黒髪の男の出で立ちを確かめる。身に付けている衣服は粗末な物ではなく、しっかりとした造りをしている。微弱だが魔力も感じられた。

「その言葉、もしも虚言であったならその時は⋯⋯分かっているだろうな?」

 そんなつもりは微塵もないが、あえて酷薄な笑みを浮かべるレヴィは、警告の意味も兼ねて右手に魔力を纏わせる。力で劣る事もなければ、魔法も扱えるのだと示すために。

「ぞ、存じてますとも!お、俺の実家は魔石の取引をしている正規の商家なんですって!」

 纏わせた魔力をゆるやかに霧散させて、今度は柔らかく笑った。

「冗談だ」

 何気なく見せた微笑みは、とても美しいものだった。それまで怯えていたはずの三人の男達が、揃って目を逸らし顔を赤くしてしまうほど。

「レヴィ~?それ、冗談に聞こえないよ~?」

 そして他人の感情の機微に疎い少女もまた、軽い口調でレヴィへと話し掛ける。アリアへ向けられる眼差しのあまりの優しさに、男達は見惚れてしまっていた。


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