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EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season3 〜 番外編の番外編 〜  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season3 〜 番外編の番外編 〜
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第1章 再会 ―灯(あかり)― 受け継がれたぽかぽかの魔法 ―

午後のカフェ、渦を描くミルク、やわらかな光。

環が大切にしてきた言葉の“源流”に、あの日の笑顔で再び出会います。

「ぽかぽか」はどこから来て、どのように育ったのか――その答えがここに。

しゅうなぎとともに取引先とのミーティングを終えた帰り道、

たまきはふと、カフェの前で足を止めた。


「少し寄っていこうか」

そう言って三人で店に入る。

やわらかな午後の光がテーブルを照らし、

カップの中でミルクがくるくると渦を描いていた。


その時、入口の方で誰かが声をかけられているのが聞こえた。

聞き覚えのある声――。

環は思わず立ち上がった。


「あの……もしかして、あかりさんですか?」


「え? あれ? 環ちゃん?」

驚いたように目を丸くした女性が、少し照れくさそうに笑った。

「よくわかったわね、私のこと。こんなになっちゃったのに」


右手には杖、左足には装具をつけていた。

それでもその笑顔は、昔と変わらない温かさを放っていた。


「三年前に脳出血でね、左半身が麻痺しちゃったの。

 でも、こうして介助してもらえば外に出られるようになったの。

 今はフルリモートで仕事してるのよ。

 大好きなディズニーランドにまた行きたくて、リハビリ頑張ってるの。」


そう言って笑う灯の声は、どこまでも明るく、

むしろ以前よりも軽やかに聞こえた。


「障がい者になったけどね、今のほうがずっと幸せかもしれないの。

 こんなでビックリしたでしょ、ごめんね。

 でも声をかけてくれてうれしかった。久しぶりにぽかぽかしたよ。

 ……長話ししちゃったね。お連れの方、待たせちゃったでしょ。

 ありがとうね、環ちゃん。会えて本当にうれしかった。」


灯はそう言って、変わらぬ笑顔で手を振った。

相変わらず、誰かのことを気にかけている人だ。

――そして今でも、「ぽかぽか」という言葉を使っている。


席に戻ると、柊と凪がこちらを見ていた。


「今の方、環さんのお知り合いですか?」


「はい。あかりさんって言って、私が初めて入社した会社の先輩なんです。

 すごく優しくて、強くて……ちょっと天然で。

 私と同じ“失感情症”なんですけど、いつも表現がすごく素敵で。

 “ぽかぽか”とか“チクッ”とか“ドキドキ”って言葉、全部灯さんの真似なんです。」


環は少し懐かしそうに笑った。


「灯さんは、誰かの罪をかぶって退職したんです。

 私、その時たまたま休みで……職場で書類が紛失して、

 休み明けに灯さんが辞めたって聞いて。

 初めて胸がチクッてしたんです。

 灯さん、ミスするような人じゃなかったのに。

 いつも誰かを助けてて、短縮勤務の人に『私がやるから早く帰りなさい』って。

 ……助けられなかった自分が悔しくて。

 でもそのことを話したら、灯さんこう言ったんです。

 “環ちゃん、それは違うよ。誰かがやったことにすれば会社も楽でしょ。

 私のことより、自分を責めないで。ありがとうね。”って。」


その時の灯の穏やかな声が、今でも耳に残っている。


「……環のやさしさは、その人のおかげでもあるんだな」

柊が静かに言った。


「いたんですね~、環さんの師匠!」と凪が笑う。


「はい。まさに師匠です。今でも、迷った時は灯さんならどうするかなって考えます。」


環が窓の外を見ると、灯がゆっくりと歩いていく姿が見えた。

一歩一歩を噛みしめるように、それでも笑顔で前を向いて。


「あそこまで歩けるようになるって、相当大変だったんだろうな。

 でも“今のほうが幸せ”って言える人、ほんとに強い。」

柊の声に、環は小さくうなずいた。


「はい。あ、そうそう――この簪、灯さんの真似なんです。」

「そういえば、環さんと同じような髪型してましたね。」

「片手が使えないのに、どうやってるんだろうな。」

「そうですね……きっと、片手でもできる何かを見つけたんですよ。灯さん、かっこいいです。」

「環さんが“かっこいい”って言うの、柊先輩以外では初めて聞きましたよ!」

「はぁ? おまえは何を言ってるんだ。」

「ふふ。凪くん、灯さんの“かっこいい”と柊の“かっこいい”は少し違いますよ。」

「環……おまえもよくそんなことサラッと言うな。」

柊は頬のあたりが少し熱くなるのを感じた。


「……環さん、いい顔してますね。」

「そうだな。あの人に会えて、また少し強くなったんだろう。」


柊の横顔を見ながら、環は静かに窓の外へ目をやった。

外では、淡い光が街を包みはじめている。


髪に差した簪が、その光を受けてそっときらめいた。

それは、灯の笑顔のようにあたたかく、

ぽかぽかとした魔法の余韻を残していた。


――ぽかぽかの魔法は、今もここにある。

“今のほうが幸せ”と語る灯。

強がりではない、その静かな強さが胸に灯りをともします。

環が受け取ったやさしさの言語は、たしかに今も息づいていました。

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