旅のはじまり
最後の子供の葬式が、終わった。
自身の纏う灰色の衣装と黒い花が、これは間違いなく葬式だったのだと嫌でも主張している。
「やっぱり寂しいよ」
肩を落とし涙を溢す薬術の魔女に、白いハンカチが差し出された。見上げると、夫である魔術師の男の憂いを帯びた顔がある。
「仕方の無い話です。生まれた者は、皆死ぬ運命。……通常は」
そう、静かに彼が慰めの言葉を吐いた。泣いてはいないが、やはり彼でも思うことはあったのだろう。
「でも、みんな天寿を全うしてくれてよかった」
「そうですね。其の上、長寿の部類でしたし」
通常、寿命は150歳ほどだと言われている中、子供達は200歳近くまで生きた。十分だろう。
「……処で、私共は何時死ぬのですか?」
「え?」
「あ……いえ。何も」
何か不思議な圧を感じたので、魔術師の男は訊くのを止めた。「変な猫ちゃんー」と薬術の魔女は首を傾げるだけだ。
「きみも宮廷魔術師辞めちゃったし、暇になっちゃうね」
葬式の会場から離れ、屋敷に戻った。魔術師の男が宮廷魔術師を辞めたのはもう100年ほど前の話だが、特に言える話題がなかったのだ。
「……成らば。国外へ旅にでも出ます?」
「旅?」
思わぬ提案に、薬術の魔女は顔を上げる。
「えぇ。私と貴女、共に縛るものは無くなりました。子も居なくなりましたし、古い知り合いも居ない」
「そうだね。旅、出てみよっか」
という事で、薬術の魔女と魔術師の男は旅に出ることにした。
短編のつもりで出したら連載になっていました。
せっかくなので、暇つぶしがてらに気が向いたら旅の話を書いてみようと思います。




