浦島少女8
奥に進むと広い部屋に繋がった。そこには正面に巨大なモニターが有り、日本を示す地図の周りには光る点が数多く記されていた。
モニター上には色々な数字や文字が並んでいたが私には何が何だかさっぱりわからない
ただそれを取り巻く人々は皆声を荒げ、怒鳴る様に会話をしていた、何故だかはわからないがかなり混乱している様である。
「何がどうなっている、偵察の為の哨戒機は出せないのか⁉」
「無理です、今発進させたら撃墜される可能性が高いです‼」
「どうにか映像を映すことは出来ないのか?状況がわからないのでは手の打ちようが無いぞ」
「アメリカからの情報提供がない今、衛星からの映像を映すことは出来ません」
「何故アメリカ軍も中国軍も戦闘状態に入っているのだ?お互いがやり合っているというのではないのだろう?」
「はい、それはありません、中国海軍は東シナ海、アメリカの第七艦隊は太平洋上に居ます
両軍艦載機が発進した形跡はありませんし、ミサイル攻撃でもないようです。
しかし両軍が戦闘状態に入っているのは確かなようです‼」
「何故だ、何が起こっている?奴らは一体何と戦っているのだ⁉」
怒号が飛び交う中、かなり混乱している様である、話を聞く限り、どうやら謎の勢力によってアメリカ軍と中国軍が攻撃されていて、その相手がわからない様だ。
「何が起こっているの?宇宙人でも攻めてきたというの?」
嫌な胸騒ぎが収まらない。私自身、訳の分からない現象に間見込まれた人間だけれど、今起こっているのは世界的な問題である
そして私は再びフェイさんの顔を見つめた、国家の力でわからないモノが個人にわかるはずもない
しかし、どうしてかはわからないがフェイさんなら知っている気がしたのである
理由は無い、強いて言えば女の勘である。
ジッとすがる様に見つめる私を見て、フェイさんは静かに口を開いた。
「知りたいですか?」
感情の無い淡々とした口調で問いかけてきた、しかしその言葉の奥には温かいものを感じられる
私自身、何故だかわからないが〈この人は信用できる〉と確信していたのだ。
「出来るのですか?」
「やってみましょう」
静かにそう言うと防衛省の人たちが集まっている中に入って行った。
「何だ、貴様は、ここの人間では無いだろう⁉」
「部外者がいるぞ、さっさとつまみ出せ‼」
何人かの人がフェイさんに気づき、退場させようと数人の軍人さんが集まって来た。
屈強な人たちがフェイさんを取り押さえようと組み付くが、フェイさんは何事も無かったかのように歩いて行く
大の男数人が引きずられる様にしがみ付いているが、当のフェイさんはビクともしない
あんな細身なのに凄い力だ、フェイさんは武道の達人なのかな?
数人がかりでも止められないとわかると、一人の男が拳銃を取り出し銃口を向けた。
「止まれ、指示に従わない場合は撃つ、これは脅しではない‼」
拳銃を向けている軍人さんは大声で警告してきた、一瞬でその場に緊張感が走り皆の顔が強張る
私などは足が震えてその場にへたり込みそうだった、しかしフェイさんはまるでその声が聞こえていないかの様に歩みを止めなかった。
「なぜ止まらない、本当に撃つぞ‼」
その言葉を聞いた次の瞬間、フェイさんはその男を睨みつけると
まるで蛇に睨まれたカエルの様に動かなくなってしまい、まるで木偶の坊の様に立ちすくんでいた。
「何をやっている、さっさとその男を取り押さえろ‼」
怒鳴るような声で誰かが叫んだ、部屋の中に軍用の自動小銃を持った軍人さんが数人入ってきて
フェイさんを取り囲む、どうしよう、私がわがままを言ったせいで……
その時、鋭い目つきで周りを見渡したフェイさんは初めて大声で叫んだのだ。
「貴様らとて現在の状況を知りたいのであろうが、だったら黙っていろ‼」
周りを一括する様に叫ぶと、フェイさんは一人のオペレータの前に立つ
その見下ろす冷たい目はこう言っていた〈さっさとそこをどけ〉と。
ゴクリと息を飲んだオペレータの人は譲る様に席を空けた
普通ならこんな事考えられないのだろうが、フェイさんの声には妙な説得力というか人にいう事を聞かせる不思議な力があった。
パソコンのキーボードを前にフェイさんは掌をかざす、するとその掌から薄っすらとした青い光が発生し
何故かキーボードが勝手にタイピングを始めたのだ
そこに居る全員がフェイさんの一挙手一投足に注目し視線が釘付けになる
何が起こっているのか理解できるものは誰もいない、だが何か凄い事をやっているのは私にすら何となくわかった
しばらくすると目の前の巨大モニターの画像が揺らぎ始め次の瞬間、上空からの映像に切り替わったのである。
「馬鹿な、コレはアメリカの軍事衛星からの映像だ、まさかアメリカの軍事衛星をハッキングしたのか⁉」
先程席を譲ったオペレータが信じられないといった表情を浮かべながら巨大モニターを食い入る様に見ている
その映像はかなり高高度からの映像だったので状況はまだ把握できていなかったが
徐々に地上に向かってズームアップしていくと、今何が起こっているのかハッキリと把握することが出来た
しかしそこに映しだされた映像は誰もが目を疑う信じがたいモノであったのだ。
「なんだ、アレは……一体何が起こっている……」
皆が目の当たりにした信じがたいモノ、それは真っ黒な無数の物体、いや生命体であった。
その生命体と思しき謎の怪物は全身を黒い鱗で覆われており、目は赤く、背中には蝙蝠の様な羽根を生やしていたのである。
まるで空想上の悪魔が具現化したような怪物が大群でアメリカの艦隊を襲っているのだ
空を覆う様な多数の謎の生命体によりアメリカ軍の航空機は次々と落とされていく
その怪物の飛行速度はアメリカ軍の航空機に匹敵し、非常に小回りもきく
縦横無尽に空を飛び回り、まるで遊びを楽しむかのようにアメリカの誇る最新鋭戦闘機を次々と撃墜していく
しかも驚くべきことに戦闘機のミサイルが命中してもまるで意に介さないのである
何事も無かったかのように我が物顔で動き回っていた。
「馬鹿な、あんな急激な旋回運動や急降下など、航空力学的に不可能だ‼」
「それよりも、AIM―9サイドワンダーの直撃を受けて無傷とは⁉あの化け物の皮膚はタングステン並の固さがあるとでもいうのか⁉」
防衛庁の人々は目の前で見ている光景が信じられない、まるで悪夢を見ているかのようであった
フェイさんの計らいで映像は東シナ海の中国軍へと移り変わったが、そこでも同じような事が起こっていた。
黒い悪魔の様な容姿をした無数の怪物達が、次々と中国軍の戦闘機を撃墜していた。
これにより日本はアメリカ、もしくは中国から攻められる事は無くなったが素直に喜べる状況では無い
あの怪物達がもし日本の領土を侵犯し人々に危害を加え始めたら……考えるだけでも恐ろしい
それは文字通り日本列島が【地獄絵図】と変わるだろう。誰もがそれを想像し、絶望という言葉が頭に浮かんだ
太平洋上のアメリカ軍と東シナ海の中国軍の状況はもはや戦闘と呼べるものでは無かった
一方的な蹂躙、目を覆う様な虐殺、戦いというより何かの儀式にすら見えた。
そんな時、私がこの部屋に来たことを知った佐山君が慌てて駆け寄って来る。
「大丈夫か、新庄⁉どうしてここに……」
すると、近づいて来る佐山君を見て、割り込む様に立ち塞がったのはフェイさんだった。
両手を広げ、〈近づけさせないぞ〉といわんばかりのポーズである
さっきまでモニター前のパソコンをいじっていたと思ったのに、まるで瞬間移動したかのようだ。
「何をするつもりだ、このお方に危害を加えようというのであれば容赦はしないぞ、私が相手になってやる」
まるで敵を見るようなもの凄い目で睨みつける、あまりの迫力に佐山君も思わずたじろいでいた。
えっ、何、これ?じゃあまるでフェイさんが〈白馬の王子様〉で佐山君が〈悪党の手下〉みたいじゃない
配役がおかしくない?……じゃなかった、今はそんなこと言っている場合じゃない
人類存亡の危機、未曽有の世界のピンチ、え~っとそれから……とにかくヤバい状況だという事だ。
「フェイさん、佐山君は危害など加えないわ、安心して……それより佐山君、あの悪魔みたいな怪物は何なの?」
私の質問に困った顔を浮かべる佐山君、目を閉じ残念そうに首を振った。
「わからない、あんなモノは見た事も聞いたことも無い、現代のテクノロジーでは有り得ない代物だ
奴らが何処から来て何をするつもりなのか、まるで不明なのだ、それは何処の国でも同じだろう、これからどうしたモノか……」
佐山君の言葉が全てを語っていた、先程までの騒がしさが嘘の様に防衛庁の人たちも押し黙ってしまい
ミニターにくぎ付けになっていた。誰も口を開かない、それほど深刻な事態だと改めて実感した。
「何、何なのよ、あの怪物は……」
皆が唖然とする中で、つい独り言の様に呟いてしまった、すると後ろから小声で語りかけて来る声が聞こえる。
「知りたいですか?」
そのセリフに私だけではなく、そこにいる全員が一斉にフェイさんに注目したのである。
「知っているのか⁉あの化け物を、ならば教えろ、何なのだ、アレは⁉」
一人の偉そうな中年男性が質問しながらフェイさんに詰め寄った
そのやり取りを皆が固唾を飲んで見守っている、だがその返事はあまりにそっけないモノだった。
「何故私が貴様などに説明しなければならぬ、目障りだ、消えろ」
あまりに冷たい反応に言われた本人ですら一瞬呆気に取られていた。
「貴様、私を誰だと思っている、防衛大臣政務官、新崎正孝だぞ‼貴様は説明する義務がある、早く教えんか‼」
やや切れ気味にまくしたてる新崎さん。防衛大臣政務官という役職がどれだけ偉いのかは知らないが
相当高い役職なのだろうとはわかる、でもフェイさんにとってはそんな事どうでもいい様だ。
「何を勘違いしている、私には貴様に対する説明義務など無い
私が唯一忠節を捧げるのは世界でただ一人、新庄葵様だけだ。貴様らの様なゴミなど知らん、勝手に死ね」
何で、私ですか⁉意味不明すぎて頭が回らない、何がどうなっているのやら……
佐山君を始め周りの人達が私を見ている、そうだ、この視線は最近よく目にする珍獣を見るような目
もう勘弁して欲しい、でもどうしてフェイさんが私を……
完全にパニックを起こし頭から煙が出ている私、そこに佐山君が話しかけてくれた。
「なあ新庄、理由はわからないがどうやらこの人は君の言う事しか聞かないようだ
僕からも頼む、この人に知っている事を説明してくれるよう頼んでくれないか?」
そうだ、呆けている場合ではない、佐山君の力になりたくてここに来たのだ、しっかりしろ葵‼私は気を取り直し、改めて話しかけた。
「お願いしますフェイさん、私を含め、ここに居る人達にあの怪物が何なのか、説明してください、どうかお願いします‼」
深々と頭を下げ懇願するように頼み込む、彼はゆっくりと首を振り静かに口を開いた。
「お止めください、私は貴方の忠実なる部下なのです、お願いなどされなくとも御命令くだされば何なりと、貴方の良きように……」
片膝をつき頭を下げるフェイさんは、まるで騎士のようであった。
フェイさんが騎士だとすると私はお姫様?いやいや、学校の購買で〈コロッケパン〉か〈焼きそばパン〉か?で迷うお姫様なんかいる訳無いじゃん
でも今はそんな事を言っている場合ではない、一刻も早くフェイさんから聞かなくては……
でも何だろう?この人の声を聞いていると何故だかわからないが心が落ち着くのだ。
「私は貴方の様な人に忠節を受ける様な人物ではありません
でもみんなが困っているのですどうかあの化け物の事を教えてください、お願いします‼」
もう一度丁寧に頭を下げ、誠心誠意頼み込む、すると初めて優しく微笑みかけてくれた。
「貴方は本当に似ている、やはり私の目に狂いは無かった……」
口元を少し緩め、何処か嬉しそうに話してくれる彼の笑顔は何故か心が安らぐ。
「へっ、何?」
「いえ、何でもありません、では説明しましょう、あの黒い化け物は【ガジルス帝国】が開発した〈生体兵器ガレリア〉といいます」
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