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浦島少女6

じゃあ、授業で習った様な世界大戦になっちゃうって事?」


「いや、そうはならないだろう、アメリカも中国も核を保有している軍事大国だからね


お互い全力で戦ったら双方タダでは済まない事をよく理解している。


だけれど、日本がアメリカと中国を天秤にかけ、選ばれなかった方はメンツを潰された事になるし、その技術が相手側に流出する可能性が高くなる。


だからお互いの全面戦争ではなく、日本を戦場とした紛争という形で戦闘状態に巻き込まれる事になる


日本は核を保有していないし、安心して叩けるという訳さ……」


「そんなメンツって……そんな事で、それじゃあ……」


「それだけではないのだけれどね。大国同士のパワーバランスを崩しかねない技術をめぐっての事だから双方必死なのだよ。


ただどちらも〈相手に渡るくらいならば日本ごと潰してしまえ〉という考え方になっても不思議ではない。


そして日本は大国のメンツとか各国に対するアピール、悪く言えば鬱憤が溜まった事へのガス抜き


いわば見せしめの為に戦闘に巻き込まれてしまうかもしれないのだよ……」


あまりの話に言葉を失った、何それ、そんな事で戦争するの?意味わかんないよ……


「こういう時、国連とか、どうにかしてくれないの?」


「今の国連の資金源はアメリカが27%、中国が25%と両国で半分以上を負担している状態なのだよ


だから国連はこの両国の意向は無視できない。今現在国連常任理事国である五か国も


アメリカ、イギリス、フランス側と中国、ロシア側とで真っ二つに割れている。


もしアメリカか中国が日本に戦争を仕掛けると宣言しても国連は目をつぶるだろう。


元々アメリカは国連決議を無視してイラクに侵攻した事もあったし、アメリカや中国が本気になったら、国連が形骸化するのは周知の事実だ」


まさかの現実に直面し愕然としてしまう、そんな時、ヨリちゃんが私にそっと囁いた。


「葵、周りを見てごらん、週末だというのにお客が少ないでしょう?」


ヨリちゃんに言われ改めて周りを見渡すと、私達の他には、男性の一人客以外誰もいなかった、そんな事も気が付かなかったなんて……


「これって、もしかして戦争になるかもしれないから誰も外に出ていないって事?」


「そういう事よ、今は開けてくれている店自体少ないしね……」


呆然として何も考えられない、そういえばテレビ局もバタバタしていたことを今更ながらに思い出した


私のいない間に世界がそんな事になっていたなんて……

私が呆然としている時、ヨリちゃんが佐山君に話しかけていた。


「で、どうなの佐山君、アメリカと中国の動きは?総務省の方もどう対応すべきか困惑しているわ。


話せない事も多いだろうけれど、話せる範囲で教えてくれないかしら」


二人は真剣な表情で話している、私の理解の範疇を遥かに越えた高度な政治的な話だ。


「今、中国海軍は二隻の空母を伴う艦隊を東シナ海に展開中だ


それに対してアメリカ軍は原子力空母〈ロナルド・レーガン〉を中心とする第七艦隊がいつでも戦闘開始できるよう太平洋上で待機中


両者〈いつでも戦闘準備OK〉という感じだ」


「そう、思った以上に早いのね……でもそんな情報を漏らして大丈夫なの?」


「かまわないさ、いずれバレる事だからね、でもマスコミには流さないで欲しい」


「もちろんよ、そんな事はしないわ……でもあまりいい状況では無いようね……」


先程までの明るい雰囲気が一変し、一気に重くなる。皆も言葉を失い気まずい雰囲気が店内を漂った


結局佐山君はすぐに仕事に戻らなければならないという事で私の歓迎会はここでお開きとなった。


「何かすまない、俺のせいで雰囲気が暗くなってしまって……」


 申し訳なさそうに頭を下げるこの姿勢からも、彼の性格が良くわかる。


「ううん、そんな大変な時に来てくれて本当に嬉しい、有難う、佐山君」


 その時、ヨリちゃんが私の背中を押しながら嬉しそうに口を開いた。


「佐山君、せめて葵を自宅まで送って行きなさい、車で来ているのでしょう?」


 親友からの突然のサプライズ提案、佐山君とドライブとか、想像しただけでワクワクするが彼は多忙の中で来てくれたのだ


日本の現状を考えればウキウキしている場合じゃないし、とてもじゃないがそんな事はさせられない。


「そ、そんな、忙しいのに悪いよ……」


「いや、せめてそれぐらいはさせて欲しい、ダメかな?」


 私の要らぬ気遣いだったのか、優しく言葉を選ぶように答えてくれた。


ここでダメとかいう選択肢はあり得ない、それを選ぶのは寧ろ女じゃないと言い切れるだろう


でも少し嬉しかった事がある、変わっていない、この人は私の知っている佐山君だ……


「ダメじゃないよ、でも本当にいいの?」


「ああ、今、車を取って来るから、少し待っていてくれ、新庄」


爽やかな笑顔と共に小走りでこの場を去っていった、佐山君の後ろ姿が見えなくなるまでジッと見守っていると


後ろからヨリちゃんが小声で話しかけてくる。


「葵、いい事教をえてあげる、佐山君はまだ独身よ、付き合っている人もいないみたい


アレはまだ葵に未練があると見たわ、頑張りなさい」


いきなり突拍子もない事を言い出す親友の言葉に私は驚き、その計画がとてつもなく困難だと瞬時に判断した。


「えっ、そんな、佐山君にとって私は十五年前の人間だし、そんなの無理だよ」


だが、そこにさやちゃんとマイミー、みのリンも続く。


「そんな事ないわよ、私も頼子と同意見よ、アレは脈アリと見たわ」


「佐山はアレでかなり真面目で純情そうだし、ワンチャンあるよ、頑張りな‼」


「そうよ、十五年越しの恋とかロマンチックじゃない。それこそ貴方の大好きな少女漫画の世界じゃないの


ここで頑張らないでどこで頑張るの、女の意地を見せてやりなさい‼」


ああ、私の知っているみんなのノリだ、私にとってそれほど日にちが経ったという自覚は無いのに、なぜかひどく懐かしい、そんなみんなの気持ちが凄く嬉しかった。


「ありがとう、みんな……私頑張ってみる」


嬉しそうに頷くヨリちゃん、両こぶしを握り締め〈頑張れ〉のポーズを取るさやちゃん


親指を立ててウインクするマイミー、満面の笑みで私を見つめてくれているみのリン……


ありがとう、私は本当にいい友達を持った、有難う、大好きだよ、みんな……


〈邪魔をしては悪い〉と、佐山君が来る前にみんなは帰って行った。


一人彼の車が来るのを待っていると、突然後ろから声を掛けられた。


「何だ、高校生がこんな場所をうろついて、日本が大変だって時にけしからんぞ‼」


 何事かと思い、振り向くと、そこには四十代くらいの中年男性が立っていた。


フラフラと歩きながら顔を赤らめており、やたらと酒臭い。どうやら随分と酔っている様だ。


「私は、人を待っているので……」


 どう見ても関わり合いたくない人種だ、さりげなく〈もう話しかけないで〉と態度で伝えたつもりだったのだが


どうやらそれが相手に不快な気分を与えたようである。


「何だ、その態度は⁉年長者に向かって、なっとらんぞ‼」


 いきなり肩を掴まれ驚きと恐怖で体が硬直する、何この人⁉怖い……


助けを呼ぼうにも言葉が出ない、足がすくんで逃げられない、その中年男性は酒臭い顔を近づけてくる。


「あ?お前、どこかで見た事あるな……そういえば最近やたらテレビで見る顔だ


確か十五年前から帰って来たとかいうインチキ娘だな?この日本が大変な時にインチキで金儲けをしようなど、実にけしからん、俺が正義の何たるかを教えてやる‼」


 意味不明な事を口走りながらその中年男性は右拳を振り上げた


突然の事で何が起きたのか、全く理解できない。思わず目を伏せ首をすぼめて強張る、怖い、助けて佐山君‼


 殴られる事を覚悟ししゃがみ込んだ私だったが、いくら待っても振り上げた拳が私に向かって来る事は無かった


恐る恐る目を開けて見てみると、先程の中年男性を地面に組み伏せ、後ろ手にねじ上げている男がいた。


「大丈夫ですか?」


 その男は低い声で端的な言い方だが、私を気遣ってくれた様だ。どうやらこの男の人が私を助けてくれたようである。


「ありがとうございます……」


「いえ……」


 ボソリと一言言葉を発したその男は180cmを超える長身でスラリとした体形


腰まで伸びた黒髪に黒いロングコートを着ていた。ややつり目勝ちの鋭い目つきに色白の肌


一目見ただけでタダ者ではないと思わせる雰囲気がその人にはあった。


地面に組み伏せられている中年男性は必至でもがいているが、その男はビクともしない。しかも更に腕を締め上げたのである。


「痛てててて、参った、悪かった、降参だ、助けて~」


 必死で助けを求める中年男性だったが、その男は顔色一つ変えずに、また更に腕をねじ上げたのである。


「ぎゃあああ、ごめんなさい、許してください、折れる、腕が折れるって‼」


 地面で必死に暴れる中年男性の事をまるで虫けらのように見下ろす謎の男……この人、本当に折る気だ……


「止めてあげてください、もう充分ですから‼」


 私がそう声を掛けると次の瞬間、その人は反射的に中年男性から離れた


突然拘束を解かれた酔っ払いの中年男性は慌てて立ち上がると、ほうほうの体で逃げて行った。


一瞬何が起こったのか理解できず呆然としてしまったが、私はすぐに我を取り戻すと、その男の人に頭を下げて改めてお礼をのべた。


「助けてくれて、ありがとうございました」


 感謝の意を丁寧に告げると、その人は目を伏せ、低い声でボソリと言葉を発した。


「いえ」


 あまりしゃべらない人なのかな?そういえばこの人、さっきの居酒屋で私達の他に唯一居たお客だ


たまたま私を見かけて助けてくれたのかな?でもこの声、どこかで聞いたような……


「何をやっている‼」


 色々な事を考えている時、突然後ろから聞き覚えのある声が響き思わずその声の方向に振り向くと


そこには厳しい顔をした佐山君が早足で近づいて来ていた。


そして私とその男の人の間に素早く割り込むと相手を睨みつけ、厳しい口調で問いかけた。


「どういうつもりだ、新庄に何をした⁉」


 敵意むき出しの口調で迫る佐山君の言葉は、質問というよりほとんど詰問である。


「待って佐山君、この人は私を助けてくれたの、酔っ払いのおじさんに絡まれている時助けてくれたのよ、だから……」


 つたない説明だったが瞬時に状況を理解した佐山君は慌てて相手の男性に頭を下げた。


「スイマセンでした、連れの危ない所を助けてくれた人に無礼な事を……謝罪します、本当に申し訳ない、そしてありがとうございました」


 佐山君は本当に私の事を心配してくれたのだ……私を守る様に立ち塞がり


相手に対する態度と、事情が分かったら素直に謝り私を助けてくれた事に、お礼をしてくれるその心が何よりうれしかった。


そして〈連れ〉と言われただけなのに、その言葉が何度も頭をリフレインし自然と口元が緩んでしまう、本当にチョロいな私……


 だが次の瞬間、予想もしていなかった展開が待っていた。


素直に非を認めて謝罪する彼に対してその人は一歩近づき、顔を突き合わせる程の距離まで近づくと、冷徹な口調で言い放ったのだ。


「このお方を守るべき役目の貴様は一体何をしていた?もし私が居なければ大変な目に合っていたのだぞ、わかっているのか⁉」


言い方は平坦だが明らかに怒気交じりの口調で佐山君を責め立てる謎の男


でもその言葉の中で気になる点が一つあった〈このお方〉って何?


私は平凡な家庭で育った一女子高生です、今となってはその肩書はやや怪しいが


内容的には概ね間違ってはいないだろう。もしかして誰かと間違えてはいないでしょうか?


〈痛い所を突かれた〉とばかりに反論できない佐山君。目を伏せ、唇を噛みしめていた


何でこんな事になるのか、そもそも私のせいで佐山君が責められるのはどう考えてもおかしい、私は慌てて二人の間に入り、頭を下げた。


「今回は助けてくれて、本当にありがとうございました、でも佐山君を責めるのは止めてください


彼は駐車場に車を取りに行っていただけなのです、だから……」


なんとかこの場を収めようと必死で訴えるが、その人から返って来た言葉は私の予想の遥か斜め上を行くものであった。


「関係ないです、もし彼のいない内に貴方が殺されていたら


〈駐車場に車を取りに行っていたから〉などと言っていられないでしょう、この男はそれだけの事をしたのです」


何ですか、それは⁉〈殺されていたら……〉とか


どこの王族の姫君ですか?さっきのおじさんはとても〈暗殺者〉には見えませんでしたが……


しかしこの人の表情と口調から冗談で言っている様には見えなかった


時間的なのか、時期的なのかはわからないが、人気の少ない繁華街に重い空気が私達の肩にのしかかって来る


心なしか息苦しくさえ感じる、この空気を打開するには私では役不足だった様だ、誰か何とかして……


 そんな私の思いをくみ取ってくれたのか、佐山君が再び頭を下げ静かに言葉を発した。


「貴方のおっしゃる通りです、もし新庄に何か起きていたら全て私の責任でした


重ねてお礼を申し上げます、帰りは私が責任を持って新庄を自宅に送り届けますから……」


さすがは佐山君、上手くこの場を収める様に話を持っていくなと感心した、これで……


しかしその謎の男から返って来た返事は更にぶっ飛んだモノであったのだ。


「貴様は信用できない、したがって私も付いて行く」


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