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浦島少女5

「佐山君、佐山君だよね?」


「ああ、そうだよ、久しぶり……でもないのかな?新庄にとっては」


 私は両手を口に当てて言葉を失ってしまう。大人になった佐山君はとんでもなくかっこ良く見えた。


彼の姿に見惚れてしまっている私に対して優しく微笑みかけてくれる佐山君、するとヨリちゃんが気を利かせてくれたのか、割り込むように話してくれた。


「ハイハイ、そんなところで見つめ合っていないで、早く葵の隣に座りなよ、佐山君。


愛しの姫のご帰還に感動するのはわかるけれど、そんなところに突っ立っていたら他の人の邪魔になるじゃない、さっさと座りなさいよ」


 ヨリちゃんに促されるように、照れくさそうに私の横に座る佐山君。


こういうところは全然変わっていなくてなんか嬉しくなってくる。


高校の頃より体つきもがっちりしていて随分と大人っぽくなっていて、見ているだけで幸せな気分になった。


「えっ、何?佐山君って葵と付き合っていたの?」


 マイミーが驚きの声をあげると、皆もそれに続いた。


「どおりで佐山は誰の告白も受け付けなかった訳だ」


「何かショック、私も昔は佐山君に憧れていたのに‼︎」


「そうか、佐山と新庄がね〜」


「でもなんとなくしっくりくるな、うん、お似合いかも」


 急に私の恋バナで盛り上がり始める一同、みんなにとっては懐かしい思い出だろうが


こちらにしてみれば直近の事なので、そのノリにはややついていけない。そんな時、みのリンが独り言のように呟いた。


「私、佐山君はてっきり頼子と付き合っているかと思っていたわ」


 その言葉に皆が大きく頷いた。確かに私もそう思っていた


何せこれ以上お似合いのカップルがいるのか?と思えるほど佐山君とヨリちゃんはお似合いだったからだ。


常に成績トップの生徒会長といつも成績上位の生徒会副会長


ともに剣道部とバスケ部のエースであり、イケメンと美人という〈絵にかいたような理想的な二人〉だったからだ。


だがそんな空気を打ち破る様にヨリちゃんが口を開く。


「私だってそう思っていたわよ、いつか佐山君が私に告白してくれるのではないかってね


でもいつまでたっても告白してくれないから、痺れを切らせてこっちから告白したら見事にフラれたわ


〈俺は新庄が好きだから、ごめん〉って」


 衝撃の事実である、まさかヨリちゃんと佐山君にそんなやりとりがあったとは……


何か申し訳ない気分でヨリちゃんの方を見つめると、彼女はクスリと笑って私に語りかけてきてくれた。


「なんて顔しているのよ、葵。もう十五年も前の話よ、今となってはいい思い出だわ


でもあの時は結構ショックだった、でも同時に少し嬉しかった……」


 嬉しかった?意外なワードが出てきて理解できない、どういう事だろう?


「嬉しかったって、どういうこと?」


 するとヨリちゃんは目を閉じ、当時を思い出すかのようにしみじみと語り始める。


「そりゃあフラれた事はショックだったけれど、好きな相手が葵だっていうのがね……


その時思ったの〈ああ、この人はきちんと中身を見る人なのだ〉って


悔しかったけれど私が好きになった人はやっぱりわかっている人間だって……


私は葵に負けたけど、葵になら負けても仕方がないかな……って、少し納得した自分がいた。


あの時はそんな事言えなかったけれど、今なら普通に言えるからね、やっぱ私も歳をとったという訳よ」


 どこか嬉しそうに微笑みかけてきてくれたヨリちゃん、ありがとう、私、ヨリちゃんが友達で本当に良かったよ……


 そんな事を考えている時、ふと気が付くと、佐山君は私の事をジッと見ていたのだ。


「な、何?佐山君?」


 思わず問いかけると、彼は優しい笑顔で答えてくれた。


「いや、本当にあの頃のままだなって……お帰り、新庄」


 「うん、心配かけたね、ゴメンね、そしてありがとう……」


 ヨリちゃんの話では佐山君は私の事をかなり心配してくれたようだ


だから〈ありがとう〉という言葉は素直に心から出た、すると私達のそんな姿を見ていたマイミーが急に大声で話し始める。


「かあ~、アンタらを見ていると、私が凄く薄汚れた大人になってしまったと思い知らされてしまうよ。


くそっ、飲もう、今夜はトコトン飲むぞ、付き合いなさいよ、葵‼」


「いや、マイミー、私未成年だから……」


「あそっか、じゃあ、佐山でもいいよ、祝い酒とやけ酒と、どっちでもいいから‼」


体を寄せて酒を進めるマイミーだったが佐山君は申し訳なさそうに言葉を返した。


「いやすまない、俺車で来ていて、この後もすぐに仕事に戻らなければいけないんだ」


この後も仕事に戻るのか、佐山君忙しいみたいだな……でも佐山君って今は何をやっているのだろうか?


そんな疑問を抱いていた私の事を気遣ってでは無いだろうがヨリちゃんが続けて話しかけた。


「ねえ、佐山君、正直、今日は貴方が来られると思わなかったわ、大丈夫なの?」


「ああ、本当はダメだと言われていたのだけれど、何とか説得して無理矢理来た


最後は上の方から許可が出た、俺も少し意外だったのだけれどね」


何だろう、この意味深な会話は?佐山君って一体何の仕事をしているのかな?


その時、不安気な顔を浮かべている私に気が付いたみのリンが私にそっと教えてくれた。


「佐山君は今〈防衛省〉で働いているのよ」


【防衛省】⁉そんな凄い所で働いているの⁉凄い、さすがは佐山君、でもヨリちゃんとのあの会話は一体……


そんな私の心を見透かしたのか、佐山君は優しく微笑みながら私に説明をしてくれた。


「新庄、実はね、今の日本はかなり厳しい立場に立たされているのだよ」


「えっ、そういえばさっきマイミーもそんな事を言っていたけれど、何があったの?」


「ああ、ここからは少しややこしい話になるけど、いいかな?」


「うん、聞かせて、お願い」


私が説明を求めると、彼は力強く頷いた。


「実は新庄がいなくなった翌年の話だ。【帝都大学】の水野教授がある論文を発表した


それは【脳の記憶と思考の情報化によるアウトプットシステムとその活用法について】


という論文だ、平たく言えば〈脳の記憶や思考を外部ストレージに保存し独自に活用する〉という画期的なモノなのだよ」


「外部ストレッチ?」


真剣に話してくれる佐山君には悪いが、何を言っているのかサッパリわからない


私の最新IT知識はRAINやテックトックで止まっていて、そんな宇宙語みたいな理論を理解できるはずもない


でも自分から教えてくれと言い出しておいて、今更わからないとは言い出しづらいし、どうしよう……


困り果てる私に助け舟を出してくれたのはまたしてもヨリちゃんだった。


「ダメよ、佐山君。葵はパソコンとか脳科学とか全くわからないのだから……


いい葵、簡単に説明すると〈記憶と思考をアウトプットして独自に活用する〉というのはね


誰かの脳みその記憶と考え方だけをコピーして他に活用するという事なのよ」


「ほえっ、脳みそのコピー?そんなことが出来るの⁉」


あまりに突拍子もない話にとてもついていけない、まるでSF映画の中の話だ


私ごときの理解が及ぶ範囲ではないだろう。しかしそこは佐山君である、私の素朴な疑問対し丁寧に答えてくれた。


「ああ、理論上は可能らしい。水野教授はこれを〈痴呆症〉や〈アルツハイマー〉の新たな治療法というか解決法として提示した。


それを中国の医療メーカーが多額の出資をするという形で一大プロジェクトが組まれる事になったのだよ


だがそこにアメリカが待ったをかけた」


「どうして?〈痴呆症〉や〈アルツハイマー〉で苦しんでいる人達を助ける為の事業でしょう?


どうして関係ないアメリカが反対したの?」


「この【脳の記憶と思考の情報化によるアウトプットシステムとその活用法について】


という理論は非常に危険だとアメリカは判断したのだ」


何だろう?段々とキナ臭い話になって来た……


「どういう事?」


「この理屈でいくと、理論上は〈誰の脳のコピーでも複製可能〉という事になる。


つまりそれは〈どんな天才の脳でもその知識と思考を永遠に保持することが出来る〉という事に他ならない。


となると天才といわれる人間の知識と思考を何十人、何百人と集めていく事も可能であり


それを一国家が独占、蓄積していけば、その国家が世界に対して、とてつもないアドバンテージを得る事に繋がるかもしれないのだ


そんな危険な技術を中国に流出させ独占させるわけにはいかないと、アメリカは考えたのだよ……」


「それで、どうなったの?」


「アメリカは日本に対して強烈に圧力をかけてきた、もしこれを断行するならば


アメリカとの貿易は勿論の事、日米安保条約を白紙に戻し、アメリカとの同盟関係を破棄すると言って来た


事実上同盟関係は崩れアメリカが敵になるかもしれないという事さ……」


ここまでくれば、いくらこういった事に疎い私でも彼が言っている事がとんでもなくヤバい事だとわかる。


「どうにかならないの?アメリカと日本は仲良しだったのでしょう?」


佐山君は険しい顔をして目を伏せた、私が考えてきるよりも情勢は良くないらしい。


「新庄が居なくなってから世界の情勢は少しずつ変化していった。


中国がどんどんと勢力を伸ばしODA(政府開発援助)を各国にばらまく事によって、今や世界の過半数以上は中国の味方だ


だが軍事力ではまだアメリカもトップの座を譲ってはいない


日本政府はアメリカとの同盟関係を維持しつつ中国とも良好な関係を築いて来たのだが


こうなってくると〈アメリカと中国どちらに付くのだ?〉と迫られる事になったのだよ」


「それで日本はどっちの味方になる事にしたの?」


堪らず問いかけたが佐山君は無言で首を振った。


「日本政府はその態度をハッキリと表明せず、あくまで両者との友好的な関係を継続しようと努力した


だがそれが逆に両国の怒りに触れた〈日和見主義もいい加減にしろ〉とね。


結局明確な返答を示さずズルズルと引き延ばした結果、〈どちらに付くのかハッキリしろ〉と待ったなしの状況に追い込まれたのだ……」


聞いている内にどんどんと嫌な予感が膨らんでいく、私のいなかったウチにこんな事になっていたなんて……


「それで日本はどうするつもりなの?」


「今の首相、畠山総理は今までの経緯を考えてアメリカ側に付くつもりみたいだけれど


今では与党内でも〈中国に付くべきだ〉という意見も少なくない。


民自党ナンバー2である堂本幹事長は中国寄りだし、意思の統一に時間がかかっている様だ


でも返事を引き延ばしたせいで日本はのっぴきならない状態に追い込まれた」


「どういう事?」


「日本がどちらかに付くと表明した時点で、反対側からの攻撃を受ける可能性が高くなったという事さ……」


重苦しい口調で衝撃的な事実を聞かされた、戦争になるって事?嘘でしょう……


「ダメだよ、戦争は絶対にダメ、何とかならないの、佐山君?」


縋る様な気持ちで語り掛けた、佐山君一人の力で何とかなる問題ではない事は重々承知している


だが今は彼にすがるしかないと思えてしまったのだ。


「我々を含め、外交筋や各国の首脳を通じても何とか戦争だけは避けたいと色々と手は尽くしているのだけどね


それほどまでにこの技術は危険だと思われている様だよ」


何てこと、医療の為の技術が戦争を引き起こすなんて……


今まで楽しかった気分が一気に重苦しいものになった。


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