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浦島少女4

その日も雑誌の取材で時間を取られみんなとの約束の時間に遅れそうになっていた。


こう毎日毎日、取材やインタビューを受けているが、私にすれば〈謎の声が聞こえ気を失い、気がついたら十五年が経っていた〉


何度聞かれてもそれだけしか答えることがないのに、なぜこうも取材攻勢を受けるのか?さっぱりわからない。インタビューアーもついには聞くことがなくなってきたのか


〈どんな食べ物が好きですか?〉とか〈どんな男性が好みですか?〉といったどうでもいい事を聞いてくる


私の食べ物や男性の好みなど聞いてどうするのだろう?そんなモノ記事にしたところで面白みなど皆無だろうに、まあ私が気にすることではないのだろうけど……


「遅くなっちゃった、もうみんな来ているかな?」


 最寄りの駅から約束の場所まで急いで走った、まだ昼間だがみんなとの待ち合わせ場所は繁華街の居酒屋だ、未成年?の私が居酒屋に行くのはもちろん初めてである。


目的地に到着し居酒屋の扉から店内に入るとみんなの騒がしく話している声が聞こえてきた私がいなくてもみんな同窓会気分で盛り上がっているようだ。


「おっ、来た、来た、本日の主役ご到着〜‼︎」


 奥の座敷へと案内され皆の前に立つと何故か拍手で迎えられた。


改めて見渡してみると、当然の事ながらみんな既に三十代になっているので随分と大人っぽい


見た目的には同窓会というより〈社会人の飲み会に紛れ込んだ女子高生〉という感じだ。


どうしていいか戸惑いつつ唖然として立ちすくんでいると、三人の女性が近づいてきて突然抱きついてきた。


「うわ〜本当に葵だ、あの頃のままだ‼」


「若〜い。いいなあこのスベスベの肌、私にもこんな頃があったのよね〜」


「テレビで見た時はどこか信じられなかったけど本当だったのね、懐かしいわ〜」


 抱きつかれ頬擦りされながら、やや圧倒され困惑するばかりだったが、その面影と声を聞いてようやく気がついた。


「もしかして、さやちゃん?それとマイミーに、みのリン?」


 このお姉さま方の正体はクラスの中でも仲の良かった三人組だ、それぞれ歳は重ねていてもやっぱりあの頃の面影がある。


「そうよ、忘れたとか言わないでよ」


「心配したよ、葵‼︎」


「でも本当に無事で良かった、今日は飲もうよ‼︎」


 三人が喜んでくれている姿に胸が熱くなる。私にしてみれば先週会ったばかりだが彼女たちにしてみれば十五年ぶりなのだ。


しかし三人から屈託のない笑顔で迎えられ今までと同じ気持ちで接することが出来ると確信し、それから三人と他愛もない話をした。


「ほえ〜、さやちゃん、子供がいるの⁉︎」


「うん、三歳の息子と一歳の娘、今日は旦那に押し付けてきたわ、子育てって本当に大変なのよ。あ~あ、私も女子高生に戻りたい」


 すると不機嫌そうな表情でマイミーが横から割り込んできた。


「あんたはまだマシよ、私なんか二歳の子供を抱えて旦那とは離婚調停中よ」


「えっ、マイミー離婚するの?」


 あまりの展開に頭がついていかない。覗き込むようにマイミーの顔をマジマジと見つめると彼女はコップのビールを一気に飲み干し吐き捨てるように言い放った。


「そうよ、あのクソ亭主、稼ぎは悪いくせに女癖だけは悪くて、二年も前から私より十歳も若い女と浮気していたのよ‼︎許せると思う?」


「えっと、私に聞かれても……」


 質問内容が高度すぎて回答に困る、せめて少女漫画に出てくるレベルでお願いします。


「止めなさいよ、舞美、葵が困っているじゃない。女子高生に何を言っているのよ」


 優しく微笑みかけ助けてくれたのはみのリン、そうだよ、昔からみのリンは優しかった。


「みのリンは結婚しているの?」


 何気なく聞いた質問だったが、みのリンはふと視線を逸らし寂しそうに言葉を発した。


「私は……していないわ……」


 あれ?聞いてはいけない質問だったかな?その時、横からさやちゃんが深刻な口調で話しかけてきた。


「ねえ、みのり、まだあの男と続いているの?」


「うん……」


 なんだろう、何やら不穏な空気が漂い始める、すると今度はマイミーがみのリンの肩を抱いて強い口調で語り始めた。


「大体妻子ある男と付き合うとか言語道断だよ‼︎私は被害者側の女だからね


みのりの味方はできないよ、そんなクズ男とはさっさと別れなさいよ‼︎」


「わかっているけど……」


 うつむいて寂しそうにボソリと呟いたみのリン、話の流れ的にどうやらみのリンは不倫をしているようだ


もう完全に私の許容範囲を越えている、もう何が何だか……


「今日は葵の無事をお祝いする会だよ、そんな話はもう止めようよ」


 さやちゃんが戸惑う私を見て話題を変えるように言ってくれた、でもこの時思い知らされたのである。やっぱり私は彼女たちとは違う、取り残された人間なのだと……


 その時、あることが気になって周りを見渡す私、それに気がついたみのリンが優しく答えてくれた。


「頼子なら遅れてくるって、もうすぐ来ると思うわよ、


佐山君も今は仕事が忙しくて遅れているけど、必ず来るって言っていたわ」


 凄いなみのリン、何もかもお見通しだ。これが大人の洞察力というやつなのかな?


沢城頼子はバスケ部の仲間で私の親友だったクラスメイトだ。


佐山君は……もう説明は必要ないでしょう。二人がどうなっているのか凄く気になる。


それから私は三人に色々な事を聞いた。私の好きだったミュージシャンが薬物所持で逮捕された話とか


担任だった先生が交通事故で亡くなった話とか、そして今の日本は情勢的にかなり厳しいと聞かされた。


「日本に何があったの?厳しいってどういうこと?」


「その話は佐山に聞きなよ、私達より百倍詳しいから」


 マイミーの言葉にそれ以上聞くのは止めた、佐山君が来た時に何を話していいのかわからなかった為


話題としてちょうどいいとすら考えてしまったからだ。だがその考えがどれほど甘かったか、私は後で思い知ることになる。


 しばらくして私達のいる座敷にある女性が息を荒げながら入ってきた。


「ハアハア、ごめん、遅くなって……」


 間違いない、この女性は私の親友だった沢城頼子だ、駅から走って来たのか髪もやや乱れ顔にはうっすらと汗をかいていたが


それが余計に彼女の美しさを際立たせた。そう私の親友沢城頼子はもの凄い美人なのである。


「ヨリちゃん、ヨリちゃんだよね?」


「久しぶり、本当にあの頃のままなのね……おかえり、葵」


 私にしてみれば先週会ったばかりの人間なのだが、なぜか彼女の(おかえり)という言葉に涙が溢れてきた。


「ヨリちゃん、ヨリちゃん‼︎」


 思わず抱きつく私を彼女は優しく受け止めてくれた。ヨリちゃんの体温を全身で感じ余計に涙が溢れてくる


皆が温かく見守ってくれる中で私は彼女の胸で泣きじゃくった。


「葵、貴方そんなに泣き虫だったっけ?」


 問いかけてくる彼女の声も微かに震えていた。しばらくしてようやく落ち着いた私は改めてヨリちゃんを見つめた。


彼女は昔から美人だったが今の姿は女優かと思わせるぐらい美しかった


しかもこのヨリちゃんは見た目だけではないのだ。私も所属していたバスケ部では絶対的エースであり


成績も常に上位、生徒会副会長も兼任していたというスーパーウーマンであった


バスケで大学推薦や実業団にも誘われたらしいがそれを断り、今では総務省に勤める超エリートらしい。


「凄いね、ヨリちゃん、さすがヨリちゃんだよ‼︎」


「何よ、それ、日本語としておかしくない?でもなんか嬉しい、葵を見ていると自分が高校生に戻った気分になれるわ」


 どこか疲れているような仕草を見せるヨリちゃん、どうやらかなり仕事が忙しいようだ。


「大丈夫ヨリちゃん、ところでヨリちゃんは結婚とかしているの?」


 私の質問に目を細め意味深な笑みを浮かべたよりちゃん。


「アンタ聞きにくいことをサラッと言うわね、まあ葵らしいといえばらしいけど……」


「ごめん、聞いちゃダメだった?」


「別にいいわよ、隠すことでもないしね、結婚はしていないわ、付き合った男は何人かいたけれど


どの男もピンと来なかった。〈俺の愛人になれ〉とか言い出す政治家も何人かいたけどね、丁重にお断りしたわ」


「ほえ〜さすがヨリちゃん、なんか大人の話だ……」


「まあ、現に大人だからね、私だって高校生の頃は誰とも付き合っていなかったわよ


そういう意味ではあなたの方が進んでいたのよ、葵」


 ヨリちゃんの言葉に驚いた私は思わず聞き返した。


「何?何の事?」


 するとヨリちゃんはサディスティックな笑みを浮かべて嬉しそうに話し始めた。


「隠さなくてもいいわよ、付き合っていたのでしょ、佐山君と?」


「どうして?どうしてヨリちゃんがそれを知っているの?」


「さあ、どうしてでしょう?佐山君に聞いてみなさい。それにしてもやっぱり葵の反応って面白いわ


心が癒されるっていうか、ぜひウチに置いておきたいわ」


「何よ、それ、意地悪だなあヨリちゃんは。前はもっと優しかった」


 ワザと少しスネる様な仕草を見せ、大人になってしまったヨリちゃんに少し意地悪してやりたかったのかもしれない。


「それぐらいの意地悪は我慢しなさい、あなたが行方不明になって私がどれだけ心配したと思っているの?」


「それをいわれると……なんかごめんね、ヨリちゃん」


「まあ葵が悪いわけでもないしね、これぐらいで勘弁してあげるわ。


それに私よりもっと心配していた人間がいたし、続きはそいつに任せるわ」


 またもや意味深な口調でにやけながら話すヨリちゃん、一体誰のことだろうか?


「誰の事?お母さん?」 


「違うわよ……ほら、そのご本人が到着したみたいよ」


 ヨリちゃんが指さした方向には一人の男性が立っていた。


「ごめん、遅くなった」


 遅れて現れた一人の男性、立派なスーツを着て髪はオールバックにしており、歳を重ねてはいるものの


間違いない、いや間違えるはずもない、たった一日だけの交際期間だったが私の彼氏だった、佐山光一くんその人であった。


頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。

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