浦島少女22
でも交際経験のない高校生の私が抱き合っただけで赤面するのはわかるが
佐山くんはどうなのだろうか?三十三歳のエリート参事官、イケメンで性格もいい
おそらく何人かの交際経験はあるのだろう、少女漫画に出てくるようなこの男性がモテないはずはないからだ
でも佐山くんが他の女性とイチャコラしていると考えただけで不快だ
想像しただけで胸の奥からどす黒いモノが込み上げてくる
なんだろうこれ、もしかして嫉妬というやつ?私はどうしても彼の事が知りたくて
じっと顔を見つめると、思い切って聞いてみることにした。
「あの、佐山くん……聞きたいことが……」
その言葉にビクッと反応した佐山くんは、慌てた様子で答えた。
「いやその、ごめん、つい抱きしめてしまって……でもいやらしい気持ちとかないから
その、新庄の事を思ったら、つい俺も嬉しくなったというか……」
何だ、この態度は?想像以上にウブな反応だ、でもこれが演技だとは思えない
もしかして佐山くんって、本当に純情なのかな?
「佐山くんが〈いやらしい〉とか、思ったこともないよ」
そう返した時、私と彼の目が合った、そしてその瞬間、今朝の裸でバッタリ対峙したことを思い出してしまったのだ。
おそらく彼も同じことを思い出したのだろう、お互い顔が真っ赤になって言葉を詰まらせてしまった。
「あの、あの……」
「いや、その、今朝の事は本当にゴメン、でも見えていなかったから、大事な所とか本当に何も見えていなかったから……」
しどろもどろに下手な嘘をつく佐山くん、あれだけ間近で対峙し、こちらはパニックを起こし硬直していたのだ
見えていないはずがない。私の知らない十五年の間にホテル内には
猥褻なものに対し自動モザイクがかかる謎機能が装備されていたとかならともかく
明らかに嘘だとわかる気遣いをしてくれたのだ、そう思うと何故だかわからないが笑いが込み上げてきた。
「有難う佐山くん、そんな嘘をついてまで気を使ってくれて、本当に優しいね
さっきの事も今朝のことも全部私が悪いのだから気にしないで
でも……今朝のことは忘れてくれると嬉しいな、て、いうか忘れて欲しいのだけれど……」
すると彼は頭をかきながら目線を逸らし、ボソリとつぶやいた。
「うん、わかった、努力はしてみる、でも正直忘れられないというか、目に焼き付いているというか……」
お願いだからそれ以上は言わないで、そういう事を正直に口にしてしまうのが佐山くんなのだ
ますます彼への気持ちが高まっていくのを感じた。
「あと、俺、新庄に嘘をついていた……実は俺が防衛省に入った理由は
正義感とかじゃなくて新庄の事を思っての事なのだよ」
「私の?どういうこと?」
「実は新庄が行方不明になった時、色々な説が流れてね、その中の一つに
〈どこかの国の工作員に連れ去られた〉というのがあって
それなら防衛省に入って新庄を取り戻してやる‼︎って息巻いていた
藁をも掴む気持ちだったし、その、若かったから……」
「じゃあ、私の為に防衛省に⁉︎」
すかさず問いかける私に対して照れ臭そうに小さく頷く佐山くん
私に恥ずかしい思いをさせたから自分も恥ずかしい事を打ち明けたって事?いい人すぎるでしょ……
ずるいよ、女の子がそんな事を聞かされて好きにならないわけないじゃない……有難う、大好きだよ、佐山くん。
佐山くんのおかげで少し落ち着いた私は急にお腹が減ってきて用意されていた昼食を頬張った
サンドイッチにサラダにスープという簡素なモノだったが、ビックリするぐらいおいしかった。
その要因が高級なサンドイッチだったのか、空腹だったせいなのかはわからなかったが
正直そんなことはどうでもいい、とにかくおいしかった。
それから二時間ほどが過ぎた頃、ロッジの前に一台の車が到着し二人の護衛に守られた真由が私の前に姿を表した。
「真由、良かった、無事で……」
「お姉ちゃん、お姉ちゃん、私……」
私たちは引き合うように近づき抱き合うとお互いの無事を確かめ合った
言葉は出て来ず涙だけが溢れ出してくる、今日はどれだけ泣けばいいのだろう、でもそれでもお互いの想いは通じた
これが姉妹、血のつながりというモノなのだろうか?
「良かった、良かったよ、真由が無事で……」
「お姉ちゃん、お母さんとお父さんが……」
「うん、わかっている、私のせいで……本当にごめんね」
「なんでお姉ちゃんが謝るのよ、何も悪いことしていなじゃない」
それからしばらく私達は言葉を交わすことなく抱き合いながらお互いの無事を喜び、両親の不幸を悲しんだ。
三十分ほどが経ち私と真由はようやく落ち着きを取り戻すとお互いの近況報告を聞くことにした。
「でも真由はどうして無事だったの?」
「うん、実は私、真司の所にいて、そこでお姉ちゃんのニュースを聞いたの……」
「真司さんって、婚約者の人だよね?それでどうなったの?」
「マスコミがこぞってお姉ちゃんの悪口言い出したでしょ、
その影響で向こうのご両親が〈結婚を考え直してはどうだ?〉と言い出したのよ……」
最悪だ、私のせいで真由の結婚が⁉︎どれだけ家族に迷惑をかければ気が済むのか……
しかし真由は顔を赤らめ、照れ臭そうに話し始めた。
「でも、真司の奴がご両親にキッパリと言ったらしいの
〈俺達の結婚とお姉さんのことは関係ない、そんな事を言い出す親ならこっちから縁を切ってやる‼︎〉って……」
その言葉を聞いて私がどれほど救われたか、大切な妹の幸せを私のせいで台無しにしてしまうところだった
良かった……止まっていた涙がまた溢れてくる。
「そうなの?いい人だね……すごくいい人だね、真由の相手は」
「うん、本当にいい人、いい人過ぎてちょっと怖いくらい
あの真司がご両親にそんな事を言うなんて……ちょっと惚れ直したわ」
恥ずかしそうに笑う真由は本当に幸せそうだった。
「何よ、人に心配させておいて、ノロケ?」
「いいじゃない、二人きりの姉妹なのだもん、今日ぐらいノロケさせてよ」
涙を浮かべながら笑い合った私達、良かった、真由の結婚が破談にならなくて。
「で、お姉ちゃんの方はどうなっているの?マスコミが滅茶苦茶言っていたけれど」
「私にもわからないの、どうしてこんなことになったのか」
すると、急に顔を曇らせ、沈んだ声で語り始めた真由。
「実はね、マスコミがお姉ちゃんの事を急に悪く言い始めて、心配になったから真司のところから家に電話したの
そうしたらお母さんが出て〈今、家の周りに殺気立った人達がいっぱい来ていて家に向かって怒鳴り声や石を投げてきているって
危険だから絶対に帰ってくるな〉って……」
「そんな事に……」
「それとお母さんからお姉ちゃんに、って〈もし私達に何かあってもそれはあなたのせいじゃない
だから気にしなくてもいい〉って、そして〈あなたが帰って来てくれてお母さんもお父さんも本当に嬉しかったと伝えてくれ〉って……」
真由は言葉を詰まらせながら私に教えてくれた、お母さんもお父さんもおそらく自分達が死ぬかもしれないと悟ったのだろう
そんな時でも恨み言も言わず私のことを心配してくれた両親、今更ながらに親の愛というモノを痛感した
〈親孝行、したいときには親はなし〉とはよくいったもので、親孝行どころか親不孝ばかりしてきた私
本当に御免なさい、私あなた達の子供で良かったと心から思います
そして有難う、ずっと私を見守っていてね、お母さん、お父さん……
そんな感傷に浸っている時、部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。
「はい、どうぞ」
私が返事をすると、入って来たのは佐山くんだった。
「姉妹水入らずのところをゴメン新庄、今、勝間大臣から連絡が入って水野教授を見つけたらしい」
「そうなの?良かった、これで無事解決だといいね」
「ああ、これも新庄の協力のおかげだよ」
「私何もしていないよ、佐山くんには助けてもらってばかりじゃない」
そんな私達のやりとりを聞いていた真由は、突然私の服の袖を掴み引っ張ると、耳元に小声で話しかけてきた。
「ねえ、このイケメン誰?随分お姉ちゃんと親しそうだけど……」
不思議そうにジト目で私に問いかけてきた。
「えっと、紹介するね、この人は佐山光一くん、防衛省の参事官で私の同級生というか、その……」
私がどう説明すればいいか迷っていると、佐山くんが真由に向かって颯爽と右手を差し出し真由に向かって微笑みかけた。
「初めまして新庄真由さん、私はお姉さんの新庄葵さんの元同級生で
彼女とお付き合いさせてもらっている佐山光一です、よろしく」
うわ〜言い切った、おつきあいさせて〈もらっていた〉という過去形じゃなく
〈もらっている〉という現在進行形で……この人のこういうところは本当に男前だ。
すると真由はポカンとした顔をして理解できないようだったが、急に我に戻ると
もの凄い勢いで私の両肩を掴み、顔を近づけて来ると激しく揺らしながら尋問する刑事のごとく問いかけてきた。
「ねえ、ちょっと、どういうことよ、お姉ちゃん、このイケメンエリートが彼氏⁉︎
て、ことは十五年間もお姉ちゃんを待ち続けていたって事?何それ、少女漫画じゃあるまいし⁉︎」
その疑問は当然だと思います、返す言葉もございません、何を隠そう私自身が一番驚いているのですから……
そういえば私の愛読している少女漫画を真由もよく見ていたな。
「ええ、私が防衛省に入ったのもお姉さんを探し出すためでして
何せ私はあなたのお姉さんに〈ぞっこん〉なのですよ」
私には恥ずかしそうに隠していた事実を、どうして真由にはスラスラと言ってしまうかな?
やっぱりこの人天然?それともジゴロ?
「何この人、今の今まで真司よりいい男はいないと思っていたのに
光の速さで追い抜かれて行ったわ。お姉ちゃんって、そんなにいい女ですか⁉︎」
「ええ、少なくとも私にとっては世界一の女性ですよ」
止めて、そんな真剣なイケメン顔で言うのはもう止めて、止めないのならせめて私の前でだけ言って。
私はそんな大層な女ではありませんよ、ちょっと少女漫画が好きな夢みがち女で
ちょっと食い意地が張っていて、ちょっと胸が小さくて、ちょっとおっちょこちょいで裸を見せてしまうくらいで
ちょっとお調子者で、ちょっと……あれ?佐山くん、私のどこが気に入ったのだろうか?
なんだか自分の事を思うと急に悲しくなってきた……
そんな思いを知る由もない真由はもの凄い目で私を見ていた。止めなさい、お姉ちゃんをそんな目で見るのは……
「もしかして、お姉ちゃんって、もの凄いテクニシャンとか?」
こら、なんて事を言い出すのはしたない、あなたは一応嫁入り前の女性ですよ
お姉ちゃん、あなたをそんな風に育てた覚えはありません。
おそらく真由の方も私に育てられた覚えはないだろうが……
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