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浦島少女20

メラメラと燃え上がる炎は目の前の全てを飲み込み


私の様々な思い出が詰まったわが家を容赦なく焼き尽くしていた


悪魔の吐息の様な黒煙が勢いよく上空へと立ち上がり


その周りにはバットや棒を持った人達が焼ける我が家を取り囲む様に見上げていた


陰々とした空気の中で、激しく燃える炎と周りを囲む人々


それはまるで〈生贄の儀式〉とでも言いたげなおぞましい光景であった。


「嫌あああ―――‼、お母さん、お父さん、真由―――‼」

 

あまりに凄惨なモノを目の当たりにし、思わず車から飛び出して叫んだ


胸が張り裂けそうなぐらい心が痛い、血の涙が出ているのかと思える程の苦しさを味わった。


「ダメだ、新庄、外に出ては‼」

 

車から飛び出した私を見て慌てて駆け寄って来てくれた佐山君、だがその事を皮切りに人々の注目がこちらに向いた。


「おい、あれって……」


「ああ、間違いない、〈浦島少女〉だ」


「あいつのせいで俺の家族は殺されたのだ、ちくしょう、許せねえ」


「殺してやる、ぶち殺してやる……」

 

武器を持った民衆はこちらにゆっくりと近付いてくる、それはもはや巨大な悪意の塊といっても良かった


中には高齢のおじいさんや私と同じぐらいの女学生もいた


そんな人達がギラギラと殺意の目を光らせながらこちらに向けている


だが私も怒りが収まらない、ジリジリと迫って来る人達に向かって思い切り叫んだ。


「どうして私の家族を殺したのよ‼お母さんやお父さん、真由が何をしたというのよ‼」

 

それは心からの叫びであった、悲しい、苦しい、痛い、そして憎い。


私の大切な家族をこんな目に合わせた人達が憎い、殺してやりたいほどに……

 

私は目の前の人たちを敵意の目で睨みつけた、怒りと悲しみで頭が変になってしまいそうな程、胸の中の思いが溢れていた。


「近寄るな、それ以上近づくなら発砲する、下がれ‼」

 

佐山君が拳銃を構えて威嚇する、一瞬立ち止まった民衆達だったが


横から投げられた石が佐山君の頭を直撃し思わず片膝をつく


それが呼び水となったのか民衆達は一斉にこちらに襲い掛かって来たのだ


他のSPの人達も拳銃を構えているのだが、やはり一般の人達を撃つのは気が引けたのか


上空に向かって威嚇射撃をするが、その隙に一気に間合いを詰めてきたのである


殺意と怒りを呪詛の様に口にしながら怒涛の様に押し寄せる人達


それは悪意に支配された津波のようであった、何発か銃声が響き渡り、先頭を走っていた数人が倒れたが


それでも勢いは止まらなかった。手に持っている武器を振り上げ猛然と私を殺そうと迫りくる人達だが


私はそんな人達を睨みつけ一歩も引かなかった、私の大切な家族を殺した奴らを怖がってなんかやるもんか


例えここで殺されたとしても、気持ちだけは絶対に……

 

先頭を走る男性がグングンと私に迫って来る、もの凄い形相で私を睨みつけ


目の前で手に持っている棒を勢いよく振り上げると、今まさにそれを振り下ろそうとしていた。


ああ……死ぬのかな、これ……私の人生って何だったのだろう


もし、あの世の世界というモノがあるのなら、お母さんとお父さんと真由に謝ろう、ゴメンね、って……

 

死を覚悟したその時、目の前の男性の首が跳ね飛んだ


切断部から噴水の様な血が噴き出し、首の無くなった男性の体は糸の切れたマリオネットの様に力なく崩れ落ちた。


「えっ、何が……」

 

事態が把握できずに困惑していると、襲い掛かって来る人達が次々と血しぶきを上げて倒れていく。


何、何が起こっているの?呆然としながらよく見てみると、フェイさんが手に長い剣を持ち


私を守ってくれていたのである。その剣先からは先程斬り捨てた人達の血がポタポタと滴り落ちている


騒然とした空気の中でフェイさんだけが息も乱さず、何事も無かったかのようにたたずんでいた。


「ご無事ですか?今から葵様に危害を加えようとするものは全て排除します、いいですね?」

 

その問いかけに私は無言で頷いた、家族を殺し私をも殺そうとした人達なんか死んで当然だ


その時の私はその事を微塵も疑わず、躊躇する事も無くそう思ったのである。

 

私の言葉に小さく頷いたフェイさんはまるで作業でもするかの様に目の前の人たちを次々と斬り捨てていった


苦痛と絶望の絶叫が辺りに響き渡り、壮絶な断末魔の中で血飛沫が舞い首が跳ね飛ぶ。


フェイさんは人数差などお構いなしに憎悪の意志を持った人間をただの肉塊へと変えていく。


ここまで一方的な戦いになるとさすがに民衆側もひるんできて戦意を喪失し始めた者もチラホラ見え始めるが


そこに情けや容赦という言葉は無く、明らかに勢いを失くした民衆達をも次々と斬り倒した。


「だ、ダメだ、逃げろ‼」

 

民衆の一人が逃げ始めると、それにつられるかのように次々と逃げ出し始めた人達


蜘蛛の子を散らすようにチリジリに居なくなりあっという間にほとんどの人がいなくなった。


一種の集団心理というヤツだろうか?怒りによって衝動的に突き動かされていたモノが


恐怖によって正気に引き戻されたのか……でもそんな事はどうでもいい。

 

目の前には燃え盛る我が家と数十人の死体、パチパチと燃える音に血と臓物の嫌な臭いが嫌でも現実を突きつけた


目の前に広がる凄惨な光景は正に地獄絵図であった。


「どうして、こんな事に……」

 

あの時、私がフェイさんに〈なるべく人は殺さないで〉と頼めばもっとマシな事になっていたのだろうか?


今更そんな事を考えても後の祭りである。この目の前に広がる悲惨な光景の半分は……


いや大部分は私の責任だ、私はそれだけの罪を背負わなければいけない


でも、まだ大切な家族を殺した連中を許せないという気持ちが消えない。


〈戦争はダメ〉と口で言いながらこの憎悪の感情が戦いを引き起こし


それを相手にぶつける事によって憎しみの連鎖へと繋がっていく


もう何が正しくて何が間違っているのか、わからなくなっていた。


「ごめんなさいフェイさん、嫌な事を押し付けてしまって……」

 

私を守る様に静かに横に立っているフェイさん。今更ながら、自分のやったことが怖くなってきた


自分でやらせておいてそれを後悔し怖くなってくるとか、とんだマッチポンプだが


フェイさんは何事も無かった様に無感情の表情を浮かべていた。


この人はこんな凄惨な戦場を何度もくぐり抜けて来たのだろう


わかっていたつもりでも何にもわかっていなかったのだ、私はどこまで愚かなのか


感情と理性は必ずしも一致しないと思い知りこの気持ちのやり場をどこに持っていけばいいのか……


そんな事を考えていると、私の横をスッと通り過ぎ前方へと歩いて行くフェイさん


何をするつもりなのだろう?とその後姿を目で追っていると、その先には一人の子供がへたり込んでいた


小学生の五、六年生ぐらいだろうか?手に石を持ちながら尻もちをついてガタガタと震えている


その子供の目の前に立ち止まったフェイさんはゆっくりと剣を構えたのである


目の前で剣を振り上げられた男の子は言葉も失い、只々恐怖で震えていた、えっ、まさか……


「少年よ、覚悟を決めろ」

 

冷徹な言葉と視線をぶつけるフェイさん、恐怖に縛られ


逃げる事も出来ず目の前の脅威を見上げているだけの男の子、その瞬間、私は叫んだ。


「止めて、フェイさん‼」

 

間一髪間に合った、今にも振り下ろされそうだった剣を寸前のところで止めてくれた。


「止めて、フェイさん、まだ子供じゃない、許してあげてよ」

 

そんな私の言葉に目を閉じ、一旦間を開けてから静かに話し始めた。


「葵様が止めろとおっしゃるのであれば止めますが、この少年は佐山に石をぶつけ


暴動のきっかけを作った張本人です、この様な子供の投げた石でも当たり所が悪ければ怪我では済みません


ましてや暴徒共のほう助をしたという意味では戦犯と言ってもいいでしょう。


人を殺す意思がある者に大人も子供もありません、相手を殺す意思があるのならば


当然自分も殺される覚悟が必要なのです〈相手は殺すが自分は殺されたくない〉


などという都合のいい理屈は戦場にはないのです」

 


もっともな意見である。私自身殺されそうになったのだから……


そして相手が殺されても当然などという恐ろしい考えに染まっていたのだから、でも、やっぱり……


「ごめんなさいフェイさん、私が甘かった。でも、この子だけは、お願い……」

 

フェイさんは私の理不尽ともいえるお願いを聞いてくれた、


手に持っていた剣は宙に溶け込む様にスッと消え去り、目の前の少年に向かって言い放った。


「少年よ、今回は葵様のお慈悲で命を助けるが二度目は無いと思え


今度この様な真似をしたら、容赦なく叩き斬る、いいな」

 

そう言い放ち、少年に背中を見せ立ち去るフェイさん、すると頭から血を流した佐山君が首を振りながら近づいて来た。


「すまない、新庄……君を守るなんて偉そうな事を言っておきながらこのざまだ、本当に面目ない……」


「そんな、でも大丈夫?」


「ああ、俺はたいしたことは無い、しかし……」

 

私達は目の前に広がる凄惨な光景をマジマジと見つめた


これが本当に日本で起きた事なのか?と疑いたくなる程の地獄が広がっているからだ。


「あの……フェイさんは、罪にはならないよね?私がやらせたのも同然だし、もし罪になるのなら、私が……」

 

そんな不安を払しょくする様に、佐山君はいつもの笑顔で答えてくれた。


「さすがに少々やりすぎた感はあるが、殺意を持って襲ってきた相手に応戦しただけだからね


正当防衛と過剰防衛の境目といったところだけれど、そもそもフェイさんはこの世界の住人じゃないし


法的にはやや微妙だ、何より新庄は世界の救世主ともいえる人類の切り札だ


それを守ってくれたのだから、フェイさんのやったことはこの世界を救ってくれたことに他ならない


法的な問題はともかくとして、総理や勝間大臣が何とかしてくれるさ」

 

すると、そこにフェイさんが割り込んで来る。


「そんな事はどうでもいい、それにしても佐山、貴様は役に立たな過ぎだ


葵様に何かあったらどうするつもりだったのだ?殺意を向けて襲ってくる集団に対し、威嚇とか、急所を避けた

攻撃とか


ぬるい事を考えているからそんな目に合う、敵は確実に一撃で仕留める、しかも効果的ならばなおよい


私があえて敵の首を飛ばしたのにはちゃんとした理由があるのだ、大体貴様は……」

 

それからしばらくフェイさんによる、佐山君への説教は続いた。


そのやり取りを見て少しだけ元気をもらった気がした。


二人とも家族を失った私を励まそうと、色々と考えていてくれる、本当にありがとう。


かなり遅れて消防車が到着した。先に到着していた政府の人達が暴動の人達の死体を片付けていて


大量殺人のゴタゴタは〈超法規的措置〉というヤツで処置したらしい。


余計な事件に巻き込まれる事はなかったが、まだ燃え続ける我が家を見て


何とも言えない複雑な気持ちになり思わず涙がこぼれてくる、そして去り際にあの男の子が私に向かって。


「パパとママを返せ‼」

 

という叫び声がいつまでも私の耳に残っていた、両親を殺された私がそんな事を言われるのは正直納得できないし


腹立たしい気持ちもあるのだが、あの子もご両親を今回の戦いでなくしたのだろう


それを思うとあの男の子に対する怒りは少しだけ抑えることは出来た。


でもそのセリフは私が言いたいのよ‼と叫びたいほどだった


そしてお母さん、お父さんにもう一度謝りたい、ゴメンなさい、私のせいで……


最後まで迷惑ばかりかけてしまって、帰りの車の中で、私は必死に声を殺して泣いた


多分佐山君とフェイさんは気づいているだろうけど、そこには触れないでいてくれた。


ちゃんと立ち直って、みんなの為に頑張るから、明日から一生懸命頑張るから、今日だけは泣かせてください、すいません……


ゴメンね、お母さん、お父さん、そして真由、もし私が天国に行けたなら、そこでいっぱい謝るから、今まで有難う……


頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。

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