浦島少女2
私の知っている妹は小煩く、いつも私の後ろをちょこちょこついてくるような可愛らしい子だった。
それがいつの間にか私より十歳も年上の大人の女性に変貌していたのである。どうりでどこか見覚えがあったのも頷けた。
しかし理解するのと納得するのは別問題である、あまりの事態に脳がパニックを起こし思考が追いつかない。
本日二度目の思考停止、いや正確には十五年ぶりの思考停止になるのでしょうか?
いやいや今はそんな事を言っている場合ではないだろう、私は確認を含めてもう一度問いかける。
「本当に、本当に真由なの?」
「うん、そうだよ、お姉ちゃん。それでね……私、来月結婚するの」
「ほえ〜〜‼︎」
思わず素頓狂な声をあげてしまった、そりゃあそうだ。突然聞かされた妹の結婚報告
あの真由が人妻になるの?お姉ちゃんは初めて彼氏ができたと浮かれていたのに妹にものすごい勢いで追い抜かれた
いや二十七歳なら普通にアリか……もう何が何だか……
それから私はなんとか心を落ち着かせ母と妹から事情を聞いた。
私が突然行方不明になり家族はパニックになったようだ。
警察に捜索願を出しクラスのみんなも張り紙などして私を探してくれたらしいが手がかりは無く警察の捜査も打ち切られたらしい
そして法律的にはもう私は死亡したとして処理されているらしい、なんて一日だろう……
「で、お姉ちゃんはどこに行っていたのよ?しかも十五年前の姿のままって……一体どうなっているのよ?」
妹の疑問は至極当然である、しかし私はその質問に答えることはできなかった。理由は簡単だ、なぜなら〈こっちが聞きたい〉からである。
「本当にわからないの。学校帰りに急に意識を失って倒れてしまって、目が覚めて家に帰ってきたら何故か十五年経っていた。本当にそれしかわからないのよ……」
自分の身に起きた事をありのまま話したのだが、それを聞いて呆然と私を見つめる母と妹。
まあそりゃあそうだろう、私も自分で言っていて〈なんじゃそりゃ?〉と言いたいからだ。
そしてこんな時こそ、この言葉が合うのだろう〈これ、ドッキリですか?〉と。
しかしどうやら夢でもドッキリでも無いようだ。どうしていいのかわからず途方に暮れる私を見て真由がクスリと笑ってこう呟いた。
「まるで浦島太郎だね、お姉ちゃん」
そう、私は現代の浦島太郎の様だった、亀を助けた覚えはないのだけれどな……
そもそも亀って何かヌルヌルしてそうで気持ち悪いから〈背中に乗れ〉と言われても絶対に乗らないだろう。
ましてや喋る亀とか意味不明だし、何より私なら玉手箱は絶対に開けない。
それにしてもせっかくできた彼氏ともたった一日で破局か……短い付き合いだったな
いや考えようによっては十五年付き合ったことになるのかな?どっちにしても虚しいだけだ……
それから一時間ほど経った頃に父が帰ってきた。知らない内に頭は禿げ上がり母親よりもずっと老けている印象を受けた。
しかし涙を流し喜ぶ両親の姿を見てこちらも涙が溢れてくる
私にとっては久々でも何でもないのだが自分が愛されているという実感を目の当たりにし、改めて親の愛というものを感じずにはいられなかったのである。
その夜は久々?に妹と一緒に寝た。私の知っている真由はいつも私の布団に潜り込んで来る甘えん坊のイメージだった。
もはや私より十歳も年上の妹が同じ行為をしてくることは何か不思議な気がしたが
そこは二人きりの兄弟である、思いの外違和感なく受け入れられた、血の繋がりって凄いなと改めて認識させられた。
「フフッ、こうしてお姉ちゃんのお布団に潜り込むのも超久しぶりだね」
「そう?私にとっては一週間ぶりぐらいなのだけど」
「そっか、でも嬉しいよ、お姉ちゃんが帰ってきて、もうどこへも行っちゃダメだよ」
屈託のない笑顔でそう語りかけてくる妹の真由、こういうところは十五年たっても変わらないのだな……
「私が自分の意思で出て行った訳でも無いのだから、出て行くつもりはないけどね。でも真由は来月結婚するのでしょう?だったら、先にこの家出て行くのは貴方じゃない」
すると真由は唇を尖らせ不満げにつぶやいた。
「だってさ、このタイミングでお姉ちゃんが帰ってくるとは思わないじゃない、あ~あ、知っていたら結婚ももう少し先に伸ばしたのになあ……」
「ダメだよ、そんなの。せっかく結婚するのにそんな理由で延期とか
もしそれが理由で破談にでもなったら、お姉ちゃん申し訳なくてみんなに合わせる顔がないよ」
真剣に心配する私を尻目に、真由はクスリと笑った。
「大丈夫よ、あの人私にベタ惚れだもん、少しぐらい結婚を延期したところでどうって事ないわ
逆にガタガタ言う様なら〈じゃあこの話無かった事にして別れましょうか?〉と言ってやれば何年でも待ってくれるわよ」
恐ろしいことをサラッと語る妹の顔は間違いなく大人の女性であった。
今、十五年が過ぎていた事を痛感する。真由は私が愛読していた少女漫画のステージを通り越してもはや昼ドラの世界に突入しているようだ
まさか妹に恋愛の事を教わる日がくるとは……
「だから今日は一緒に寝よう、お姉ちゃん」
布団の中で無邪気に抱きついてくる姿は私の知っている真由だった
十五年経ってもこうして姉として慕ってくれる妹の姿に思わずホッコリしてしまった、そこで私は少し気になる事を聞いてみた。
「でも、真由だってその人のことを好きなのでしょう?」
ド直球な質問だが、何処か強がる妹に少し意地悪してみたかったのかもしれない。
すると真由は何か思う所があったのか、顔を背け少し照れ臭そうに口を開いた。
「そ、そりゃあ、まあ結婚するのだし……嫌いじゃないわよ……」
恥ずかしそうなその姿を見て、益々意地悪な気持ちと好奇心が湧き上がってくる。
「嫌いじゃないとか、何それ?好きなのでしょう?愛しているのでしょう?ホレホレ、正直にお姉ちゃんに言ってみ」
妹の恋バナ?に興味津々の私はノリノリで質問をぶつける、すると真由は唇を尖らせ私を睨んできた。やばっ、言い過ぎたかな?
「お姉ちゃんの意地悪、そういうところは全然変わってないよね?」
そりゃあ変わっていないでしょう、真由と違って私は一日しか経っていないのだから。
「そりゃあ……まあ、好きだから結婚するのだし、私だって真司のことは……もういいでしょ、お姉ちゃんなんか知らない‼︎」
急に背中を向けてしまった真由。十五年経っても真由は真由だ、私の可愛い妹だ。私はそんな妹の背中にそっと抱きついた。
「ごめん真由、でもおめでとう。お姉ちゃん、すごく嬉しいよ。その真司っていう人、すごく良い人なのでしょう?」
「うん、すごく優しい……私がどんなにわがまま言っても滅多に怒らない穏やかな人。
もう少し男っぽくてもいいかなとは思うけれど、私には合っている感じなの」
背中を向けながら恥ずかしそうに語る姿に、私も何か胸が温かくなってくる。
「じゃあ、その真司さんに今度合わせてね」
「うん、今度ね……」
何故だかはわからないがもの凄く嬉しかった。いい人に出会えてよかったね、真由、そしておめでとう……
私はもう一度妹の背中を強く抱きしめた、体がふれあい真由の体温が直接感じられて身も心も温かくなる
そしてもう一つだけ気になったことがあった。真由の胸大きいなあ……私も大人になればもっと大きくなるのかな?
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