浦島少女19
〈臨時ニュースです、視聴者の皆さま大変な事実をお知らせいたします。
先日、東京、大阪名古屋、横浜、札幌、福岡を襲った謎の生命体、この正体と所属はまだ不明ですが
確かな筋によりその目的が判明しました。あの恐るべき怪物は最近話題になっていた
十五年前からのタイムスリッパ―〈浦島少女〉こと新庄葵さんを追ってこの世界に来たという事が判明したのです。
どういう経緯でこうなったのかはまだ不明ですが、政府としては
この新庄葵さんを相手側に引き渡す事も視野に入れ現在検討中との事です
この未曽有の危機に対し、日本政府が世界に対してどういう態度と方針を示していくのか、注目されています……〉
「何、これ?……」
私はテレビに映る自分の写真や最近出演した映像を見せられ呆然としてしまった
先程の事など何処かに吹き飛ぶほどの衝撃、どこのチャンネルに変えてみても何処の局も私の話題ばかりである
まるで私が犯人で全国指名手配されたかのような扱い、あれ程チヤホヤしてくれていたテレビ局が信じられないような掌返しをしてきたのである。
最も信じられなかったのは、この大惨があたかも〈全て私のせいだ〉と言っている風に報じられているという事だった。
あまりの事態に頭がパニックになってしまう、何で?どうして?そんな言葉ばかりが頭をグルグルと回る
次第に平衡感覚すら怪しくなってきて足元がふらつき、ついには立っていられなくなり思わずよろめいた。
「大丈夫ですか⁉」
後ろ向きに倒れそうになるところをフェイさんが支えてくれた
しかし何がどうなっているのかさっぱりわからない、どうしてこんな事に……
「くそっ、どうなっているのだ⁉新庄の事は政府の中でも一部の人間しか知らないはずのトップシークレットだぞ
しかもこの酷い偏向報道、どこの馬鹿がこんなデタラメな情報を流したのだ⁉各マスコミに厳重な抗議をして止めさせてやる‼」
激しく憤る佐山君、早速どこかに電話してこの報道を止めさせようと抗議してくれていた
何度も電話口で声を荒げて怒鳴っていたが、その会話の内容から、あまりこちらの意向は組んでくれない様である。
そう私も知っている、売れっ子でちやほやされていたタレントでも、ひとたびスキャンダルを起こすと
マスコミは手のひらを返して一斉に叩くという現象を……
今までは芸能界の事だったので〈他人事〉として気にも留めていなかったのだが
ひとたびそれが自分に向いた時、これ程恐ろしいモノなのだと身をもって知る事になった。
「くそっ、ダメだ、どこのマスコミも言う事を聞かない〈報道の自由〉の一点張りだ
これは国民の生命にかかわる重大な問題なのだぞ、なぜ報道管制が敷かれていない、政府は何をやっているのだ‼」
怒りをぶつける様に壁を拳で殴り、苛立ちを隠せない佐山君。
「この発表は止められないのか?」
フェイさんの質問に、顔をしかめて頷く佐山君。
「ええ、国家の機密に関した重大な問題だから、誰からの情報なのか教えてくれと言っても
〈情報源には守秘義務がある〉と教えてくれない。そもそも新庄は未成年だ
実名で報道するのは間違っていると抗議しても〈戸籍上では三十三歳だから問題ない〉とぬかしやがった
くそったれが‼」
吐き捨てる様に言い放った佐山君、何、私どうなってしまうの……
「新庄、とりあえず君はマスコミから身を隠した方が良い、
おそらく政府側に情報を漏らしている奴がいる、だとすればこのホテルもバレている可能性が高い
大至急、ここを移動する準備をしてくれ」
私は言われるがまま逃げ出す準備を始めた、別にこのホテルに未練はないが
こんな事で離れる事になるとは夢にも思っていなかった。
その時、何かに気が付いたフェイさんが佐山君の腕を掴み深刻な表情で問いかけた。
「おい、佐山、先程の発表は国内全てに発せられたものなのだよな?」
「ええ、ほぼ全局が新庄の事を報道していましたから、ほとんどの人間は知っていると思いますよ」
すると、今度は佐山君の両腕を掴み、グッと顔を近づけて問いかけた。
「だったら、葵様のご家族が危ないのではないか?」
その言葉を聞いた瞬間、佐山君は大きく目を見開き、私は全身の力が抜けその場で崩れ落ちた。
嘘でしょう⁉お父さん、お母さん、真由が私のせいで……
佐山君は急いで地元警察に連絡してくれたが今は警察もそれどころではなく
家族の保護の為の人手は回せないとの事だった。嫌な予感がどんどん膨らむ
考えただけで足がガタガタと震え気絶しそうなほどの恐怖が襲ってきた。
「フェイさん、新庄の事を頼みます、俺は新庄のご家族の所へ行ってきますから‼」
クルリと身をひるがえし、急いで私の家族の元へと向かおうとする佐山君。
「待って、私も行く‼」
急いで向かおうとする佐山君を引き止め、私も行くと告げた。
「いや、しかし、君は……」
「私の家族だもん、行く、連れて行って、お願い‼」
こんなに真っ直ぐ佐山君を見たのは初めてかもしれない、そんな事を気にする余裕もない程に居ても立ってもいられなかったのだ
佐山君は迷っていた様でチラリとフェイさんの方へと視線を向ける。
「葵様の事は私に任せろ、どんな事をしてもお守りしてみせる」
少し考え込んだ佐山君だったが、フェイさんの言葉に決断してくれたのか、小さく頷き微笑んでくれた。
「わかったよ、一緒に行こう、俺も新庄を守ってみせる。フェイさんばかりにいい所は持っていかれたくないしね、じゃあ急ごう‼」
私は急いで出発の準備を整えると、佐山君が運転する車へと乗り込んだ。
ガレリアの襲撃からまだ三日しか経っていない為、交通状態も悪く、中々思うように進めない。
車の窓から外を見ると、建物が半壊し瓦礫となっている場所もあり
私が友達と行った事のあるパン屋もシャッターが閉まっていた。
所々で信号機も機能を停止していて、警察の人が交差点で車を誘導しているのを目にした。
見慣れない光景、戦争でも起こったのかと思える様な悲惨な街並み
これが世界でも一、二のGDPを誇る大都市東京なのか?と思う程
別世界が広がっていたのだ、しかしこれでも東京はまだマシな方で
福岡や札幌はもっとひどい事になっているらしい。
会議やテレビでその事は聞かされてはいたが、こうして自分の目で見てみると
目を覆いたくなるような気分になった。
しかしなぜこれが〈私のせい〉という事になるのか?納得できないというより怒りすら感じる
モヤモヤとした気持ちが胸を駆け巡りどうにも腑に落ちない。
〈気にすることは無いよ〉と佐山君は言ってくれるが、気にするなというのが無理な話だ
日本中の都市を破壊し、たくさんの人を死なせたのが〈私のせい〉だと報道されたのだ。
今や私は〈浦島太郎〉から〈厄災を持ち込んだ最大戦犯〉の様な扱いになっていた。
テレビ局の番組内で話したコメンテータの人達も、あの時は私の事をチヤホヤしてくれたというのに
今では〈性格に異常性を感じた〉とか〈危険な思想の持ち主だった〉とか好き勝手な事を言ってくれている
何なのだろう、この大人達は……
そんな鬱屈とした思いを抱えながら目的地のわが家へと急ぐが、そんな気持ちとは裏腹にとにかく渋滞で進まない
これでも緊急車両扱いで優先的に道を開けてもらっているのだが、とにかく遅々として進まないのだ
家に電話をかけても通じない、嫌な予感と想像が頭を駆け巡る
車を降りて走って行った方が早いとも思えたが〈この状況で私が姿を見せるのは危険〉と言われ思いとどまった。
私には佐山君の他にも護衛のSPの人が数人付いていてくれるが
気分的には護衛されているというより護送されているといった感じである。
通常であれば四十分ほどで着く距離なのだが、わが家に到着するまで三時間以上かかった
気持ちは焦るがこればかりはどうしようもない、それでもようやく近所まで到着し
見慣れた街並みが見えてきて気持ちは逸る、お願い、みんな無事でいて……
だがそんな私の思いは見るも無残に打ち砕かれた、いよいよ家の近くまで来た時
ある異変に気が付く、悪意を具現化したような黒煙が濛々と立ち上り
吸い上げられるように空へと上昇しているのが目に入って来たのだ、まさか、まさか……
そして私は恐るべきものを目の当たりにした、自分の家が真っ赤な炎で包まれていたのである
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