浦島少女17
それから二日間、敵側に特に動きはなく、私は役に立つこともないまま〈場違い感〉を振り払い
フェイさん、佐山くんと共に今日も早朝から会議に参加していた。
「何をやっておるのだ、ガレリアの秘密工場はまだ発見できないのか‼︎」
相変わらず、テンション高く怒鳴りちらしている新崎さん
私も少し慣れてきて〈いつもの光景〉とばかりに眺めているのだが
周りの人達は戦々恐々としている様に見えた。
「申し訳ありません、〈内調〉、〈陸幕二課〉を始め各地方の警察もできるだけ協力してくれているのですが
まだ発見には至っておりません」
「くそっ‼︎」
相変わらずリアクションの大きい新崎さんは激しく机を叩き、悔しさを滲ませていた。
そんな重苦しい空気を払拭するかの様に、防衛庁の男性の一人が手を挙げてフェイさんに問いかけてきた。
「あの、フェイ殿、念の為にお聞きしたいのですが、例のガレリアの製造には本当に大規模な設備が必なのでしょうか?」
「ああ、一体、二体ならともかく、あれだけ大量のガレリアを製造するのにはかなりの設備が必要なはずだ」
「そうですか……」
その言葉を聞いて意気消沈する防衛省の人達、当初は比較的簡単に見つかるのではないか?
と考えていた様で、皆焦りを感じている様だった。
「こうしている間にも続々とあの化け物の製造が行われているのだ、探せ、何としても。
廃工場や倉庫跡なども徹底的に調べろ、草の根を分けてでも探すのだ、いいな‼︎」
新崎さんの叱咤激励?で会議は終わった、もちろん私は会議で何かを発言する事はなく、只々黙って座っている事に終始した
また何かおかしな事を言って恥をさらす事はしないと、学習
したからである
しかしそこには少なからず後ろめたさも感じていた。
「何か私、役に立ってないな、こんな時だから何かしたいのに……」
防衛省から宿泊しているホテルへ移動する車内で、少し落ち込んでいると
フェイさんがいつものように優しく語りかけてくれる。
「いえ、葵様はこの世界の中で一番役に立っている人物ですよ。
ガレリアが出てきた場合、この世界で対処できるのは葵様だけなのですから」
「そうだぞ、新庄、君は人類の希望だ、もっと胸を張っていればいいよ」
相変わらず佐山くんも優しい言葉をかけてくれる。胸を張れるほど私の胸にはボリュームはないが
そこはポジティブに考えよう、二人ともそれでいいと言っているのだから……
でも佐山くんは胸の大きい子が好きなのかな?今考えることではないのだが、つい気になってしまった。
そんな時である、私のお腹が突如〈グウ〜〉と、盛大な爆音を奏でたのである。
突然のハプニングに頭が真っ白になってしまった、そういえばまだ朝ごはんを食べていなかった
男の人が二人もそばにいるというのに何という失態、気の緩みによるあきらかな緩怠
女子高生にあるまじき醜態、人間こんな時にもお腹は空くのだと、今更ながらに実感した。
今の聞こえたかな?でも聞こえていたとしてもここは聞こえてないフリをしてほしい
好きな人の前でお腹が鳴るとか恥ずかしすぎる、ここはどうか武士の情けで……
「どうやら葵様は空腹のようですね、腹の音がここまで聞こえてくるとはかなりの状態です
宿泊所に着いたら早速食料を用意させて……」
「わ~、わ~、止めて‼︎そんな具体的に言わないで佐山くんの前で、恥ずかしすぎるから‼」
そうだった、フェイさんはこういう人だった、私は顔から火が出そうなくらい恥ずかしく顔が熱っているのがわかった、
もうまともに佐山くんの顔を見られないじゃない……もっと頑張ってよ、私のお腹。
いや、お腹の立場としては頑張ったからこそ、精一杯の主張として
〈早く食べ物をよこせ‼〉と訴えてきたのだろうから自分の役割をしっかり果たしていると言えなくもない
だから自分のお腹を責めるのは筋違いだと言われるかもしれない。
しかしお腹は私の体に所属する一機関なのだから私の命令は絶対でしょう
理不尽と言われようが、ブラック体質と言われようがこの経営方針を変えるつもりはありませんから……
しかしそんな私たちの会話を聞いていた佐山くんがクスリと笑った。
「そんな気にする事じゃないよ。実は俺も腹ペコでさ、ホテルに着いたら早速食べよう
少し遅めの朝食だけれど、今日は新庄のリクエスト通り〈ビュッフェ〉だから」
爽やかにフォローしてくれた佐山くん、しかも私の希望の〈ビュッフェ〉とか
もうここにきて完全に〈食いしん坊キャラ〉が定着してしまった自称女子高生の私
そんなに食い意地が張っているわけじゃないのに……
「〈ビュッフェ〉とは何ですか、葵様?」
そうか、異世界からきたフェイさんは〈ビュッフェ〉を知らないのだ
でもここで熱く語るのは〈食いしん坊キャラ〉を益々定着させてしまう恐れがある
少しでもイメージの回復に勤め、地に落ちてしまった〈私の女子力ゼロ〉の印象を何とか挽回しなければ……
今、私は回復とか挽回という言葉を使いましたが、それらの言葉には〈元通りにする事〉、〈取り戻す事〉という意味があり
それは私に回復とか挽回するだけの女子力があるという前提の話になります。
〈元々お前にそんな女子力があるのか⁉〉というごもっともなツッコミは重々承知していますが
今回に関しては異論反論は受け付けておりません、生暖かく見守ってくれると幸いです。
「ホテルに着いてからのお楽しみという事で、夢のような食事とだけ伝えておきます……」
「そうですか、わかりました」
私の女子高生としての威厳は完全に失墜し、ひな鳥の様に〈ひもじい〉と泣き叫ぶお腹を抱えながら
夢の朝食〈ビュフェ〉の待つホテルへと向かったのである。
「うわ〜すっご〜い‼︎」
そこには文字通り夢の世界が広がっていた。私たちが訪れたビュッフェ会場には色々な料理がキラ星の如く並んでいた。
朝食からガッツリ食べたい私の希望を汲んでくれたのか、ローストビーフやステーキなどの肉類に加え
ウニ、いくらなどの海鮮、みずみずしい野菜に新鮮なお魚、各種ドリンク、そして美術品の如き美しいスイーツ……
正に夢の世界である。夢にまで見た一流ホテルの〈ビュッフェ〉、しかも何と貸切り
この世で一番の贅沢なのでは?と思える程だ。
「どれから食べようかな?これだけ色々あると全部話ちょっとずつ食べたいし
でもそんなには食べられないし、あ〜ん、もうどうしたらいいの⁉︎」
先程まで海の底まで沈んでいた私だったが〈ビュッフェ〉を目の当たりにした途端
天高く舞い上がり背中の翼を大きく広げた。天使とは対照的なアゲアゲのハイテンションガールへと変貌を遂げたのである
その姿に思わず苦笑いを浮かべている佐山くん。
「誰も取らないから、ゆっくり選ぶといいよ、新庄」
やってしまった……〈食いしん坊ガール葵〉の爆誕である。
でもしょうがない、この光景を見せられて興奮しない女子はいないだろう
取り皿に美味しそうな物を片っ端からのせて素早くテーブルに戻ると、皿の上の料理を見て思わずニヤリと笑ってしまった。
「さあさあ、いただきますとしますか〜」
右手に持ったフォークで皿の上の唐揚げを刺し口の中へと放り込む
まだ暖かい唐揚げを噛み締めると何ともいえないジューシーな味わいが口一杯に広がり、私の頬が思わず緩む。
「おいし〜い、やっぱり高級ホテルは唐揚げ一つとっても違う、幸せ〜」
唐揚げ一つでこの世の春を満喫する私、これだけ高級料理が並んでいてもまずは鶏の唐揚げを選んでしまうあたり
骨の髄まで庶民感覚が染み付いてしまっているのだろう。
そんな訳で私は一人、この桃源郷を満喫し至福のひと時を謳歌していると
横のフェイさんが何やら固まってしまっているのが視界に入ってきた。
「どうしたの、フェイさん?食べないの、美味しいよ?」
呆然としていたフェイさんがハッと我に返りこちらを見てきた、私の食いしん坊ぶりに呆れたのかな?
「いえ、申し訳ありません、少し驚いてしまって……これだけの料理
食材を集めるのは相当苦労したのだろうと思いまして。
我が国の王宮でもこれほどの豪華な食事は一年に一度、祝賀祭の際にあるかないかのことですから……」
「そうなの?でもこのホテルの〈ビュッフェ〉は毎日やっているよ
友達も来たことあるって言っていたから。その話を聞いて私も一度来てみたかったの、夢が叶ったかな、ヘヘっ」
照れ隠しもありあざとく笑ってみたのだが、それ程の効果は無かった様だ。
またもや私は女子力の無さを露呈する形となり、滑った芸人みたいな感じになってしまう。
そんな私の言動にドン引きしたのか、フェイさんの表情は強張り、益々驚愕の色を増していた。
「何と⁉︎これだけの料理が毎日ですと⁉︎しかも庶民までもが来られるとは……
いやはやこの国の食糧事情は相当のものですね。よほど優秀な狩人が大勢いて
動物が数多く生息する大森林でもあるのですか?」
フェイさんは何やらトンチンカンなこと言い出した、どうやらこの世界とフェイさんのいた
【フェルナンド聖王国】とでは色々と違うようだ。
そんな時、私達の会話を後ろで聞いていた佐山君は思わずクスリと笑い、静かに語り始めた。
「いえ、そうではありません。我が国……というよりこの世界では食肉のために鳥や豚、牛などを畜産しているのですよ」
佐山君はそういいながら皿の上の唐揚げをフォークで刺し、フェイさんに見せるように目の前に掲げると、説明を始める。
「たとえばこの鶏ですが、鶏は〈養鶏〉と言って、一つの産業として大量に生産されます
だからこそ我々庶民にも安くて美味しい鶏肉が滞りなく提供されるのですよ」
わかりやすく丁寧な説明、さすがは私の……いや、ここでの明言は避けておきましょう
しかしその説明を聞いて唖然としているフェイさん、よほど驚いたのだろう、口を大きく開けたまま固まってしまっていたのだ。
「何という事だ、生命の量産とは……そんな事をしているのか、この世界では……」
あれ?もしかして〈宗教上の理由で食べられない〉とか、〈命を量産して食べ物に変えるなど神への冒涜〉とか
そんな感じですか?ヤバい、私空気読まずにフェイさんの目の前でバクバク食べちゃったよ
今更止めても遅いですよね?
思わず手に持っていたフォークが止まってしまった私、もう少し食べたかったけれど
このムードだとさすがに食べられない、こんな御馳走を目の前にしているのに……
だが、フェイさんが驚いていたのはそんな事ではなかったのである
何も口にする事もなくいきなり立ち上がった、その表情は何か思い詰めたような雰囲気を出しており
どこか悲壮感さえ漂わせていた、そしてものすごい形相で佐山くんの方に視線を向けると
突然激しい口調で問いかけた。
「佐山、この国ではどれほどの畜産とやらが行われているのだ⁉︎」
「えっと、確か……牛で年間約千二百万何頭、豚で約千六百万頭、鶏に至っては年間約六億五千羽位のはずだが……」
何が何だかわからず戸惑いながらも答える佐山くん、よくそんなことを知っているなと感心したものだが
それを聞いたフェイさんの態度が明らかにおかしい。
「今の質問に何か意味があるの?」
何だかわからないけれど何か嫌な胸騒ぎがする。何だろう、このとてつもなく嫌な予感は?
「何ということだ……私は大きな勘違いをしていた様です」
絞り出すように発した言葉はフェイさんにしてはどこか弱々しいものであった。
「どういう事だ、この世界の畜産に何か問題があるのか⁉︎」
嫌な予感を感じたのは私だけではなかったようだ、佐山くんもただならぬ雰囲気を感じ取りすかさず問いかけた。
「ああ、まず説明すると【ガジルス帝国】が開発したガレリアという兵器は基本的には
〈合成獣〉つまり〈キメラ〉と呼ばれる物だ、キメラとは異なる遺伝子を持つ生物を
魔術的に合成し全く別の生物へと変化させるものだ
全身を覆う強力な皮膚には金属を、強靭な肉体は動物や
人間の死体を使用する、
そしてキメラの生成に必ず必要な物がもう一つある、それが生命だ
いくら発達した科学や奥深き魔術でも無から有は生み出せない
ガレリアを生成するにはどんな生物でもいいから生命が必要なのだ」
何だか随分ときな臭い話になってきた。そしてフェイさんの話は続いた。
「【ガジルス帝国】はこの生命と肉体の確保に一番苦心したようで
国中から犬、猫、馬、羊などをかき集めガレリアの材料として使用したと聞いている……」
ようやく話が見えてきた、しかしそれは同時に恐ろしい事実に気付いてしまったという事に他ならない。
命を使って兵器を作る……何よ、それ、そんなのって……。
「じゃあ、今この世界にいるガレリアの主成分は……」
「ああ、おそらくその畜産とやらにより大量生産した牛や豚、鶏といった生物だろう
我々の世界では生命を量産する事などなかったから気がつかなかった
つまりガレリアを製造している場所は企業の工場などではなく……」
「畜産農場、もしくは畜産工場ということか⁉︎」
佐山くんの質問に大きく頷いたフェイさん、佐山くんは慌てて懐からスマホを取り出すと、
その推測を伝えるために急いで電話をしていた。
「ああ佐山だ、至急勝間大臣か新崎政務官に繋いで欲しい、緊急事態だ、急いでくれ‼︎」
相手が電話に出てくれるまでの時間、佐山くんはもどかしさを感じている用で
珍しくイラついていた。それから二分ほど経った頃、ようやく相手が電話に出てくれたようだ。
「勝間大臣ですか?佐山参事官です、ガレリアの製造場所がわかりました
畜産農場、もしくは畜産工場で行われていると思われます、
至急〈内調〉、〈陸幕二課〉もしくは警察に連絡して捜索してください、お願いします‼︎」
大事な報告を伝え終わった佐山くんは目を閉じ〈ふう〜〉と、息を吐いた。
「どうだったの、佐山くん?」
「ああ、勝間大臣が至急手配してくれると言ってくれた、これで安心だ。
生産されているガレリアが動き出す前に抑えることができれば
もうこれ以上被害が出ることはないだろう、そうですよね、フェイさん?」
「ああ、ガレリアを製造しているのは魔道士どもだ。大人数で強襲し
魔法を使わせる暇を与えなければ人数で圧倒できるだろう。威力はともかく
早さならば魔法より銃の方が何倍も早いからな」
ガレリアに対して何もできていなかったこちらにしてみれば大きな前進である
間接的とはいえ、私が鶏の唐揚げを食べていたおかげで発見できたのだから
少しは私も役に立つことが出来た……と思いたい、まずまずの成果という形で〈良し〉としよう。
これで全てが上手くいき終わってくれるといいのだけれど……。
頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。




