浦島少女11
戸惑う私を見て、割り込む様にフェイさんが間に入り、両手を広げて言い放つ。
「このお方に危害を加える事は許さん」
何、何でこうなっているの?せっかく敵をやっつけたのに、どうして……
防衛省の人とフェイさんの間で一触即発の様なムードが漂う
私はどうしていいのやら戸惑うばかりで言葉も出ない。そんな緊張感を切り裂く様に一人の叫ぶ声が聞こえた。
「待ってください‼」
声の方向へ振り向くと、その声の主は佐山君だった。
「待ってください新崎政務官、そんな言い方では新庄が怯えてしまいます
彼女は敵ではないのです、我々は情報提供と協力をお願いする立場なのですから
もう少し穏便な言い方をお願いできませんか?」
私達の間を取り持つように、入ってくれたのだ、やっぱり頼りになるなあ……
だけど相手側はいぶかしげな目で私達と佐山君を見つめている。
「佐山参事官、君はこのお嬢さんとは知り合いかね?」
どこか含みのある言い方で問いかける、何だかわからないけれど嫌な感じがするのは気のせいではないだろう。
「あ、はい、高校時代の同級生です……」
「同級生?このお嬢さんはとても三十過ぎには見えないが……
そうか、例の十五年前から帰って来た少女というのが……」
「ええ、それがこの新庄葵さんです」
そのやり取りの後、何かを考え込んでいる様子の新崎さん。そして再び話を切り出す。
「わかった、その辺りも含めて色々とお話を聞かせてはくれないだろうか?
新庄葵さん世界の存亡にかかわる問題だ、よろしく頼むよ」
一介の高校生に世界の存亡とか……重すぎるよ、私は思わずフェイさんを見つめる。
「葵様がよろしいように、何かあったら私が必ずお守りしますから」
さすがフェイさん、私の不安など全てお見通しの様だ。
少し安心した後、私は佐山君を見つめた、おそらくこの大勢いる人たちの中でも私の味方をしてくれるのはフェイさんと佐山君だけだろう。
新崎さんはその空気を察したのか、佐山君に向かって命令を下す。
「佐山参事官、君も同席したまえ。このお嬢さんも君がいた方が安心できる様だしな」
その命令に対し、丁寧に頭を下げ受諾の意志を見せる。
「了解しました、同席させてもらいます」
こうして一時間後、再び話し合いがもたれる事となった。だけど私に聞かれても正直何も知らないのだ。
どちらかというと私の方が事情を知りたい、多分フェイさんなら全てを知っているのだろう。
それに佐山君もいる、何も怖くない、頑張れ、ファイトだ、私‼
話し合いをするまでの間、一旦間を取る為に控室へと案内される私たち。
銃を肩に担いだいかつい軍人さんが私達を先導してくれている。
私達が控室へと向おうしたした時、ふと新崎さんが
声を掛けてきた。
「佐山参事官、ちょっといいかな?」
手招きして佐山君を呼び寄せる新崎さん、何か嫌な感じだが私にはどうする事も出来ないので、そのまま佐山君の後姿を見送る。
その時佐山君は振り向きざまに私に向かって声を掛けて
くれた。
「先に控室に行っていてくれ新庄、俺もすぐに行くから。大丈夫、君の悪いようにはしない」
「うん、有難う、待っているね」
こんな時だからこそ、その優しさが凄く嬉しかった。私達が軍人さんに案内され控室に向かっている頃、佐山君は新崎さんと二人きりで話をしていた。
「佐山参事官、君はあのお嬢さんと、どんな関係なのかね?」
いきなりの質問にやや面食らい戸惑い気味の佐山君だったが、動揺するそぶりも見せずハッキリと答えた。
「ですから、彼女とは高校時代の同級生だと……」
すると、その言葉を途中で遮る様に右掌を突き付け、口を挟んだ。
「建前は良い正直に言いたまえ、この件には世界の平和、人類の存亡がかかっている
そしてそのカギを握るのは間違いなくあのお嬢さんだ、ならば我々はどんな事でも知っておく必要がある
君とあのお嬢さんの関係を包み隠さず教えたまえ」
そう言われてしまっては、生真面目な佐山君は隠しておけるはずも無かった、プライベートな情報だから……
などと言っている場合ではないからである。
「わかりました、では申し上げます、私と新庄葵は高校時代のクラスメイトで私の方から交際を申し込み、承諾を得ました。
しかしその翌日、新庄は行方不明になり先日十五年ぶりに帰還したという訳です、これ以上の事はありません」
包み隠さず全てを話したが、新崎さんは腕組みしながら目を閉じ何かを考え込む
そして大きく息を吐くと静かに口を開いた。
「ふう……そうか、良く話してくれた。ではあのお嬢さんにとって、君は特別な存在という訳だな?」
その言い回しに何か嫌な予感がした佐山君は、慌てて否定する。
「特別といっても実際交際期間はありませんし、もう十五年も前の話ですよ⁉」
「ふっ、しかし君にとっては昔の話でも彼女にとっては違うだろう?
見たところ、あのお嬢さんはかなり君を信頼しているようだ。
という訳で期待しているよ、佐山参事官。私からの話は以上だ、早く彼女の所へ行ってやれ」
含みのある笑みを浮かべ何やら考えがある様子だが、これ以上聞く事も出来ずそのまま部屋を出た
嫌な胸騒ぎと不安が収まらないが佐山君はそれらを振り払うように足早に去った。
そんなやり取りがあったとは露にも知らない私とフェイさんは案内された控室で二人きりで座っていた。
用意された熱いお茶をすすりながら何となく気まずい雰囲気の中で何を話そうか考えていた。
すると意外な事に今度はフェイさんの方から話しかけてきたのである。
「ちょっとよろしいですか、葵様?」
「へっ?何でございましょうか?」
まさか向こうから話を切り出されるとは思っていなかったので、驚きのあまり変な声が出てしまう。
他の人がいなくて本当に良かった、でもあらたまって何だろう?
「一つ聞きたい事がございまして、あの佐山という男とはどの様なご関係ですか?」
「な、な、な、なんで、そんな事を聞くのですか?」
「いえ、葵様はどうやらあの佐山という男性と随分親しいようですので……何か特別なご関係なのかと?」
いきなり何という質問、良くも悪くもこの人は空気を読まないな。
世界が危機を迎えているというのに私は何に動揺しているのだろうか?
落ち着け、私と佐山君は十五年前に交際を約束した、それだけの関係だ、本当にそれだけ……なのだから……
「別に何もないですよ。やましい事などこれっぽっちも、なかとですばい」
アレ?言葉遣いがおかしくなっていないかな?まあいいや、ほんとうになにもないのだから
うしろめたさなど微塵も無い、佐山君と今後もアレコレとか、そんな下心は……とにかく、私は無実なのだ。
「どうして、そんな事を聞くのですか?」
少し気になって聞いてみた、客観的に考えても、今この状況で必要な質問だとは思えない
ましてやこのフェイさんが実は〈恋バナ〉に凄く興味があって
私と佐山君との恋愛についてキャッキャウフフしたいとはとても思えないからだ。
「いえ、もしあの佐山という男が葵様の思い人というのであれば、その間にお世継ぎが生まれる可能性も……と考えまして」
「お、お、お、お世継ぎって、赤ちゃんって事⁉気が早すぎるよ
だって私達まだキスもしていないのよ、それが、お、お、お、お世継ぎとか、いくら何でも……」
もう何が何だかわからない……あまりに話しがぶっ飛びすぎて頭がパニックを起こし自分が何を言っているのかも理解できないでいた。
そしてどうしてだかわからないけれど、やたらと顔が熱い。この人はいきなり何てことを言うのよ、もう……
しかしフェイさんの顔は真剣そのものといった感じだ
何だかわからないけど浮ついた気持ちで聞いているのではないと思う。
正直浮ついた気持ちじゃないのに人の〈恋バナ〉を聞きた
がるという心理はさっぱりわからないが。
「冷やかしとか、からかい気分で聞いているのではないのですよね?」
私は上目遣いで聞いてみた、世界がこんな状況なのだから必要ならば全てを包み隠さず話さなければならないのだろう
〈どうして?〉という気持ちは拭いきれないが……
「もちろんです。もう少ししたらこちらの世界の人間達と今後の方針と我々の正体について話す事になるでしょう。
その際、葵様のお気持ちといいますか未来のビジョンをどう捉えているのか、非常に重要なので失礼ながらお聞きしている次第です」
世界の行く末と私の将来がどう結びつくのかわからないが、とにかく素直に答えよう。
しかし一介の女子高校生に〈未来のビジョン〉とか言われても……
将来の夢とかを話せばいいのかな?え~っと、とりあえず小さくてもいいから庭付き一戸建ての家に住みたいな
子供は二人で男の子と女の子、それと犬が飼いたいな、週末には家族でピクニックとか出かけて……
アレ?こんなのでいいのかな?
そんな事を考えつつ何を話そうか迷っていると、さりげなく語り掛けてくれた。
「それほど深く考えなくてもいいですよ、あの佐山という男をどう思っているのか?それだけで結構ですから」
うわ~、危ない、危ない、いきなり庭付き一戸建てとか、できれば犬を飼いたいとか
とんだメンヘラ女だと思われるところだった。でも佐山君の事か……
正直話すのは恥ずかしいけど、世界の命運がかかっているのならば恥ずかしがっている場合じゃないよね。
「佐山君の事は……好きですよ、でもいくら佐山君から交際を申し込まれたといっても昔の話ですし
彼にしてみれば十五年も前の話を今更持ち出されても迷惑な事は重々承知しています
そもそも三十三歳の立派な社会人がこんな十八歳のガキ臭い女なんか相手にしてくれないのもわかっています。でも、できれば私は……」
これ以上は言えなかった、口にしているだけでも恥ずかしいセリフなのに他人に聞かせるとか……
佐山君がこれを聞いて〈はあ?今更何言っているの、意味わかんねえし〉とか言われたら軽く死ねる。
まあ伝えたところでフラれる事はわかっているので伝えるつもりも無いし
大切な思い出として胸の奥にしまっておくつもりだ。
応援してくれたヨリちゃん達には悪いけれど、好きな人にフラれるのはやっぱり怖いよ
私にしてみれば佐山君から〈付き合って欲しい〉と言われたのは二週間前の話、もう少しその余韻に浸らせて……
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