浦島少女10
おそらくここにいる人間の中で私が一番驚いているだろう
呆然としている私と周りの大人たちを尻目に現れた深紅のドラゴンは次々とガレリアを蹴散らしていった。
ミサイルの直撃すら無傷で切り抜け、さっきまで我が物顔で無双していた黒い怪物達が
このドラゴンの前ではまるで虫けらのように排除されていく。
雄大な体躯と巨大な羽根で空中を舞う真紅のドラゴンは優雅にして流麗、正に王の風格を漂わせていた。
その巨体に似合わぬ俊敏性とスピードを持ち合わせており、群がるガレリアをその爪と牙で次々と粉砕していく
ガレリアの方もその凶悪な爪で必死に反撃するが竜王の体にかすり傷ひとつつけることは出来ない
もがくように抵抗するガレリアを尻目に突如大きく口を開けた竜王は轟音を伴い巨大な炎を吐き出した
口から放った紅蓮の炎はあっという間に黒い怪物達を飲み込み一瞬で消し炭に変えた
まるで相手にならない圧倒的なまでの実力差、それは戦闘というより一方的な蹂躙と言ってもいい戦いであった。
今までいいように相手を踏み躙っていた怪物達だったが、立場一転、今度は狩られる側に回ったのである。
戦況が不利だと悟ったガレリアの群れは一目散に、脱兎のごとく逃げ出す。
しかしそれを見逃す竜王ではなかった、その雄大で美しい羽根を優雅に羽ばたかせると
高速で逃げるガレリアにすぐに追いつき一撃で粉砕する
まるで作業でもしているかのように黒い怪物どもを駆逐していくドラゴンの王
しばらくするとあれだけいたガレリアの群れを苦も無く壊滅させ、優雅に飛び去っていった。
「何?何が起こったの?」
私は今、目の前の巨大モニターで見た光景が現実のものだと信じることが出来ないでいた
おそらくはここで見ていたフェイさん以外の人達も同じであろう、皆言葉を失い呆然と立ち尽くしていた。
「何なのだ、アレは……」
「実在するドラゴンとか、ゲームやアニメじゃないのだぞ⁉」
「でも、現実にいたじゃない、アメリカ軍ですら歯が立たなかった化け物達を次々と……私達は夢でも見ているの?」
皆が呆気に取られ我を失っている時、防衛庁の偉いおじさん、新崎正孝さんが何かを思い出したかのように突然叫んだ。
「そういえば中国軍はどうなっている⁉」
我に返ったオペレータが慌ててモニターを切り替えると、先程のアメリカ軍同様
中国軍もガレリアの猛攻により壊滅寸前まで追い込まれていた。
「フェイさん、また竜王さんを呼んでもいいかな?」
もう疑う余地も無いので引き続き竜王さんを呼ぶ事を提案してみる。
「ええ、かまいませんが、折角ですし、もう一つの手段、【対ガレリア用決戦兵器ゴラオン】の方をお試しになってはいかがですか?」
「えっ、それってフェイさん達が作ったという生体兵器の事?」
「ええ、その通り、対ガレリアという事であれば【竜王ヴァンアレス】よりも強力かもしれません」
「えっ、さっきのドラゴンさんより強いの⁉嘘でしょう?」
「あくまで〈対ガレリア〉に限っての話ですが……」
フェイさんはそう言うと少しサディスティックな笑みを浮かべる
その冷たい笑顔に一瞬背筋が寒くなるが気を取り直し、もう一つの対抗手段【ゴラオン】を呼ぶ事にした。
「どうやって呼び出すの?さっきの竜王さんと同じ感じでいいの?」
「ええ、それで大丈夫です、葵様が〈来い、ゴラオン〉とお命じくだされば、奴はすぐさま馳せ参じる事でしょう」
フェイさんの言葉を聞き大きく頷いた私はもう一度目を閉じ、中国軍のいる海をイメージして、呼びかけた。
「来て、ゴラオン‼」
私がそう叫んだ瞬間、モニターに映る中国艦隊のいる海面が急に隆起し大きくうねる
そして次の瞬間、オペレータの男性が再び叫んだ。
「海中から謎の物体が出現、浮上してきます‼」
謎の物体の出現により海面が大きく波打ち中国軍の空母や他の船たちは大波に揺れる木の葉のように激しく揺れる
海面が巨大な津波のように盛り上がり、海中から出現した謎の物体は遂に姿を現したのだ。
「何だ、アレは⁉」
それは生命体というより一つの島のようだった。想像を遥かに越える巨大な物体
全身が真っ黒な毛におおわれた不気味な姿、その体にはタコの様な触手が何本も生えており
まるでその一本一本が意志を持つ生命体の様にウネウネと不気味に動いている
人類が理解できる範疇を遥かに越えた謎の巨大生物がそこにはいた
私達はただただ言葉を失い呆然と見つめていると、その巨大な生命体から生えている触手の一つが鋭く伸び
空中に居るガレリアを瞬時に捕らえた、捕らえられたガレリアは必至で抵抗するが、その触手はビクともしない
まるで食虫植物の様にガレリアを取り込んだ謎の物体は体の中心にある真っ黒な穴にガレリアを放り込んでしまった。
「何よ、コレ、もしかしてこれが……」
「ええ、これが【対ガレリア用決戦兵器ゴラオン】です、コイツに捕まったら最後
何人たりとも逃げられません、全てゴラオンの餌となるのです」
「餌って……じゃあ、アレって食べているの?」
「ええ、骨や皮どころか魂までも食いつくす、それがゴラオンです。
ガレリアの皮膚がどれ程固かろうと関係ありません、無数に飛び回るゴミ共など、きれいさっぱり食べつくして御覧に
入れる事でしょう……」
どこか嬉しそうに語るフェイさんだったが、私には素直に喜ぶ気がしない
それ程までにこのゴラオンは不気味だった、というより気持ちが悪いのだ、もっと言えばおぞましいといって
もよかった。
そんな私の思いなどどこ吹く風とばかりに、ゴラオンの触手は次々とガレリアを捕らえ中心の穴へと振り込んでいく
撃退というより捕食しているのだ。
その姿は見ているだけで気分が悪くなる、何故かガレリアに同情してしまう程ゴラオンによる爆食は続いた
中には反撃してくるガレリアもいたがゴラオンの全身を覆った毛の前に全ての攻撃は無効化され
次の瞬間には食物にされていた。そもそも体長が2m程のガレリアに対し
ゴラオンはざっと見て全長1kmはある、大人と子供以上の対格差だ、相手になる訳がない
そもそもこんな巨大なモノが動いていること自体人知を越えている、ハッキリ言って滅茶苦茶だ
私が呆気に取られている内にゴラオンの食事は終わった様だった
あれ程いたガレリアの大軍は短時間の間で全て平らげられ、東シナ海の洋上には先程までの騒ぎが嘘の様に静寂が戻った
そんな中で何とか全滅を免れた中国軍と巨大な怪物だけが浮かんでいた。
「どうにか終わったみたいだね……」
何か胸の中がスッキリしないまま戦闘は終わった、コレで一安心か?と思った時
何故か中国軍がゴラオンに対して攻撃を始めたのであった。
「えっ、どうして⁉」
それに答えられる者はいなかった、だがわかる気がした。
人間はあまりに大きな恐怖を感じると反射的にそれを排除しようと行動するモノである
本来であればピンチのところを救ってくれたはずの味方なのだが
見た目おどろおどろしいゴラオンが中国軍の目には恐怖の対象として映ったのは想像に難くない
だがガレリアの攻撃でさえ傷一つつかないこの巨大な捕食者は中国軍の攻撃を受けてもびくともしなかった
それどころか、中国軍に対して反撃を開始したのである。
「愚かな……恐怖に駆られて敵と味方の区別も付けられないとは……」
フェイさんがボソリと呟いた通り、全鑑による一斉射撃で攻撃を加える中国軍に狙いを定めた
ゴラオン、ダメだよ、こんなの早く止めないと……
「ねえ、どうしてゴラオンは中国軍に攻撃を仕掛けているの?」
しかし当のフェイさんは軽くため息をついた後、ヤレヤレとばかりに呆れている様だ。
「あのゴラオンには知性というモノがありません、あるのは攻撃本能とどん欲なまでの食欲
常に飢餓状態のゴラオンは自分を攻撃してくる者であれば反射的に防衛本能が働き、対象を無差別に捕食します
ああなると全てを食い尽くすまで止まりませんね……」
再びモニターに目を移すと、中国軍の護衛艦がゴラオンの触手に捕まり捕食されていく
激しく攻撃を続ける中国軍だったが、それはもはや虚しい抵抗でしかなかった。
「ねえ、フェイさん、ゴラオンを止めて、お願い‼」
「私には無理です……」
そんな……って、今の言い回しは、もしかしたら。
思わずフェイさんを見つめると、彼は無言のまま優しく頷いた。
そうか、ゴラオンは私の言う事しか聞かないのだ。何故かはわからないけれど
今はそんな事を考えている暇はない、一刻も早く止めないと。
「止めなさい、ゴラオン‼」
モニター越しに叫ぶとゴラオンの動きはピタリと止まった
この東京から東シナ海までの距離は約1500km、声など届くはずがない
でも届いた、私の言う事を聞いてくれたのだ、どうしてだかわからない、でもホッとした。
「もうお帰り、ゴラオン……」
優しくそう語りかけたら、ゴラオンは掴んでいた中国軍の船を無造作に放し、再び海中へと戻って行った
それによって戦いは突然終わりを告げる、私はようやく安堵し、ホッとしたのも束の間
気が付くと周りの人は私の事をもの凄い目で見ていた、無理もない
あんなドラゴンやら巨大な怪物を操る女とか……普通に考えてもドン引きだよね。
どうしていいのかわからず立ちすくむ私に防衛省の偉い人、新崎正孝さんが部下達数人を連れて近づいて来た。
「少々お話を伺いたいのですが、よろしいですかな、お嬢さん?」
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