エンターテイナーの最期 Ⅱ
「弦羅くん、来てくれたんだ、、」
私はいま、いわゆる「幽霊」になっていたので、家族どころか誰にも見えない。声も届かない。
なのに、、
なのに、弦羅くんが私の声に答えるように、声をかけた瞬間おいおいと泣き出した。
つい私は、相変わらず涙もろいんだから。と苦笑した。
棺の中にみんなが百合の花を入れてくれている。それはそれはみんな涙を流しながら。
死に化粧の私を見るのはなんだかすごく新鮮で、自分の顔なのに自分じゃないようで、つい自分の頬を抑えてしまう。
ーーーほんとに私は死んだんだな。
私は私が燃えているところを黙って見ていた。
みんなが褒めてくれていたフォックスカラーの髪が、炭と化していく。最終的に焼け落ちた骨だけが残った。
みんなが箸渡しをしながら私はふと思った。
弦羅くんは、今何しているんだろう。
思えば思うほど気になって仕方がなくなってしまい、幽霊の私は必死に弦羅くんを探した。
高校の頃の部室。私たちが出会った場所。そこに彼はいた。
ひとつ置いてある椅子に彼は1人で座って、部屋の奥にあるステージを、
ただただぼうっと眺めていた。
彼とは同じ部活の先輩後輩同士だった。
仲良くなるうちにお互い好きになって、付き合い始めた。
「懐かしい...」
そう呟いた瞬間。
「え.......?」
弦羅くんがこちらを振り返った。
「百合……,?」
宝物を見つめる目。
彼は触れようとした。幽霊である私を。触れられるはずなんてないのに。
「えっ、」
抱きしめられた。触れられたわけじゃない。私の体の広さをかんがみて腕を広げ、擬似的に抱きしめに来たのだ。
そう、まるで、
自分は死んで幽霊になった。ということなど最初から嘘だったかのように。