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第21話 「奇跡の形」


「ホ、ホントに別の森っス……」


 階段を上り、その歪んだ境界から顔だけを覗かせたブローノが足を止め、信じられないとでも言うように(こぼ)した。

 その直後、境界の『下』側……。まだシュアープ西の森にある筈の自身の臀部(でんぶ)に、何者かの手で押される感触が襲う。


「わっ⁉ おっ、押さないで欲しいっスっ⁉」


 そう訴えるが、何者かの手が止まる事は無い。それほど強い力ではないが、ブローノはその手に押されて『上』の森へと足を付けた。


「も~、「自分が先に行くっス」って言ったのに立ち止まられたら、ボクたちが通れないよ。声を掛けても返事しないし」


「でもアレク、押すのは危ないよ? それと、僕たちの声はブローノさんに聞こえてなかったんじゃないかな? ほら、顔はこっちだったし」


 そう言ってブローノに続いて階段を上ってきたのはアレクとエメロンの2人の少年。……アレクは少女なのだが、ブローノはその事実に気付いていない。

 ひとまずは軽く様子を見るだけ、という約束でこの3人で『上』へと上がる事となった。


「それで……、ここがキミたちの言っていた森で間違いないっスか?」


「たぶん?」


「そこを自信無さげにされると、連れてきた意味を疑っちまうっス」


 ブローノの問いに、アレクの答えは酷く曖昧(あいまい)だ。

 とはいえ、仕方の無い事だとも言える。アレクがこの森に来たのは3年以上も前に1度きり、しかも季節も違う。場所も全く同じとは限らないとなれば、自信満々に答えられた方が逆に疑わしいというものだ。


「恐らく、間違いないと思います。3年前、道に迷わないように木に付けた傷が残ってますから」


「エメロン、そんなコトしてたの?」


「……むしろ、その位しないと知らない森を歩くなんて怖くて出来ないよ」


 エメロンの機転にアレクは感心する。が、エメロンは逆にアレクの無警戒ぶりに呆れてしまった。


 しかし、階段を上がれば都合よく3年前の傷が見つかる。この事実に疑問を感じたエメロンは、ブローノに気付かれないようにアレクに近づき、その鞄の中にいる2人の妖精に小声で質問をした。


「……3年前と階段の場所が同じみたいだけど、何か理由があるのかな? 特定の場所にしか階段を出せないとか?」


「そうね、どこでも好き勝手に出せるワケじゃないわ。階段が繋がる場所も同じ。この場所で出した階段はシュアープの森に繋がるってコトね」


「ことなの~っ」


 リゼットの説明で、この場所が3年前に訪れた場所で、木に付いた傷がエメロンの付けた傷である確信を得た。

 この情報は大したものではないかも知れない。だが、完全に手探りの状態に比べれば雲泥(うんでい)の差だ。3年前に野犬に襲われた方角……、あちらの方なら数百mに渡って平地が続き、斜面なども無い事が分かる。石で出来た祭壇があった筈だし、良い目印になるだろう。


「僕、ブローノさんにあっちの方の説明をしてくるね。あと、リゼットには後で階段の法則とかルールを教えて欲しいな」


「いいけど、アタシも理屈とか難しい事は知らないわよ? あ、あと、あっちの方には行かないようにしてよねっ。その先にアタシたちの家があるから、大人に見つかったら面倒だわっ」


「分かった。向こうには行かないように上手く誘導するよ」


 アレクから離れ、ブローノに3年前の記憶を頼りに地形などの情報を説明するエメロン。その姿を見て、アレクはしきりに感心していた。


「やっぱりエメロンは頼りになるね」


「アレクも頑張らないと、役立たずって言われちゃうかもよ?」


「むっ、ボクだって頑張るよっ!」


「がんばれ~っ」


 アレクは、リゼットとベルの2人と雑談をしながらその場で立つ。頑張ると言いながら、具体的な事を何1つ考えてはいないが、その意気込みだけは十分だ。

 そんな話をしていた時、リゼットの耳に僅かな振動音が聞こえた。


「? いま、ヘンな音がしなかった?」


「音? どんな?」


「なんか……響くみたいな、そんな感じ……? 聞き間違いかも?」


「それじゃ、分からないよ……」


 一瞬、ブローノに知らせるべきかと思ったが、リゼットの説明は曖昧(あいまい)で、そもそも聞き間違いの可能性すらあるようだ。音の方角すら分からないのでは、行動方針とするにも根拠が薄すぎるし、わざわざブローノに報告する必要は無いだろう。

 アレクがそう判断した時、リゼットが嫌な提案をしてきた。


「ねぇアレクっ、アレを試してみない?」


「え……、えぇ~っ。アレって、アレ?」


「あれってどれ~っ?」


 アレクとリゼットの言う「アレ」……。それは『根源魔法』による身体強化、その応用による聴力の強化だった。

 『根源魔法』は術者の身体能力を魔法で強化できる。それは単純に力を強くする事だけではない。扱いにコツが必要だが、視力や聴力といった五感を強化する事も可能なのだ。


 だが、アレクはそのコツが苦手だった。五感を強化できない訳ではない。その感度や指向性の調整が不得手なのだ。

 視力を強化すれば、ピントが全く合わず、立つ事さえままならない。味覚を強化して食事をした時などは、あまりの刺激に数日間も舌の感覚がマヒしてしまった。もちろん聴力を強化すれば、遠くの音や小さな音が爆音に聞こえ、しばらく音が正しく聞こえなくなる。

 ……アレクが渋るのも当然だった。


「ホラっ、ちゃんと練習しないと使いこなせるようになれないわよっ? それに役立たずって言われないように頑張るんでしょ?」


「ぅうう~~っ。分かったよぉ。分かったから、ちょっと静かにしててよ?」


 渋々と、ではあるがアレクは身体強化を行う決意をする。鞄の中の2人に静かにするように注意をして。

 もし聴力を強化している最中に、耳元で叫び声でも上げられた日には……。考えただけでも恐ろしい。何度もしつこく「ホントだよ?」「イタズラしたら絶交だからね?」と繰り返すのも無理はない。


「黙ってるから、さっさとしなさいっ! ベルもイタズラしないっ! いいわねっ!」


「はぁ~い。ぼく、いいこ~っ」


 いい加減にうんざりしたリゼットが怒鳴り、とうとうアレクも観念した。


 目を閉じ、深呼吸をして、身体中を流れる魔力を感じ取る。その魔力の流れを意図的に歪め、耳に集めて()き止める。そのままにしていると魔力が耳に集まり過ぎるので、少しずつ身体の流れに返してやる。少しずつ、少しずつだ……。


 木々の葉が風に揺れる音……。虫の羽音……。小動物が地を駆ける音が聞こえる……。それに、自分の呼吸音……、心臓が脈打つ音……、身体中の血管を流れる血液の音までが聞こえてくる……。


「それじゃ‼ 一旦『下』に戻るっスか‼ この人数じゃ‼ この森を捜索するのは無理っスよ‼」


「そうですね‼ そろそろ捜索隊の中にも‼ 手の空いた人が出る頃合いでしょうし‼」


 少し離れた位置で話すエメロンとブローノの会話も、まるで目の前で叫ばれているかの大声に聞こえる。出来ればもう少し声量を落としてもらいたいものだ。……実際は野犬や魔物を警戒していた2人の声は、非常に小さいものだったのだが。


 様々な雑音に邪魔をされながらも、リゼットの言っていた「響くようなヘンな音」を探す。

 響く音とは何だろうか?雷?太鼓?お腹が鳴る音も響いているが……。そういえば、いつもならとっくに晩御飯を食べ終えている時間だ。

 そんな下らない事を考えていた時、アレクの耳に”ズゥゥゥン、ズゥゥゥン”と地鳴りのような音が聞こえた。


(あっ、響く音……! リゼットが言ってた音ってコレかな?)


 そう思ったアレクは更に集中する。一瞬、地鳴りが止んだと思えばその直後、”ドゴォォォン”と一際大きな音が響いた。


(これだっ! きっとこの音に違いないよ! でも、今の音の直前に人の声が聞こえたような……?)


 確信があった訳ではない。ただ、僅かに聞こえた気がした「声」。それが重要なような、そんな気がしてアレクは更に集中する。……いつの間にか、アレクの耳に雑音は届かなくなっていた。


「だったら、頭しかねぇよなーー」


「っ‼ ユーキうわあぁぁぁぁっっっ⁉」


 アレクは自分の出した声の、あまりの大きさに悲鳴を上げた。離れた位置で、小声で話すエメロンたちの会話さえ叫び声に聞こえる程に強化された聴力で、自分で叫んだのだから無理もない。


 エメロンとブローノが駆け寄り、突然悲鳴を上げて尻餅をついているアレクに心配そうに声をかけてくる。……が、何を言っているのかアレクには全く聞こえない。2人の声だけではない。風の音も、虫の声も、何も聞こえない。


 既に『根源魔法』は解除した……、というか、驚いて解けてしまった。これは、その時の自分の声で聴力がマヒしてしまったのだろう。


「あ、あー。あー、あー」


 辛うじて、自分が声を出しているのは分かる。いつもの自分の声とは全然違って聞こえるが……。だが、喋れるのならば問題は無い。自分の事は一旦後回しだ。


「ユーキっ‼ ユーキが向こうにいるっ‼ あとっ、大きな音もするんだっ‼ 危ない目にあってるのかもっ‼」


 いつもと違う感覚に、つい声が大きくなってしまった。アレクの言葉を聞いた2人が驚いた表情をしているのは、決して話の内容だけが理由では無いだろう。

 エメロンとブローノの2人は顔を見合わせ、何かを話し合っている。もちろん、その内容はアレクには聞こえていない。


「エメロンっ‼ 行こうっ‼」


 ユーキの声を聞き間違うハズがない。ユーキは間違いなく向こうにいる。轟音を響かせる「何か」がいる方向に。

 聞く事の出来ない2人の相談を待つ事が出来なかったアレクは、そう叫んでユーキがいる筈の方向へと駆け出した。


 エメロンの返事を聞く必要は無い。……聞きたくても聞こえないが。

 駆け出して数秒後、走るアレクに並んで共に来てくれる親友の姿があった。エメロンなら、必ずついてきてくれると信じていた。

 ただ、決して黙ってはいないだろう。文句を言っているかも知れない。叱っているかも知れない。呆れているかも知れない。だが、今は何も聞こえない。その怪我の功名に、アレクは(ほお)を緩ませながらユーキの元へ走るのだった。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「……ぅっだらあぁぁぁーーーっっ‼」


 ユーキが叫ぶのと同時に、大亀の口から、鼻から、目から炎が噴き出す。

 ユーキは確かに魔力が少ない。だがそれは決して、魔法の威力が低いという事ではない。ユーキの魔法の弱点は、持続時間が短い事と、射程が極端に短い事。この2点に尽きる。

 ユーキが本気で炎を出せば、その火力は鉄さえも溶かす程の威力があるのだ。


「……ぐっ、あっ、ああああああぁぁっっっ‼」


 だが、その威力は至近距離での話だ。当然、魔法に最も近いのはユーキの身体だ。炎を出せば、焼けるのは相手だけではない。その欠点をカバーする為の耐火グローブだったが、ユーキの本気の威力には焼け石に水だ。

 ユーキの左腕は、肘から先が重度の火傷を負い、更に大亀の牙で穴だらけ。更には強靭(きょうじん)(あご)に砕かれて、骨も複数個所で折れていた。


「あっ、あっ、がっあああぁぁぁっっっ‼」


 果てしない激痛がユーキを襲う。痛いのは腕だけの筈なのに、何故か立っていられない。視界が夜の闇以上に暗くなり、何も見えない。耳に届くのは己の絶叫だけ。頭痛がする……。喉が渇く……。気分が悪い……。


「おっ、ごえぇぇぇっっ! げっ、おっごぶぉっほォぉっっ! …………ハァっ……ハァっ……はぁー、はぁー……」


 ユーキはその場で吐いた。胃の中の全てをその場にぶちまけた。胃液の酸っぱい匂いがする。口の中に残った吐瀉物(としゃぶつ)のカスが不快だ。……だが、頭がスッキリして、吐き気も収まった。……左腕の激痛は相変わらずだが。

 ユーキは何とか立ち上がり、口の中のカスを吐き出した。


「……ぺっ。あの世でレックスに100ぺん詫びろ、クソ亀ヤロウ」


 そして口の中から頭部を焼かれ、絶命した大亀に向かって吐き捨てた。

 ユーキは宗教が好きではない。だからエルヴィスの言っていた『神』の存在も半信半疑だし、あの世の存在も信じていない。だがそれでも、無意識にそんな言葉が口から出た。それ位でもしなければレックスの無念が……、いや、ただ自分の気が収まらなかっただけだろう。


「ぐっ、つぅっ……。こりゃ、元通りにゃならねぇかもな……」


 ズタズタになった自身の左腕を見て、そう(こぼ)す。これでは治るまでにはきっと何ヵ月もかかるだろうし、治ったとしても元通り動くようになる保証は無い。

 ただ、これ程になっても原型を(とど)めている事、火傷(やけど)のおかげで血が流れていない事、そして痛みがある事から神経までは死んでいないであろう事は、不幸中の幸いではあったといえるだろう。


「……とっ、シンディ……!」


 あまりの激痛と、無残(むざん)な左腕……、そして大亀との死線を越えての勝利に、僅かの間だがシンディの事を忘れてしまっていた。勝利の余韻(よいん)に浸るのも、左腕の心配をするのも、……レックスの死を(いた)むのも、今は後回しだ。

 シンディ……。彼女を無事に家に返さなければ、全ては無駄だ。


「づっ……、くっ……、うっ……」


 1歩、歩く度に左腕に激痛が走る。だが先程までの様な、泣き叫ぶような、吐く程の痛みではない。何とか、ではあるが我慢の出来る痛みだ。ゆっくりと、細心の注意を払って歩いてようやく、ではあるが。


 だが、そんなユーキを取り囲み、今にも襲い掛かろうとする存在が現れた。それは4匹の野犬だ。

 炎を出すユーキに近寄らず、大亀との死闘の際も遠巻きに見ているだけだった野犬たちが、今が好機と言わんがばかりにユーキを取り囲んだ。


「ぐっ……、クソっ……。しつっけぇなっ……!」


 好機……。野犬たちにとっては(まさ)にその通りだろう。

 どこをどう見てもユーキは満身創痍(まんしんそうい)だ。実際、立って歩くのがやっとで、戦う事はおろか、軽く走る事さえ不可能だ。本音を言えば、今すぐにでもこの場に倒れてしまいたいくらいだ。

 だが、そうする訳にはいかない。ここでユーキがやられてしまえば、恐らくシンディも助かる事は無いだろう。それだけは許容(きょよう)できない。


 戦う事は不可能だ……。走って逃げる事も出来ない……。

 魔法陣が描かれたグローブは焼け落ちた。ナイフも落としてしまい、咄嗟(とっさ)の回収は不可能だ。炎も出せず、ナイフも無い。身体はボロボロで、歩く事さえままならない。


 ならば……。と、ユーキは何も持っていない右手を、前方の野犬に向けて(かざ)した。それを見た野犬は横に跳ね、(うな)り声を上げる。

 ……最後の手段は成功だ。野犬たちは「ユーキの炎」を警戒しているのだ。


 ユーキに残された最後の手段……、それはハッタリだった。

 野犬たちはユーキが炎を出せる事を知っている。だが、それがグローブに描かれた魔法陣によるもので、グローブを失った今、ユーキに炎を出す(すべ)が無い事までは理解していない。


 ユーキは奥歯を噛みしめながら1歩づつ、ゆっくりとシンディへと向かって歩く。

 常に野犬たちの動きに注意を払い、少しでも近づく素振りを見せたヤツがいれば、すかさず右手をかざす。


(今の俺じゃ、シンディを(かつ)ぐのは無理だ……。何とかシンディを起こして、野犬どもを牽制(けんせい)しながら何とか階段まで辿(たど)り着くしか方法がねぇ……!)


 それは、どう考えても分の悪い賭けだった。

 シンディが起きるかも、自分で歩けるかも分からない。何より、野犬たちが階段まで大人しくしている保障など、どこにも無い。そして極めつけは、階段の正確な位置が分からない事だった。


 最初にシンディを探しに移動した時、この場所を通る事はなかった。恐らく、先導していたレックスが道を間違えたのだろう。

 大人でも見知らぬ森で迷う事はある。ましてやこの暗闇だ。誰がレックスを……、死んでしまった少年を責められるだろう。

 だが、現実問題としてユーキは帰るための階段への道を見失った。それでも……、たとえ奇跡の様な確率だったとしても、諦めるつもりは無かった。


「……どけっ!」


 シンディへと続く道を塞ぐ野犬に対し、ユーキは決意を込めて命令する。

 たとえ結果が死だとしても……、最後の瞬間まで決して諦めない。ユーキの鬼気にも似た気迫で野犬が(ひる)む。ユーキは退(しりぞ)く野犬を横目で見つめながら通り過ぎた。


 だが次の瞬間、野犬はユーキが予期しなかった行動に出た。ユーキを無視して素通りし、シンディの元へと走って行ったのだ。

 野犬が何を考えて、その様な行動に出たのかは分からない。ユーキを諦めて、シンディだけでも仕留めようと思ったのか、それともシンディがユーキの弱点だと思ったのか。もしくは、プライドを傷つけたユーキに対する意趣返(いしゅがえ)しだったのかも知れない。


「テメ……ふざ……っ。シンディっ‼」


 走れないユーキに追いつく(すべ)は無い。痛みを(こら)えながらも全力でシンディを呼ぶが、返事は無い。


 終わりだ……。全てが終わった……。仮に今すぐにシンディが起きても、野犬に()(すべ)なく殺されてしまうだろう……。レックスも無駄死にだ……。ユーキ自身だって、生還する目は殆ど無い。そもそも、2人を死なせて自分1人がノコノコ帰って何になる?


 ユーキは絶望し諦めた。最後まで諦めない……。そう決意した矢先に、その「最後」が目前に訪れたのだ。

 最早、奇跡でも起きない限りシンディが助かる可能性はゼロだ。しかし、奇跡などそうそう都合よく起きる訳が無い。奇跡は、起こらないから奇跡なのだ。


 だが、ユーキは思い違いをしていた。

 都合と関係なく起こるものは、ただの「偶然」だ。都合の良い時に起こるから、人はそれを「奇跡」と呼ぶのだ。


「ユゥゥゥーーー、キィィィーーーっっ‼」


 それは、ただの「偶然」だったのかも知れない。もしくは、ユーキの知らない事情によって起きた「必然」だったのかも知れない。

 だが、絶対の決意をあっさりと塗り潰された絶望の只中(ただなか)にいたユーキには、自分の名を呼びながら駆けるアレクと、そのすぐ後ろを走るエメロンの姿が「奇跡」そのものに見えた。


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