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第30話 「アレクの後悔と妖精」


 時は移り、聖歴1366年・春――。

 ユーキを追放したアレクに文句を言ってやろうと、リゼットは飛んでアレクを追っていた。その身には、人の目に映らないように「透明のフード」を被っている。


「あ、見つけたっ! アレクーーっ!」


 アレクの輝くような美しい金髪は遠目からでも良く目立つ。それに、これでもリゼットも10年近くアレクと一緒に居るのだ。例え人混みの中であっても見分けるのは造作もない。

 一直線にアレクに向かって飛び、その名を叫ぶ。アレクもリゼットに気づいたようで足を止めた。


「リゼット……」


「アレクっ! さっきのはどういうつもり――っ」


 振り返ったアレクを見たリゼットは、詰め寄る言葉を失ってしまう。なぜならアレクの目が真っ赤に充血し、(まぶた)は赤く腫れあがっていたからだ。誰が見ても泣き()らしていたのが分かる。せっかくの美形も台無しだ。


「リゼット……、ゴメン……」


「……何で謝んのよ?」


「だってリゼットは、ボクを叱りに来たんでしょ?」


「……っ、そうだけど……っ」


 出鼻を(くじ)かれたリゼットは返答に戸惑う。

 確かにリゼットはアレクを叱りに来た。あんなに一方的にユーキを突き放すなど、おかしいと。ユーキの事が大好きなクセに嫌いだなんて、嘘を()くなと。

 なのに追いかけてきてみればアレクは泣き腫らした様子で、まるで先手を打つように謝ってきた。これでは、何も言う事が出来ないではないか。


「ゴメンね……。ボクも、あんなやり方が正しいなんて思ってない……。でも、仕方なかったんだ」


「仕方ない? アレクまで、そんなコト言うの? ユーキも言ってたよ。しょうがねぇって」


「……ユーキが? ……そっか。やっぱりユーキはボクのコトなんて、全部お見通しなんだ……」


 アレクは仕方なくユーキに別れを切り出した。ユーキも仕方のない事と理解したから、それを受け入れた。

 リゼットの言葉からそれを察したアレクの心に、嬉しいような、悔しいような複雑な気持ちが去来(きょらい)する。


 「嫌い」と言ったのが嘘だとバレていたのが嬉しい。でも、簡単にバレていて悔しい。

 自分の気持ちを理解してくれていて嬉しい。でも、ユーキに気を遣わせてばかりで悔しい。

 自分の意思を尊重してくれて嬉しい。でも、これからユーキは隣に居ない。それが……、哀しい。


 アレクの複雑な心理を全て読み取った訳ではないが、それでも何となくではあるが、その表情からリゼットにも伝わるものがある。

 アレクが本心からユーキと別れようなどと思っている訳がない事くらい、最初から分かっていた。しかし、その別離がアレクの心にこれほどのダメージを与えていた事は完全に予想外だった。

 だからリゼットはアレクに提案をする。


「ねぇ、今からでもユーキに謝りに行こ? ユーキは絶対、許してくれるよ。だってアイツ、何だかんだ言ってアレクには甘いもん」


 謝って、前言を撤回して、先程の事は無かった事にしようと……。

 確かにユーキは怒っていない。別れ際のセリフからもそれは分かる。きっとリゼットの言う通り、謝れば笑って「しょうがねぇなぁ」なんて言ってくれるだろう。そうなれば、今後もユーキと一緒に居られる。

 それは何て魅力的な誘惑だろう。しかし……、しかしだ。


「……ダメだよ、リゼット」


「何でよ?」


 アレクが拒否する事は予想していた。きっと、すぐに前言撤回して謝るのがカッコ悪いとか、見得(みえ)でも気にしての事だろう。そんな風に考えていたリゼットは憮然(ぶぜん)とした態度で理由を尋ねる。そんな理由なら、尻を蹴っ飛ばしてでもユーキの所へ連れて行こうと考えながら。


「……ボクなんだ。ボクが巻き込んだんだ」


 しかし、アレクの返事はいまいち要領を得ない。

 一瞬、見得(みえ)を気にしていると言うのもカッコ悪いから、(けむ)に巻こうとしているのかとも考えたが、アレクはこんな時にその様な事をする子だったか?と考え直し、アレクの続きの言葉を待った。


「あの時っ! 慰霊祭の日っ、ボクがあんなコトを言い出さなきゃユーキは……っ‼ …………エメロンだってっ‼」


「慰霊祭?」


 しかし、続いて出た言葉もピンとこない単語だった。慰霊祭とは何だっただろうか?リゼットは自らの記憶の泉から、必要な情報を探る。

 そう、確かシュアープの町で年明けの祭りの数日後に行われる(もよお)しだ。戦争で亡くなった人たちの魂を慰める、そんな(もよお)しだった筈だ。


「ユーキは……っ! 『英雄』なんかじゃ……、無かった……っ! ボクが……っ! ボクが勝手にそう思って……っ、だからっ、ユーキは……っ!」


「アレク……?」


 アレクの言葉は、ますます意味が分からないものへとなっていく。……ただ分かるのは、強い後悔だ。その後悔の切っ掛けが「慰霊祭の日」にあるというのだろうか?

 その日が、今にどう関係するというのだろうか?その日、アレクは何を言ったというのだろうか?


 それらを思い出す為に、リゼットは記憶の泉の更に奥深くへと手を伸ばした。



 これにて第2章、終了です。

 ここまで読んで頂き、本当にありがとうございます。


 これまでは1日に2話を投稿して参りましたが、第3章は1日1話の投稿にさせて頂きます。

 もし、楽しみにして下さっておられる方がいらっしゃったのなら、誠に申し訳ございません。


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