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第7話 「魔法の授業と3人の素質(後編)」


 そこは、何もかもが真っ白に塗り潰された空間に変化した。

 すぐ横に居た筈の3人の姿はおろか、地面すら見る事が出来ない。かろうじて見えるのは、自身の両手だけ。

 光に熱量は感じないが、まるで自分の真横に太陽が存在するかのようだ。


「わっわっ⁉ なにこれっ⁉」


「アレクっ! 落ち着いてスタンドから手を放せっ!」


 慌てふためくアレクにユーキが声を掛けた数秒後、今度は目の前が真っ暗になった。夜になった訳ではない。突然消えた光源に、目が慣れていないだけだ。

 数十秒が経ち、ようやく目が見えるようになってきた。


「……エルヴィス先生、こうなるの分かってたんですか?」


「いやいやぁ。ある程度は予想してたけど、ここまでとは予想外だったんだなぁ、これが」


 エメロンの追及に、エルヴィスは素直に予想外である事を認める。

 確かにユーキとエメロンも、アレクの魔力量が多いのではないかと予感はしていた。だから直前に渡されたサングラスにも、さほど違和感を感じる事はなかったのだ。

 しかし先程の光量では、サングラスなど焼け石に水だ。いや、サングラスが無ければ眼に深刻なダメージを受けていた可能性はあるが。


「さぁて、みんな目は回復したかなぁ? それじゃあ、授業を再開しようかぁ」


 そのエルヴィスの掛け声で、先の検査で使用した、オモチャとライトスタンドの解説がなされる。

 オモチャで魔力コントロールの精度を、ライトスタンドで魔力量を測っていた。魔力量と魔力コントロールの高さは、例外はあるが反比例の関係にある事が多く、魔力量の高い人間は魔力コントロールが苦手で、魔力コントロールの得意な人間は魔力量が低い傾向にあるらしい。

 これらの確認にオモチャと改造ライトスタンドを用いたという訳だ。


「じゃあ、ボクは魔力が大きくて、ユーキは魔力の操作が上手い人ってコト?」


「そうなるねぇ。もっともぉ、君たちほど極端な例はあまり見ないけどねぇ」


 アレクの確認を肯定した後、エルヴィスは講義を続ける。

 魔法陣と魔力があれば魔法は発動する。しかしコントロール出来ない力は危険だ。『一般魔法』であれば、足りない魔力と不安定な制御を増幅・制御の術式がカバーしてくれる。その効果は先程見た通りだ。

 魔力を抑制する術式があったとはいえ、ユーキは弱い光を出すのが精一杯だったし、アレクが出した光は、町中であれば騒ぎになっていたかもしれない。

 そう考えれば、現状で最も魔法の適性が高いと言えるのはエメロンだろうか。


「というわけでぇ、アレク君はさっきのオモチャをゴール出来るようになるまで『戦闘魔法』の使用は禁止しまぁす」


「えーっ」


「いや、危ねぇだろ」


「僕もそう思うな……」


 不満を漏らすアレクに、ユーキとエメロンが即座に突っ込む。

 あんな強烈な光を見た直後なのだ。あれがもし、火を生み出す魔法陣であったなら今頃全員焼け死んでいる。


 そう考えたユーキは背筋がゾッとする、が同時にある事を思い出した。

 確かに『戦闘魔法』をアレクが使えば絶大な威力を発揮するだろう。魔物すら一撃で屠るくらいの……。

 しかし、「あの時」アレクが放った閃光は『戦闘魔法』ではない、と思う……。


「エルヴィス先生、魔法陣を使わない魔法ってあるんですか?」


「ユーキ、それって君が見たって言う……?」


「ふぅむ。それじゃあ、その事についても教えようかぁ。元々、それを教えるようにって依頼された訳だしねぇ。君たちは『象形魔法』以外にも魔法が存在するってコトは知っているかなぁ?」


「はいっ! 古代魔術と結界魔法だよねっ」


「……アレク、それはお話の中の創作だよ。『神聖魔法』と『精霊魔法』、ですよね?」


「エメロン君、せ~かぁいっ。アレク君はざぁんねんだねぇ。でもぉ、実はもう1つ、魔法があるんだなぁ、これが」


 ユーキの質問にエルヴィスは質問で返し、それにアレクが元気よく答える。が、それをエメロンが訂正する。

 しかしエメロンの答えは正解ではあるようだが、不十分だったようだ。その足りない答えをエルヴィスは勿体ぶりながら答えた。


「それは『根源魔法』。こぉれがユーキ君の欲しかった答えだよぉ」


 エルヴィスの口から紡がれた言葉、『根源魔法』――。

 その単語は、なぜかユーキの心に不吉な予感を感じさせた。


「しかし、そろそろ良い時間だねぇ。続きは次回にしようかぁ」


 言われて見てみれば、既に日が傾きかけている。

 良い所でお預けを食った3人は、渋々と帰路につくのだった。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「さあ、『根源魔法』を教えてくれよっ!」


 その数日後、魔法の授業の再会の日。ユーキはエルヴィスに食い気味に詰め寄った。


 同じ家で過ごしていたのだから、ユーキにはエルヴィスに尋ねる機会はあった。実際、何度も尋ねていたのだが「1人で抜け駆けは良くないなぁ」と言って、決して教えてくれなかったのだ。


 ユーキにとって3人の危機を救った、アレクの放った閃光……いや、『根源魔法』に対する関心は、ありふれた『一般魔法』やその同系である『戦闘魔法』よりも非常に重要なものだった。


 それは、あまりに焦らされた為にエルヴィスに対する敬語も忘れる程だ。


「ふふぅん。随分『根源魔法』に関心があるようだねぇ。でぇも順番にいこうかぁ。まず、魔法はどんな種類があったか覚えているかなぁ、アレク君?」


「えっと、『一般魔法』、『戦闘魔法』、『神聖魔法』に……、『精霊魔法』と、『根源魔法』の5つ……で、合ってる?」


「うんうん、よく覚えてたねぇ。付け加えるとぉ、『一般魔法』と『戦闘魔法』はぁ、まとめて『象形魔法』で1つ、とカウントするのが正確だけどねぇ」


 逸るユーキを他所(よそ)に、エルヴィスはゆっくりと講義を進める予定のようだ。

 いや、ここしばらくの同居生活でエルヴィスの性格も大分と分かってきた。ただ単にユーキを焦らして楽しんでいるだけの可能性も高い。

 そんな事を思うユーキだったが、あえて口には出さず授業の流れに従う。こういう時に文句を言っても事態が好転する事など無い事を知っているからだ。……本当に9歳の子供か。


「でぇは、ユーキ君。『象形魔法』と、それ以外の3つの魔法の違い、分かるかなぁ? 『象形魔法』の特徴を挙げて貰ってもいいよぉ」


「…………。魔法陣が必要で、誰でも使う事が出来て、大陸中に広まっている、かな?」


「そぉれが一般的な認識だねぇ。正しくは、魔力が無ければ使う事は出来ない。だから魔力の無い者には広まってないねぇ」


「魔力が、無い……? そんな人、居るんですか?」


「もぉちろん居るよぉ。エルフなんかがそうだねぇ」


 エメロンの疑問に対するエルヴィスの答えは意外なものだった。

 実際のエルフを3人は見た事は無いが、創作の物語では魔法が得意な種族と描かれる事が多い。そのエルフが魔力が無いなどとは、にわかには信じられないものだった。


「話を戻そうかぁ。『象形魔法』が普及して、それ以外の魔法が普及しない理由、エメロン君は分かるかなぁ?」


「それは……、使える人が少ないからじゃ?」


「そのとぉ~り。他の3つの魔法を使うには、特別な才能が必要なんだなぁ、これが。じゃあ、まずは『神聖魔法』と『精霊魔法』から説明しようかぁ。この2つの魔法は似通っている部分があってね――」


 そう言ってエルヴィスは『神聖魔法』と『精霊魔法』の解説を始める。『根源魔法』は後回しのようだ。とことんユーキを焦らすつもりのように感じる。


 『神聖魔法』とはブライ教の神、ブライア神に祈りを捧げて、神の奇跡を起こす魔法らしい。

 この魔法を使用する為にはブライア神へ祈りを届ける必要があり、それが出来る者は非常に稀でブライ教においては『聖者』や『聖女』と呼ばれている。

 余談だが、聖歴とは初代聖女の誕生した年を元年として始まった元号らしい。


 そして『精霊魔法』は、大気に漂う精霊の力を利用して行う魔法だ。

 精霊はどこにでも居るらしいが、それを見る為にはやはり特別な才能が必要との事だ。また、精霊は物語で描かれるような人や動物の形などではなく、大気に漂うモヤのようなものらしい。(ちなみに精霊は、放出された魔力に干渉するらしく、特に『象形魔法』は距離による減衰が激しいそうだ)

 そして、エルフは精霊を見る事が出来る者が多く、『精霊魔法』の使い手の多くはエルフ族らしい。


 『神聖魔法』と『精霊魔法』の違いは、力の源が神か精霊か。そして『神聖魔法』で遠くに存在する神に祈りを届けるには、祈りと共に大量の魔力を乗せる必要があるが、どこにでも居る精霊の力を使う『精霊魔法』は、魔力を一切必要としないとの事だった。


「じゃあ、『神聖魔法』と『精霊魔法』はボクたちには使えないの?」


「絶対とは言わないけどねぇ。使い手の殆どは生まれつき使えるらしいよぉ?」


「それじゃ、『根源魔法』は……?」


「それも同じだねぇ。恐らくユーキ君とエメロン君が使えるようになる事は無いんじゃあ、ないかなぁ?」


「俺とエメロンは……、って事は、やっぱり……っ」


 あの時、魔物を倒した閃光……、アレクの放った光はやはり『根源魔法』だったのだ。

 ひとまず謎が解けはしたが、その結果として新たな問題も浮かぶ。


 なぜアレクが『根源魔法』を使えるのか……は、ひとまず良いとしよう。生まれつき、アレクにその才能があったのだろう。

 では、『根源魔法』の特性と安全性は?ユーキの見立てではあるが、アレクが右腕を骨折したのは『根源魔法』を使用した際の反動だろう。毎回そのような代償を負うようでは、周囲はともかくアレクの身体が持たない。

 それに、『神聖魔法』と『精霊魔法』はユーキも耳にした事があったが、『根源魔法』の存在は初耳だ。なぜ、こんなに知名度が低いのかも気にかかる。ただ単に『根源魔法』の使い手が他の2つに比べて希少だから、という理由であればいいのだが。


 これらの事は知っておくべきだ。そう考えたユーキは、エルヴィスに率直に質問を投げかけた。


「ユーキ君は友達思いだねぇ。それともぉ、別の理由かなぁ?」


「ど、どーでもいいだろっ。それより答えは?」


「『根源魔法』は魔力そのものをエネルギーとして扱う魔法だ。だぁから、魔力の操作が上手くなれば自然と『根源魔法』も使いこなせるようになる筈さぁ」


 からかうエルヴィスに、ユーキはどもりながら答えを急かす。

 アレクの事が心配なのは事実だが、それが友情からなのか、一種の憧れを感じているからなのか、それとも別の感情なのか……。

 いずれにしても、臆面もなく口にするような事ではない。


 それに、今重要なのはアレクの安全面だ。

 幸いエルヴィスが言うには『根源魔法』も、『戦闘魔法』と同じく魔力の操作が上達すれば安全に使用出来るようになるらしい。

 ならばアレクに必要なのは、例のオモチャで魔力操作の練習をする事か。


「ただねぇ、魔力操作が上達しても人前で『根源魔法』を使うのは控えた方がいいかもねぇ」


「なんで?」


「エルフ族が『精霊魔法』を使うように、『根源魔法』も「ある種族」が得意としているんだなぁ、これが」


 エルヴィスの言葉に、ユーキの不安が膨れ上がる。

 これは既に予感では無かった。ここまで聞けば、察しの良いユーキには先の答えの予想はつく。

 『根源魔法』の得意な「ある種族」。それは、ユーキたちが生まれる前にヒト族と戦争をした、未だに多くの人から忌避の目で見られる種族――。


「そう、魔族だぁね」


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