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第6話 「魔法の授業と3人の素質(前編)」


「さぁて、では最初の授業を始めるとしようかねぇ」


「はーいっ!」


「…………」


「うんうん。アレク君は元気でいいねぇ」


 エルヴィスがユーキの家にやってきた翌日、エルヴィスによる魔法の授業が早速始まる事となった。

 場所はアルトウッド家、ユーキの自宅の客間だ。

 授業を受けるのは、アレク・ユーキ・エメロンの3人である。


 ユーキは、昨日にエルヴィスから受けた不信感を拭いきれておらず、やや疑いの眼差しでエルヴィスを見つめる。それをなんとなく察したエメロンは、若干戸惑いながらも様子見の構えだ。

 なおアレクは、そんなユーキたちに一切気付いていない様子で、いつも通り元気一杯だ。


「それじゃあ、まずは『一般魔法』の基礎知識からいこうかぁ。ユーキ君、キミは何故『一般魔法』と呼ばれているか知っているかなぁ?」


「そりゃ……、一般的な魔法って意味なんじゃないですか?」


「う~ん、間違ってはいないけど、それじゃ30点だぁね。エメロン君は分かるかなぁ?」


「えっと、元々は『象形魔法』っていう名前だったけど、魔法の改良が進んで、誰でも……、一般人でも気軽に使えるようになった事から普及して、それで『一般魔法』と呼ばれるようになった……です」


「すんばらしい! ほぼ満点の回答だねぇ!」


 エルヴィスがエメロンの回答を褒めちぎる。アレクは素直に感心した表情でエメロンを褒め称えるが、正答できなかったユーキは悔しい気持ちと誇らしい気持ちの半々だ。当のエメロンは恥ずかし気に(うつむ)いているが。


「では、『象形魔法』と『一般魔法』の違いは知ってるかなぁ? なぜ一般人でも使えるようになったか、だぁね」


 続けられる質問に3人は顔を見合わせるが、誰も分からないようだ。

 その様子を確認したエルヴィスは解答を示す。恐らく、最初から3人に答えられるとは思っていなかったのだろう。


「『一般魔法』の魔法陣の中心にはねぇ、魔力を増幅・制御する術式が組んであるんだねぇ。これのおかげで、非常に僅かな魔力で安全・確実に魔法を発動する事が出来るんだなぁ、これが」


「へぇ~……」


 初めて知る知識に素直に感心する3人。これにはユーキも声が漏れた。

 生活の中にありふれた魔法の道具。部屋の灯りや、コンロ、水回りなど、魔法無しの生活など考えられない。

 しかし、魔法が魔法陣で成り立つことは知っていても、魔法陣の仕組みなんて知ろうとする事はなかった。


「ただぁしっ、この術式には最大の長所にして欠点もあるんだなぁ、これが」


「長所が、欠点?」


「そう、この術式はさっき説明した通り、魔法を安全に使用する為に「完璧に」制御されるんだなぁ。そのおかげで、一定以上の出力の魔法にはならないんだぁよ」


「じゃあ、増幅だけすればいいんじゃない?」


 そう問いかけるアレクだが、エルヴィスは「残念だけど」と前置きをしてからアレクの考えを否定する。

 エルヴィスが言うには、増幅と制御は2つの効果を合わせた1つの術式であり、切り離して片方だけを利用する、といった事は不可能だそうだ。


 とはいえ、これは欠点になるのだろうか?

 確かに大きな力を発揮する事は出来ないのだろうが、それでも日常生活において不便に感じた事は無い。そう考えたユーキは次の瞬間、自分の考えを即座に否定した。

 大きな力の必要な、切羽詰まった事態……。つい先月、自分たちの身に起こった事を思い出したのだ。


「この術式のおかげで『一般魔法』は普及した。だけど術式を組み込まない『象形魔法』も未だに使われているんだなぁ、これが」


「……それって」


「ユーキ君、察しがいいねぇ。そう、現在では『一般魔法』と区別して『戦闘魔法』と呼ばれているねぇ」




◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「さぁさぁ、今日も元気に始めようかぁ」


「……あの、エルヴィス先生。なんで今日は町の外まで来たんでしょうか?」


 3度目の授業の日。授業を開始しようとするエルヴィスにエメロンが質問をする。

 今日はエルヴィスに連れられて町の外れまで来ていた。周りは草原で、シュアーブの町とそこから伸びる街道が見える。そんな、街道から少し離れた位置に4人は居た。


「今日は実技を行おうと思ってねぇ。ここなら人の迷惑にならないだろぅ?」


「迷惑?それって……」


 それを聞いたユーキは悟る。

 『一般魔法』の使用なら町中だろうと、家の中だろうと問題ない。そもそも魔法の道具などありふれているのだ。

 人に迷惑をかける可能性のある魔法……。それはきっと……。


「あぁ、緊張しなくても大丈夫だよぉ、危険な魔法は使わないからねぇ。まずはこれで3人にゲームをしてもらおうかぁ」


「……なに、これ?」


「これは僕が帝都で買ったオモチャだよぉ」


 エルヴィスが差し出したのは長方形の箱だった。

 箱は透明なガラスのような素材でできており、中身が透けて見える。そして中には小さな赤い球と、それがギリギリ通れるくらいの幅の壁が迷路のように並んでいた。


「これはねぇ、箱を持って魔力を流せば球を動かせるんだ。そして壁に当たらない様にゴールまで行ければクリアだよぉ」


「……ルールは分かりましたけど、何でオモチャを?」


「いやいや、これがなかなかバカにした物でも無くてねぇ。なぁんとっ、これで君たちの魔法の素質が丸裸! なぁんだな、これが」


「嘘くせぇ……」


 誰に言うでもなくユーキが呟く。

 懐疑的なユーキとエメロンを他所(よそ)に、アレクが「面白そうっ! ボクが先にやっていい?」と非常に乗り気だ。

 特に順番を気にしない2人はアレクに先手を譲る。


「球が壁にぶつかると魔力が流れなくなって、一度手を離さないと再開できないからねぇ」


「うんっ! ……よし、あっ⁉」


 開始早々、アレクの球は壁にぶつかって動かなくなった。

 球は最初の曲がり角を曲がる事も無く、スタート位置に戻り微動だにしない。


「うぅ~、難しいよぉ~……。次はエメロンだよね、頑張って!」


「うん、ありがとう」


 アレクからオモチャを受け取ったエメロンがゲームを開始する。

 慎重に球を動かし、序盤は難なく進んでいく。が、後半になるにつれて壁の幅は狭くなり、球に、より繊細な動きが要求される。

 エメロンは神経を集中して少しずつ球を進めていくが……。


「……ここを抜けたら、あっ⁉」


「あぁ~っ、惜しいっ!」


 最後の難所でエメロンの球は壁に当たってしまう。

 ほぼクリア目前での失敗にエメロンはもちろん、アレクとユーキも落胆する。


「ざぁんねん、惜しかったねぇ。じゃあ最後はユーキ君、いいトコを見せて欲しいねぇ」


「ユーキ、頑張ってボクとエメロンのカタキを取って!」


「んな大げさな……」


 ユーキはエメロンからオモチャを受け取り、ゲームを開始する。

 序盤は苦もなく球を進め、終盤に差しかかっても球の動きに淀みはない。思ったほどの難易度ではない事に、ユーキは若干拍子が抜ける。

 そして、エメロンが失敗した難所もくぐり抜け……。


「すごーいっ! ホントにクリアした!」


「いや、アレクとエメロンがやってるのを見てたからだよ」


「そんな事ないよ。ユーキの球の動き、すごくスムーズだった」


 見事にゴールしたユーキを、アレクとエメロンが褒め称える。

 ユーキは謙遜をするような態度を見せてはいるが、これは本心だった。思ったよりも簡単だったし、アレクはともかくエメロンはもう一度やればきっとクリア出来るだろう。と、そう思っていた。


 その後、エルヴィスの「もう少しやってみようかぁ」という指示で、それぞれが何度かやってみたが、結果は最初と大きく変わる事は無かった。

 エメロンは何度やっても、最後の難所を抜ける事が出来ずにいたし、アレクは毎回、最初の壁にぶつかっていた。

 ユーキはその後にもう1度だけやってみたが、やはり簡単にクリア出来た。


「ふむふむ。こんなモンだろうねぇ」


「ねぇ、エルヴィス先生。これってボクは魔法の素質がないってコト?」


「うんうん、不安になるよねぇ? それを知るために、お次の検査にいこうかぁ。次の検査で使うアイテムはこれだぁっ!」


「……ライトスタンド?」


 エルヴィスが取り出したのは一見すると何の変哲もないライトスタンドだった。

 先程のオモチャはともかく、ライトスタンドで一体なにをどう検査するというのか?3人の疑問の表情に、エルヴィスはオモチャの時とは違い、説明を開始した。


「見ての通り、ライトスタンドだぁね。ただぁし、このスタンドの魔法陣には増幅・制御の術式がない。つまり『戦闘魔法』という事だねぇ。以前の授業でやった、『戦闘魔法』の特徴、ちゃあんと覚えてるかなぁ?」


「えっと、増幅・制御の術式がないってコトは、魔法の発動がタイヘンで……」


「……魔力次第でいくらでも明るくなる、って事か?」


「せぇ~かいっ。付け加えるとこのスタンドの魔法陣には、魔力を抑制する術式が組んであるから、明かりを点けるのは少ぉし大変なんだなぁ、これが。じゃあ、ユーキ君・エメロン君・アレク君の順番でやってみようかぁ」


 そう言ってエルヴィスはスタンドを手渡した。

 受け取ったユーキはスタンドを見つめる。普通のスタンドならスイッチに手を触れただけで、特に意識する必要もなく指から導線、魔法陣へと魔力が流れ、明かりが点く。

 しかしユーキがいくらスイッチに触れてみても、明かりが灯る気配は無い。


「エルヴィス先生、明かりが点かねぇんだけど……」


「単純に魔力不足だねぇ。身体の中の魔力を指先に集めて触れてごらん。君ならきっと、すぐ出来るよぉ」


 そう言われても、魔力など意識した事が無い。

 半信半疑のままユーキは目を閉じ、自分の身体の中の魔力(?)を探る。血流の流れに良く似た、その「何か」を指先に集めるように意識する。その行為が正しいのかどうか分からないまま、ユーキはゆっくりと目を開けてスタンドのスイッチに触れた。

 すると、先程は全く反応の無かったスタンドがぼんやりと光った。


「うんうん。成功だねぇ」


「……ふぅ。スタンドに明かりを点けるのにこんな疲れるなんて、初めてだ」


「慣れればもっと簡単に出来るようになるさぁ。さ、次はエメロン君の番だよぉ」


「は、はい」


 ユーキの結果を見たエメロンは、「簡単ではなさそうだ」と考えて最初からユーキを真似て指先に意識を集中させる。

 そしてスタンドのスイッチに触れると、ライトが(まばゆ)く点灯した。その光はユーキのそれより明らかに強く、直接見れば目が(くら)む程だ。


「エメロン、すごいっ! ユーキより明るいよっ!」


「エルヴィス先生……、これってもしかして……」


「質問は後にしようかぁ。最後はアレク君だけどぉ……。その前に皆、コレを着けようかぁ?」


 そう言って、エルヴィスが3人に手渡したのはサングラスだった。

 アレクは不思議そうな顔をしているが、ユーキとエメロンは何となく察した。


(この流れはきっと……)


 全員がサングラスを掛けたのを確認すると、アレクにスタンドが手渡される。

 アレクも「う~ん……」と唸りながら、2人と同様に集中をしてスタンドのスイッチに触れる。

 その瞬間、周囲が真っ白な闇に包まれた———。


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