第39話 「ユーキとフラン」
揺れる馬車の中で、ユーキがは思案に耽っていた。
これから向かうボーグナイン伯爵邸で、どのようにしてリングを譲ってもらうか。その事にユーキは頭を悩ませていたのだ。
ボーグナイン伯爵の無事は、フレデリックが言っていたのだから間違いないだろう。そして彼が探し求めているリングを持っているのも、ベルの『精霊魔法』で確認済みだ。
しかしボーグナイン伯爵はユーキの事を快く思ってはいない……いや、嫌っているだろう。それはユーキが、フランと帝国皇子との結婚を破談にしてしまったからだ。
どう見ても政略結婚だったが、娘の結婚を破談にされて笑って許す親などどこにも居まい。
(リングを譲ってもらうどころか、門前払いじゃねぇかなぁ?)
まともに会話をしてもらえるかさえ怪しいと考えるユーキだが、フランの結婚を邪魔した事は後悔していない。
フランの結婚相手には、もっと相応しい人物が居るのだから。……バルタザールも最初に思った印象とは違ったが。
「……ユーキ様」
「ん? どうかされましたか、ジュリア様?」
不意に対面のジュリアに話しかけられる。
名目上は、ユーキはジュリアを家に送り届ける役目で一緒にいる。ジュリアはフランの妹だが、ほとんど初対面だし貴族令嬢だ。失礼の無いように返事をしたのだが……。
「敬語も敬称も不要ですわ。ユーキ様はお姉様とお知り合いなのでしょう? ワタクシより年上ですし、アレクの友人なのですから」
ジュリアにはフランと会話をしている所を見られている。フランには敬語を使っていないのに、妹の自分に使われるのは居心地が悪いのだろう。
そう考えたユーキは、少し躊躇いながらもジュリアの言葉に従う事にした。
「わかった、ジュリア。これでいいか? でも、他に人がいる時は面倒だから敬語な」
「それで結構ですわ。それで、ユーキ様にはお聞きしたい事があるのですけど……」
ユーキの表情を窺うように、言いにくそうに言葉が詰まる。
「何だ? 俺に答えられる事なら、何でも答えっけど」
なかなか続きの言葉を発しないジュリアに焦れて、迂闊にもそう言ってしまった。
だがユーキは、ジュリアの質問を聞いた直後に激しく後悔する事になる。
「それでは……。ユーキ様は、お姉様をお慕いしてらっしゃるのですか?」
「おっ⁉ した、い……っ⁉」
予想外の質問に思わず復唱してしまった。
ユーキがフランの事を好きなのは事実だ。愛していると言ってもいい。
だが、会ったばかりのジュリアにそれを知られる理由など……。
「ハ、ハハ……。な、何でそんなコト……?」
「お姉様の結婚を阻止しようと決闘までなさるものですから。愛がなければできませんわっ」
渇いた笑いで誤魔化すが、ジュリアの言葉に二の句が継げない。
「愛のない結婚を阻止すべく、真実の愛で立ち向かう」なんて、いかにも女性が好みそうな恋愛小説の題材ではないか。
(って、ちょっと待てよっ! 会ったばかりのジュリアがそう思ったってコトは、昨日の状況を知ってたヤツは大体そう思ってるってワケで……)
この際、赤の他人にどう思われたかはどうでもいい。問題はアレクやエメロン、何よりフラン本人に伝わってしまっているかどうかだ。メルクリオがどう受け取ったかも気になって仕方がない。
ユーキは先程まで頭を悩ませていたリングの事などすっかり忘れてしまい、この事をどう誤魔化すかで一杯になってしまっていた。
「お父様は反対すると思いますけど……。ワタクシは応援してますわっ!」
「いや、ちょっと待って……。ジュリアさん……?」
前言撤回だ。見知らぬ他人でもこんな風に思われるのは恥ずかしすぎる。それにジュリアは赤の他人ではない。フランの妹なのだから。
「ユーキ様。いえ、ユーキお義兄様とお呼びした方がいいのかしらっ? 真の愛の為にがんばりましょうっ!」
「人の話を聞けぇ~っっ‼」
こうしてユーキの考えは全くまとまらないまま、馬車はボーグナイン伯爵邸への道を進むのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
程なくして馬車は目的地に着き、地に足を降ろしたユーキが見たのは、異様な光景だった。
「……何してんだ、こりゃあ?」
目の前に映るのは宿屋くらいの大きな屋敷だ。リッジウェイ侯爵邸と比べれば質素に映るが、庶民の家屋とは比べる事も出来ない豪邸だ。
だが、その屋敷の外には大勢の騎士たちが何やら作業をしていた。
「これで全部かっ?」
「いえ、書斎に巨大な金庫がありまして、それを運ぶのは……」
「チっ。伯爵っ! 金庫の鍵はっ⁉」
騎士たちの会話は不穏極まりない。見てみれば、騎士たちは屋敷から書類や調度品、家具まで運び出し、まるで引っ越し……いや、家探しだ。
「しょっ、書斎の金庫はお許しくださいっ」
「……伯爵。貴様は自分の置かれている立場が理解できていないようだな?」
視線を向けてみれば、騎士に囲まれたボーグナイン伯爵がいた。
ボーグナイン伯爵は平身低頭といった態度で、騎士の1人に許しを乞うているが、そんな彼に近寄り、声を掛ける女騎士の姿が見えた。
「お父様、ご観念を。このままではテロの首謀者にされてしまいます」
「フランチェスカっ。お前は父親を売る気かっ⁉」
「……今の私はエストレーラ王国の近衛騎士です。王家に害をなすのなら、肉親にでも刃を向けましょう」
「おっ、お前ぇっ‼」
普段のメイド服とは違って女性用の騎士鎧に身を包んでいた為、すぐには気付かなかったが、よく見ると女騎士はフランだ。
フランは父親であるボーグナイン伯爵と言い合いをしている様に見えたが……。
「お姉様っ! お父様も、ご無事で何よりですわっ!」
だが様子を窺っていたユーキの後ろから、突然ジュリアが飛び出した。
そのまま2人に駆け寄るジュリアに、ユーキも続く。
「ジュリアっ! 今までどこで何をしておったのだっ⁉」
「もっ、申し訳ありませんっ。成り行きでリッジウェイ侯爵邸でご厄介に……」
「この一大事にウロチョロしおってっ! 家が取り潰しになるやも知れんのだぞっ‼」
ボーグナイン伯爵はジュリアの姿を確認するや否や怒声を浴びせる。それに身を縮こまらせるジュリアだったが、間に割って入ったフランが毅然と父親に接する。
「ですから、家の物を全て検めて身の潔白を証明する必要があるのです。下手な隠し立てをすると本当に取り潰しになりますよ?」
「おっ、お前はっ、ワシを恨んで……」
「関係ありません。恨みなどもありません。昨晩の被害はご存知でしょう? 家どころか、私たち3人の命も危ういのですよ?」
フランの物騒な話に、ジュリアは理解が追い付かない。それは後ろで、ただ黙って聞いていたユーキも同様だ。
ただフランは絶対にこのような冗談は言わない。騎士たちの物々しい雰囲気も、ただ事では無い。
しかし、「私たち3人の命」……。その中にフランが入っているのなら、ユーキは黙ってはいられなかった。
「おい、フラン。どういうこった? 分かるように説明してくれ」
「ユーキ様……」
ユーキの質問にフランは口籠る。何度もユーキの顔を見ては目を逸らす。何かを言おうとしては、踏み止まる。
言葉を探して……でも見つからない。そんなフランの様子を、ユーキはただじっと黙って待っていた。
だが先に口を開いたのはフランではなく、ボーグナイン伯爵だった。
「……ハっ⁉ 貴様っ、昨日の小僧かっ⁉ おのれっ、貴様のせいでっ‼」
ユーキの事を、フランの政略結婚を邪魔した男だと思いだしたボーグナイン伯爵は憤慨して詰め寄って来る。
だがその進行はフランに遮られ……。
「いい加減にして下さいっ! この期に及んで暴れるというのなら、本当に斬らねばならなくなりますよっ⁉」
フランは手に持つ槍の穂先を向け、悲痛な叫びを上げた。
「フっ、フランチェスカっ。親に武器を向けるのかっ⁉」
ボーグナイン伯爵の非難にフランは何も答えないまま、槍を下げる事も無く、真っ直ぐに父親の目を見つめていた。
思わぬ修羅場に遭遇してしまったユーキは押し黙る事しか出来ない。
ボーグナイン伯爵からリングを譲って貰うどころの話ではない。そんな話など、言い出せる様な雰囲気ではない。
「……く。……そっ、そうだっ! ソイツだっ‼」
喚き散らし、歯軋りをするだけだったボーグナイン伯爵が、突然何かを閃いたかのように声を上げる。
その場の全員の顔に疑問符が浮かんだが、続けられた言葉で驚愕の表情へと変わる。
「ソイツが全部仕組んだんだっ! 思えばソイツが現れてから全てがおかしいっ! 決闘もっ、魔物が現れたのもっ! 王子殿下が誘拐されたのもっ‼」
「……は? ゆう、かい……?」
「そうだっ! レオナルドがやった事などワシは知らんっ! きっと、この小僧と裏で繋がって……」
何となく、ユーキにもこの事態が理解できてきた。
根拠は分からないが、ボーグナイン伯爵は昨晩の事件の嫌疑を掛けられているのだ。そして伯爵はそれを否認していて、ユーキが真犯人だと糾弾しているのだ。
「伯爵っ、勝手に機密を喋らないでもらおうっ」
「むぐっ……」
「おい、一旦伯爵を屋敷内に連れて行くぞ。金庫は伯爵本人に開けさせる」
近くの騎士がボーグナイン伯爵の口を塞ぎ、そう言って複数の騎士と共に屋敷の中へと引きずって行く。
その姿を、ユーキは呆然と眺めていた。
「お姉様……。お、お父様が……」
「大丈夫です。嫌疑が晴れれば自由になります。それよりジュリア、貴方にも聴取を受けてもらいます」
「ワ、ワタクシが……?」
「先輩……いえ、レオナルドが昨晩の騒ぎに乗じて貴族数名に暴行を働きました。その為、雇い主であるお父様に嫌疑が掛けられています」
淡々と語るフランの言葉にジュリアは……ユーキも目を見開き、言葉が出ない。
ユーキは昨晩に知り合ったばかりだが、元近衛騎士が一体なぜ貴族に暴行などを行うというのか?
しかし、それよりも聞き捨てならない事をボーグナイン伯爵は去り際に言っていた。
「フラン。さっき親父さんが言ってた『王子の誘拐』ってのは……?」
ユーキの疑問にフランが眼を鋭くする。
一瞬戸惑うが、それで引き下がる訳にはいかない。王子というのがメルクリオの事ならば、ユーキだって黙っていられない。
「おいっ、フランっ!」
声を強くして詰め寄るが、フランは目を伏せて何も語らない。
だが、その態度がユーキに悟らせた。誘拐されたのが王太子や帝国の皇子たちなら、フランはこんな態度を取りはしない。
「王子様が……?」
「…………」
確認の言葉にも返事はない。
だが、しばらく待ってフランが放ったのはユーキの期待通りの言葉ではなかった。
「その事は、緘口令が布かれています。他言なさいませぬよう……」
「んなコト言ってる場合かよっ! いつ、誰がっ⁉ 犯人はっ⁉ 手掛かりはねぇのかよっ⁉」
ユーキの激しい追及にジュリアはたじろぐ。だが、それでもフランは目を伏したままだ。
それを見てユーキは次第に苛立ちを募らせていった。
「お前はこんなトコで何してんだっ⁉ クソ親父の相手なんかしてる場合かよっ‼」
なぜ、昨晩バルタザールの挑発に乗って決闘までしたのか。全部、フランの為だ。
フランの事が好きだ。愛してる。だからフランには幸せになって欲しい。例え、フランの隣にいるのが自分ではなくても。
「お前は王子様の専属メイドじゃねぇのかよっ⁉ 近衛騎士なんだろうがっ⁉」
そうだ、フランの隣にいるのはメルクリオが相応しい。いや、メルクリオでなければいけない。
なぜならフランが好きなのはメルクリオなのだから。
「優先しなきゃならないのは何だっ⁉ お前にとって王子様はその程度なのかよっ⁉」
フランの為にこれほど身と心を割いているというのに、当の本人はどうだ? 誘拐されたメルクリオを探すでもなく、愚図る父親の説得などしている。
いくらフランの為に動いても、これでは道化ではないか。
「……ぃ」
一方的に捲し立てるユーキに、目を伏せたままのフランが震える。
だが、直後に上げた顔には……琥珀色の瞳には、大粒の涙が浮かんでいた。
「黙りなさい黙りなさい黙りなさいっ‼ 貴方に何が分かるというのですっ⁉」
突然、堰を切ったかのようにフランが叫ぶ。
先程までとは逆に、今度はフランの方がユーキに掴みかからんばかりの勢いだ。
「私が何も思っていないとでもっ⁉ でも私にも嫌疑は掛かっているんですっ‼ 見なさいっ、私にも見張りは付いているんですよっ‼」
ボーグナイン伯爵が疑われているのだから娘のフランも疑われるのは当然だ。言葉の通り、周囲には複数の兵士がこちらの様子を窺っている。
だが……。
「それが何だっ⁉ んなの無視すりゃいいだろうがっ‼」
「そんな事ができる訳ないでしょうっ⁉ 私も騎士なのですよっ‼」
「だったら騎士なんざ、辞めっちまえっ‼」
ユーキの主張はメチャクチャだ。
疑いの晴れていない状況で勝手な行動など許される筈がない。そもそも騎士がそんな簡単に辞められるものか。
それでもユーキはこう主張せずにはいられなかった。
フランが自分の幸せを放棄するような真似は、絶対に許せなかったから。
しばし、沈黙の時が流れる。
ユーキもフランも、睨み合うだけで何も言わない。ジュリアも何も言えない。周りの兵も見ているだけだ。
「……もういい」
数十秒の沈黙を破ったのはユーキだった。
突如フランから目線を外し、踵を返す。それを全員が、ただ黙って見ていた。
「王子様は俺が探す。何があっても、何に換えても、な……」
そう決意だけを示して歩を進める。
「な、なぜ……? 貴方がそこまで……」
去り行くユーキの背に、そう問いかけたのはフランだ。
なぜか? そんなのは決まっている。フランの為だ。愛する女の為なら、どんな決意だってできる。してみせる。
だが当然、そんな気持ちは口にできるはずもなく……。
「んなのぁ、決まってんだろ? 王子様が……ダチだからだよっ!」
嘘ではない。ただ本当の事を、本心を言っていないだけだ。
だが言い訳のように口にしたそれは、不思議にもユーキの胸にストンと心地よく落ちたのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「さって、啖呵を切ってきたはいいけど……。ベル、王子様を探せるか?」
「ユーキ~、いきあたりばったりなの~?」
ボーグナイン伯爵邸を離れたユーキは、メルクリオの居場所をベルに尋ねる。
ここ貴族街は、道の広さに反して人通りは少ない。こうして小声で話すくらいなら問題無いと考えての行動だ。
だが、いきなりの人任せにベルですら呆れ気味だ。
「しゃあねぇだろ? さっき知ったばっかなんだからよ」
そう言い訳をしてベルを急かす。ベルの『精霊魔法』なら効果範囲の中にメルクリオがいれば探知できる。問題は、その効果範囲が曖昧な事なのだが……。
ユーキに促されて呪文を唱えたベルだったが、その後に首を左右に振った。
「ごめんなさい、わかんないの~」
「そっか……。どのくらいの範囲かも分からねぇんだよな?」
せめて効果範囲さえ分かれば虱潰しに探すというのもアリなのだが。
ベルの魔法は、「ある」時はその場所も正確に分かるが、「ない」場合はどのくらい離れているのかも分からない。それも対象によって効果範囲が変わるので、10m先か、10km先かも分からないのだ。
「つっても手掛かりゼロだしなぁ。ベル、魔法を使い続けるのは出来るか?」
『精霊魔法』は、世間に普及している『象形魔法』やアレクの『根源魔法』とは違って魔力を使わない。だから理屈の上では無限に使い続ける事が可能なのだ。
だが理屈で可能だからといって、実際にそれをする事は簡単な事では無い。常に精霊を意識し続けなければならないのだから。
「う、うんっ。ぼく、がんばるの~っ」
だが、そんなユーキの無茶振りにもベルは気合を入れて応える。
ベルだってメルクリオの事が好きなのだ。彼を探す為に努力を惜しむ事など有り得ない。
そうして2人は王都を虱潰しに探す決意をした。……のだったが、不意に声を掛けられて出鼻を挫かれる。
「まったく、こんな所で立ち止まって何をしているのです? 大方、何も手掛かりが無くて身動きが取れなかったのでは?」
背後から声を掛けられて振り向けば、そこにいたのは……。
「フ、フランっ? 何で追っかけて……いや、見張りはどうしたんだよっ?」
ユーキに呆れたような声を掛けたのはフランだった。そこには先程のような焦りも苛立ちも見えず、ただ残念な人を見るような目つきでユーキを見ている。
「貴方が言ったのでしょう? そんなものは無視すれば良い、と」
「いや、言ったけどよ……。騎士の役目はどうしたんだよ? 親父さんや妹にも迷惑がかかるんじゃねぇのか?」
「父やジュリアは問題ありません。騎士も先程、辞しました」
「はぁ?」
とんでもない事をサラリと言ってのけるフラン。
嫌疑が掛けられているフランが飛び出したとなれば、家族への追及も強いものになるに違いない。近衛騎士を、たった数分で辞める事など出来るはずがない。
だが、それを言ったフランの顔は見惚れる程に穏やかに笑っていた。
「私にとっての問題は殿下の安否のみ。そうでしょう? ユーキ様」
あまりにも美しいフランの面にユーキは心を奪われる。
フランの心は他の何を顧みる事も無く、ただメルクリオだけを見ている。今、視線の先にいるのがユーキでも、フランが見ているのはメルクリオなのだ。
だが、それでいい。それでこそユーキの愛したフランなのだから。
だから……。
「よっし、迷子の王子様を迎えに行くぜっ」
「殿下への愚弄は、ユーキ様といえ許しませんよ?」
「2人とも、なかなおりしてよかったの~っ」
フランを加え、3人はメルクリオを探す為に行動を開始する。
何としてでもメルクリオを見つけ出さなくてはならない。国がどうしたとか、治安がどうだとか、国民の不安などどうでもいい。
ただ愛する女を親愛なる友の元へ届ける。今は、それ以外は考えられなかった。
今のユーキにはメルクリオの奪還しか頭にない。それはフランも同じはずだ。
共に同じものを見て、それが彼女の幸せに繋がる。たとえ自分の事が眼中に無くても、それだけで本望だ。
フランは自分などを見る必要は無い。ただ真っ直ぐにメルクリオだけを見ていればいい。
そんな風にユーキは考えていた。……しかし。
「ありがとうございます……。ユーキ様……」
小さく呟いた感謝は誰の耳にも届く事はなかったが、確かにユーキに向けて放たれた言葉だった。




