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第12話 「妖精の保護者、エレナ」


「この人が……、女王さま?」


 アレクは自分が感じた疑問を素直に口にした。

 アレクと同じ経緯を辿れば、きっと誰もが同じ疑問を抱いただろう。

 確かに、厳密には女王ではないと聞かされてはいたが、リゼットの口ぶりからは彼女と同族と考えるのが自然だろう。

 しかし目の前に現れた女性は、背が高く(あくまでアレクや妖精たちと比べてだが)背中に羽もついていない。顔は美人と言えなくもないが高貴な雰囲気は感じられず、(まと)う衣服も地味なもので、むしろ清貧なイメージだ。

 「妖精たちの女王さま」と呼ぶには、あまりにもイメージとかけ離れていた。


「はぁ……。リゼット、その呼び方は恥ずかしいから止めなさいっていつも言ってるのに……」


「別にいーじゃん。「先生」とか「母さん」とかよりカッコいいし」


「ベルはね~、エレナママってよぶの~」


 やはり、この女性が女王さまで間違いないようだ。本人はそう呼ばれるのを嫌がっているように見えるが。

 妖精たちは、それぞれが好きなように女性を呼んでいるようで、先生や母さん、ママなど呼び名は様々なようだ。

 アレク的にはリゼットと同意見で「女王さま」がカッコいいとは思う。誤解を招きやすいという事実はさておいてだが。


 その女王さまがアレクに向き直り、話しかけてきた。


「初めまして、アレクさん。わたしはこの子たちの保護者のエレナよ」


「あ、ボクはアレク……あれ? ボク、名前を教えてないよね?」


 自己紹介をするエレナにアレクも応えるが、名乗った覚えのない名前を呼ばれたことに疑問を覚える。

 そんなアレクを見たエレナは微笑んで疑問に答えた。


「わたしはね、この子たちが見聞きした事はなぁんでも知ってるの。もちろんアレクさんの事もね」


「へぇ~……」


 なるほど、そういう力があるのならアレクの名前を知っている事にも納得だ。

 それが具体的にどういった力なのか。魔法なのか、それとも先ほどリゼットが言っていたような神様から貰った力なのかは分からないが。

 アレクは深く考える事は無く、ただ感心していた。


「だからね、リゼット。あなたにはお説教が必要のようね?」


「うぇっ⁉」


 エレナは鋭い視線をリゼットに向け、説教を始めた。

 両手を腰に当て、眉を吊り上げて説教をするその様は、確かに「女王さま」というよりは「先生」や「お母さん」と呼んだ方がしっくりくる。


「勝手に『下』に行った事は、まぁいいでしょう。でも、なんでアレクさんをこっちに連れてきたの? この辺りには獣も、魔物だっているのよ? 何かあったらどうするの?」


「だ、だって……、この辺りには犬とかしかいないし。飛んで逃げれば……」


「あなたは飛べてもアレクさんは飛べないでしょっ!」


「あうっ!」


 言い訳をするリゼットに対してエレナは突っ込みを入れながら、リゼットの頭を指で弾いた。

 リゼットは額を(さす)りながら「ご、ごめんなさぁい」と謝る。

 デコピンとはいえ、2人のサイズ差を考えれば非常に痛そうだ。


「まぁ何事も無かったから、このくらいで許してあげる。アレクさん、ごめんなさいね?」


「う、ううん。ボクは何ともないし……。リゼット、大丈夫?」


「うん……。アレクもゴメンね」


 リゼットはアレクに対しても素直に謝る。

 アレクとしては何も危険を感じるような事は無かったし、そもそも妖精の国に興味が惹かれて自分からやってきたのだ。

 この事でリゼットが責められたり、謝罪されるのはどうにも居心地が悪かった。


 しかしそう感じたのも束の間、両手を”パンっ”と叩いたエレナは、にこやかな表情を浮かべて場の空気を切り替える。


「さて、せっかく久しぶりのお客様だし、精一杯おもてなししましょうか。アル、ペニー、食器を用意してちょうだい。お客様用のをね」


「「は~い」」


「今からお昼ご飯を用意するから、食べて行ってね」


 こうしてアレクは妖精たちの歓待を受けた。

 無邪気な妖精たちと話すうちに居心地の悪さも忘れ、エレナの用意した昼食に舌鼓を打つ。

 そして食事を終えた後にはまた妖精たちと話す。


 妖精たちと話して分かった事は、妖精たちの住むこの森は神様から貰ったもので人間はいない事。家の周りには獣は寄ってこない事。リゼットは度々『下』に行き、しばらく帰ってこない事があるという事だった。

 ちなみにエレナが妖精の姿とは違うという事も聞いてみたが、妖精たちもよく分かっておらず、エレナ自身ははぐらかして答えてくれなかった。


 妖精たちと過ごす時間は楽しく、あっという間に過ぎていく。


「そろそろ帰らないと暗くなるわよ。リゼット、送って行ってあげなさい。それとアレクさん、これを持っていきなさい」


「何これ?」


「匂い袋よ。中に危ない動物が嫌がる匂いのする草が入ってるの。それとリゼット、分かってると思うけど絶対に祭壇には近寄っちゃダメよ」


「わーかってるって! んじゃ、いってくるね~」


 感謝の言葉と共に匂い袋を受け取ったアレクは、リゼットと一緒に妖精たちの家を出ていく。

 歩き出してすぐに、アレクはリゼットに先程湧いた疑問を尋ねた。


「リゼット、祭壇ってなに?」


「ちょっと行ったトコに神様の作った祭壇があるんだよ。アタシたちがそこに近づくと女王さま、すんごい怒るの」


「へぇ~、ちょっと見てみたいなぁ」


「ダメだよ! ホンっトすんごいんだからっ!」


 神様の作った祭壇と聞いてアレクは興味を惹かれるが、リゼットは猛烈に拒否をする。このリゼットがこれほどまでに言うほど怒るとは、その祭壇には一体何があるのだろうか。

 しかし、このリゼットの口ぶりは過去に祭壇に近づいてエレナに怒られた前科があるように聞こえる。


 そのような雑談を交わしながら歩いて程なくして、2人は階段のある場所までたどりつく。


「じゃあリゼット、またね」


「うん、今度はアレクの家に招待してよ」


「いいよっ、ボクの友達も紹介するね!」


 そう別れの言葉を交わし、アレクが階段に足を掛けようとした時だった。


「…………~~っ‼」


「…………? 今、なにか聞こえた?」


「…………ゖて~~っ‼」


「ほらっ! またっ!」


 アレクの耳に、遠くから何者かの叫ぶ声が聞こえる。はっきりと聞こえた訳ではないが、これは助けを呼ぶ声ではないか。

 そう判断したアレクは声のする方に駆け出した。


「あっ⁉ ダメだよアレクっ! そっちは……っ!」


 リゼットがアレクを制止しようとする声が聞こえたが、それでアレクの足が止まる事はない。

 誰かが助けを求めているのだ。何が起きているのか、自分に何が出来るかは分からない。それでも知らない振りをする事など、アレクには出来なかった。


「ユーキ~~っ!」


「この声っ! エメロンっ⁉」


 声のする方に向かって走るアレクの耳に、今度ははっきりとその声が聞こえた。聞き間違う訳がない。今、助けを求めているのはエメロンだ。

 そう確信したアレクは更に足に力を込め、一心不乱にエメロンの元へ向かう。


「……やっぱり! エメロンっ!」


「あっ! アレクっ⁉」


 たどり着いた場所には、やはりエメロンが居た。

 そしてもう1体の……、獣の姿も。


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