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第18話 「ボーグナインの姉妹」


「でさ、今度パーティーに出席する事になったんだよねーっ」


 現在は王都の外れにある牧場での仕事中。アレクは(きゅう)寝藁(ねわら)を入れ替えながら、遊びに来ていたジュリアへと話していた。


「ふぅん。庶民のパーティーなんて、さぞ貧相なのでしょう? どこで開くつもりなのかしら?」


「確か、王宮って言ってたよ?」


「…………」


 アレクの返答にジュリアは絶句する。というのも無理はない。ジュリアはアレクが貴族だという事を未だに知らないのだから。

 なら「パーティーに出席する」というのは、護衛か何かだろうかと考えた。暴れ馬をも止めてみせたアレクなら護衛にはうってつけだと思ったからだ。


 だが、そんなジュリアの考えもアレクは否定した。


「護衛? 違うと思うよ? 「侯爵家の一員として出席しろ」って言ってたし」


「侯爵家っ⁉ いぃ、一体どういう事ですのっ⁉」


 ここに来てようやく、アレクは自身がバーネット子爵家の生まれであり、リッジウェイ侯爵家の血も継ぐ者である事を説明した。


「バーネット子爵家といえば武功で成った家ですな。まさにっ、成りっ上がりっ!」


「レオナルドは知ってるんだ?」


「当っ然にございます。アレク様のお父上は、一部では有名人でらしたので」


 言葉の出てこないジュリアを尻目に、レオナルドとアレクで盛り上がっている。

 アレクは自分の家を「成り上がり」などと呼ばれても全く気にしていない様子だ。……普通なら「成り上がり貴族」などと呼ばれれば憤慨(ふんがい)ものなのだが。


 ジュリアは「バーネット子爵家」の名は知らない。だが「リッジウェイ侯爵家」なら知っている。

 このエストレーラ王国でも最古に当たる、格式高い貴族家だ。……ジュリアの「ボーグナイン伯爵家」とは格が違う。


「……その。アレク、様は……、リッジウェイ侯爵家の係累(けいるい)に繋がる方……、なのですのよね? その……、なぜ、そのような高貴な方が牧夫(ぼくふ)などを……?」


「なんでって、ボクは冒険者だからねっ。ユーキは「冒険者が仕事の()り好みが出来ると思うなっ」って言ってたよ?」


随分(ずいぶん)と達観なされた友人ですな。少々っ悲観っ、と言ってよいでしょう」


 ジュリアは遠慮がちにアレクへと問う。それは今までのアレクに対する態度を後悔したからだ。

 「リッジウェイ侯爵家」は格上だ。知らなかったとはいえ、その係累(けいるい)となるアレクに対して無礼な口を利いていたのだ。恐縮して委縮してしまうのも無理はない。


 だが、アレクがそんな事を気にしている訳が無かった。むしろ……。


「ねぇ、なんで急に「様」とかつけるのさ? それにジュリア、少し様子がおかしいよ?」


「それはアレク様がリッジウェイ侯爵家に連なる者と判明したからでしょう。即ち、お嬢様よりも格っ上っ、にございます故」


「そうなの? でもボクたち、友達でしょ? いつも通りにして欲しいな」


「で、でも……」


 アレクの疑問にはレオナルドが答える。その口調はふざけているが、内容は順当と言える。ジュリアも否定はしない。

 だが、そんな事が理由で余所余所(よそよそ)しい態度を取られるのは寂しいものだ。


「ジュリアは、ボクのコト平民だと思ってたんだよね? 貴族だって知ってたら友達になってくれなかった?」


「そんな事は……、ありま、せんけど……」


「だったらいいじゃんっ。ホラっ」


 そう言ってアレクは作業の手を止めてジュリアへと右手を差し出す。

 ジュリアはアレクの右手を(しば)し見つめた後、ゆっくりと手を握り返した。そして笑みを(こぼ)しながら、


「アレクっ。アナタ、少し臭いますわよっ」


「えっ? そう? スンスン……。ホントだっ、クッサイやっ」


「それからっ、いくらアナタが侯爵家の一員であろうとアナタの本来の生まれは子爵家なのでしょうっ? ならワタクシの伯爵家の方が格上なのですから、今まで通り敬意を払いなさいましっ」


「けーい?」


「お嬢様。アレク様が敬意を示された事は無いように思います。(すなわ)ち、無っ礼っ」


「レオナルドはお黙りなさいっ」


「ハッ」


 このような感じで、アレクの1日はいつもと同じように過ぎていくのだった。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇




”カンッ! カンカンッ、カンッ!”


「ふっ、ぉりゃあっ‼」


”カァンッ!”


「あっ⁉」


「勝負アリ、じゃな」


 王城・エスペランサ城の庭の外れで、木剣と棍を打ち鳴らしていたのはユーキとフランだ。

 前回の模擬戦がメルクリオ王子に好評だったのか、本日も2人は模擬戦をする事になっていた。ユーキとしては訓練にもなるので異論は無いのだが。


「凄いなユーキ。前回とは見違えるようじゃないか?」


「ユーキのあっしょうなの~っ」


「あぁ、武器を変えたからな。やっぱ前のアレは少し重すぎたな」


 メルクリオ王子とベルの賞賛を受けながら、ユーキは自己分析をする。

 前回の巨大な大剣と違い、今回ユーキが手にしたのは一般的なサイズの剣だ。分類的にはロングソードと呼ばれるサイズだろう。それなりに重量もあるが片手でも扱えるし、両手でも扱えるように柄も長い。

 このくらいなら機動力を損なわずに動き回る事も可能だ。


 フランとの模擬戦も、前回のようなイチかバチかのような作戦を使わなくても縦横無尽に動き回り、棍の攻撃を撃ち落としながら射程内に近付く事で、危なげなく勝利する事が出来た。

 やはり「新技」のベースにするなら、このくらいの武器の方が良い事が分かった。それだけでも模擬戦の成果としては十分だ。


「しかしパンチラもラッキースケベも無しじゃつまらんじゃろ? ホレ、勝者の権利でチチでも揉むか?」


「バカ言ってんじゃねぇぞ、エロジジィ」


「……っ。お望みなら、どうぞ……」


「望んでねぇしっ、どうぞじゃねぇよっ‼ 一体、俺を何だと思ってんだっ⁉」


 とんでもない事を言い出すギルド長に呆れて罵倒(ばとう)をしてしまう。だが、真に受けたのかフランは悲痛な表情でユーキへと自らの胸を差し出した。

 速攻で突っ込み、自らの正常性を訴えたユーキだったが……、惜しい事をしたなどとは思っていない。……断じて、そのような事を思ってはならないのだ。


 ユーキは慌ててフランから目を()らす。彼女を見てしまうと、無意識にその胸へと視界が動いてしまいそうになってしまう。


「あーっ。ユーキ、てれてるの~っ」


「バッ……、そ、それよりっ。模擬戦の賭けって、今回もアリだったのかよっ? 俺は聞いてねぇぞっ?」


「私も聞いてはおりません。ですが構いません。勝者に意見する権利など、敗者には無いのですから」


「いや、そこは構えよ。どんな覚悟だよ……」


 フランも聞いていなかったというのに、なぜ素直に応じようとしたのか。ユーキには、これが分からない。聞いていない約束など約束とは呼べない。

 だが、そんなユーキなどお構いなしにギルド長とメルクリオの中では決定事項だったようだ。


「模擬戦のルールは前回と同じっつったじゃろ? それに賭け事があった方が面白いしの」


「そうだな。それにユーキは勝ったのだから問題無いだろう?」


「ぐっ……、いやっ。フランの気持ちを考えろよっ。負けた後に「ルールだから言う事を聞け」って納得出来ねぇだろっ!」


「私は構いませんと言った筈ですが?」


「ぬっ、ぐっ……」


 これは一体何なのだろうか?

 勝者であるユーキだけが必死になって、敗者のフランを庇おうとしている。何より、フラン自身が受け入れているという事実が滑稽(こっけい)だ。


「ユーキ、へんなのーっ」


「一体、何をそんなにムキになっているんだ? フランに望みを言うのが難しいのなら私が聞こうか?」


 誰もユーキの気持ちを理解しない。いや、ユーキの心情を理解している者は1人だけ居た。だがそれは決して味方などでは無く……。


「むっほっほ。自分で決められんのならワシが決めてやろうかの。それじゃ、嬢ちゃんにはボウズにチュウをしてやるがよかろ」


「フザけんなっ⁉ テメーっ、面白がってムチャクチャ言ってんじゃねぇぞっ⁉」


 女の弱みに付け込むような真似はしたくない。そんな漢気(おとこぎ)があるというよりは、ただ純朴(じゅんぼく)なユーキの男心はギルド長にとってはただのオモチャだった。

 きっとどう転んでも面白い展開となる。そんなギルド長の思惑に、ユーキはまさしく期待通りの反応で返してしまう。

 そしてフランの反応はというと、これもギルド長の狙い通りだった。


「はぁ。まぁ、(ほお)になら……」


「構わん構わん。ホレっ、ブチュっとやってしまえっ」


「構うっつーのっ⁉ バカっ! フランっ、こっちくんなっ‼」


 いつまでも進展しない話をさっさと終わらせよう。ただそんな気持ちだけでフランはギルド長の提案に乗ろうとした。

 正直、(ほお)にキスをするくらいなど何とも思わない。相手がよほど不潔な男だったり、見るのも嫌悪するような男だったら御免だが。ユーキ相手なら嫌悪する事も、意識する事も無い。


 そんな風にまったく気負う事も無く近寄ってくるフランを、ユーキは必死に押し止めた。まるで……いや、完全に道化だ。


「本当にユーキは愉快だな。心なしか、フランも楽しそうだしな」


「メルもたのしそーなの~っ」


「王子様っ! ベルと喋ってねぇで、アンタんトコのメイドを止めてくれっ!」


 こうして今日も、ユーキとベルの「仕事」は賑やかで順調だった。

 これを「仕事」と呼べるかは疑問だが、仕事内容はメルクリオを楽しませる事ということなのだから順調と言って良いだろう。……当初の予定では、さっさとクビになる予定だったのだが。

 ベルは元より、ユーキは完全にメルクリオに気に入られてしまっていた。


 ちなみにユーキの「勝者の権利」は、本人の必死の抵抗により別のものへとなった。

 ギルド長の揶揄(からか)いを跳ね除け、ユーキが望んだ勝者の権利。それは「フランの姓についての質問」というものだった。


 それは前回の模擬戦の際、フランが名乗ったフルネーム。聞いた瞬間に疑問に感じた名前……。本来なら、前回勝利した時に質問しようとしていた内容だった。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「そういやジィさん、やっぱドワーフって鍛冶屋が多いのか?」


 王城からの帰りの馬車の中、おもむろにユーキはギルド長へと尋ねた。


「なんじゃい(やぶ)から棒に。確かにヒト族に比べりゃ、鍛冶をしとるモンは多いの。なんせドワーフは病気にならんからの。鉄粉で肺をやられる事も無い」


「へぇ。話には聞いてたけど、ホントに病気にならねぇんだ?」


「ワシャ、102歳になるが風邪1つ引いた事も無いわい」


 教会学校で「ドワーフは病気にならない」という知識は得ていたが、実際に知り合ったドワーフはギルド長が初めてだ。町でドワーフを見かけた事くらいはあるが、こうやって話を聞くような関係になった事は無い。

 ドワーフが長命だという事も知ってはいたが、ギルド長の歳を聞いて目を(しばた)かせてしまう。


「何でも、大昔にご先祖様が神様から加護を貰ったっちゅう話じゃの」


「神様……」


「おとぎ話じゃ。本気にするモンじゃ無いわい」


 続く言葉に、ユーキは心のどこかで納得してしまう。

 ギルド長は「おとぎ話」と言ったが、『神』の実在はエルヴィスが断言している。そして、『神』が「願いを叶える」という事も……。

 それらが事実なら、ドワーフの先祖が「子々孫々の健康」を願ったとしても不思議はない。……いや、説明がついてしまう。


「話が()れたの。んで、鍛冶屋を紹介でもして欲しいのかの?」


「あ、あぁ……。ちょっと考えてる武器があってさ。練習重ねて形になって来たし、そろそろ造って貰おうかなってな」


「ユーキはまいばんれんしゅーしてたの~っ」


 ()れた話題をギルド長が修正する。ドワーフの秘密には多少の興味も惹かれるが、今話しても答えは分からない。それにギルド長にリングや『神』の事を話す訳にもいかないのだ。


 だからユーキはドワーフの件を思考から追い出し、元の話題……、自分の「新技」と、その為の武器の話に戻す事にした。


 ユーキの「新技」には新しい武器が必須だ。フランとの模擬戦のお陰で、新しい武器に適したサイズ感も掴めた。

 3つの魔法の同時発動という難易度も、重ねた練習とエメロンの協力で解消しつつある。

 次は、実際に武器を使っての練習を行う段階だ。


 ユーキはそんな風に考えていたのだが……。


「オーダーメイドか? 結構かかるぞい? 金も時間もな」


 ギルド長が言い放つ現実は厳しかった。

 とはいえ、ユーキの考える武器など一般販売している訳が無い。1から造って貰う以外に「新技」を実現する事など不可能なのだ。


「そこはギルド長様の口利(くちき)きで何とかならねぇ?」


「調子のえぇコトばっか言いよって……。最近は敬語も使わんしよ」


「お願いしますっ! 王国冒険者のトップのギルド長様っ!」


「ギルドちょーはえらいの~っ」


 ギルド長の言う通り、ユーキの態度は調子が良いと言う(ほか)ない。だが、ユーキには他に頼る伝手など無いのだ。だから調子の良い事だって何だって言う。

 そんなユーキと、一緒にはしゃぐベルを見てギルド長は溜息を()き……。


「まぁええわい。明日にでも紹介してやるわい」


「マジかっ? ありがとうございますっ、ギルド長様っ!」


「さま~っ」


「ホントに調子がえぇヤツじゃのぉ。ホレ、くっちゃべっとるウチに着いたぞい」


 3人を乗せた馬車は冒険者ギルドの敷地内へと入って行く。

 ユーキの「新技」は、完成しつつあった――。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 ユーキたちが王城を去った後、フランも王城を後にして貴族街のとある屋敷までやって来ていた。

 本来なら王城住まいのフランは、この様な場所に用事など無い。だが「断る事の出来ない相手」の呼び出しで、フランはメルクリオに僅かな暇を貰ったのだ。


 目的地に着いたフランは足を止め、屋敷を見る。

 ボーグナイン伯爵邸……。フランチェスカ=ボーグナインの家族が住む屋敷である。だが、この屋敷はフランの生家(せいか)ではない。


 ボーグナイン伯爵一家は、5年前に起きた『ボーグナイン紛争』で自領から王都・エステリアへと避難してきたのだ。そして紛争が終わった後も領地には帰らず、この王都で過ごしている。


 ……正確には「帰らない」のではなく「帰れない」のだ。

 紛争後のボーグナイン地方は、エストレーラ王国とクライテリオン帝国の協定によって2国共同管理地帯となった。そこへ元の領主が戻れば、2国間の協定にヒビが入る。

 それでなくても紛争が起こるや(いな)や、真っ先に領地を見捨てて逃げ出した元領主に対する住民感情は厳しいものだろう。これらの事情からボーグナイン伯爵は自領に帰れる訳がなかった。


 しかしフラン自身は、そんな家族たちとは少し事情が異なる。

 フランは『ボーグナイン紛争』が起こるよりもっと前……、今から12年も前から1人で王都・エステリアに来て、メルクリオの専属メイドとして過ごしてきたのだ。


 それは、まだボーグナイン地方がクライテリオン帝国の領地だった頃の話だ。当時、クライテリオン帝国とラフィネ聖王国で戦争があった。後に『10年戦争』と呼ばれた戦争だ。

 その戦争の只中にあった聖歴1352年。ボーグナイン地方に、例年では考えられない程の大雨が降り注いだ。多くの町村は洪水に飲まれ、人の営みの全てが水に押し流された……。

 人も、家も、畑や家畜、工場も何もかもを失ったボーグナイン伯爵は、当然自国の政府に救援を求めた。だが戦争中であった帝国に被災地の援助をする余裕は無く、無視を決め込まれたのだ。


 困り果てたボーグナイン伯爵が取った手段は、隣国のエストレーラ王国への救援要請だった。その要請に対し、王国は条件を付けてきた。その条件とは「ボーグナイン地方の王国への帰属」……。

 ボーグナイン伯爵はこれを受け入れたのだ。……後に、この決断が『ボーグナイン紛争』の火種となる事など考えも及ばずに。


 そしてフランはこの時に王都へとやって来たのだ。

 たった7歳の娘を1人で王都へ送る……。当時のフランは考えもしなかったが、要するに王国へ対しての人質だったという事なのだろう。


 しかしフランは父を恨んではいない。

 王都へ来てからの周囲のフランへの風当たりは決して優しいものでは無かったが、それでも幼子(おさなご)に露骨な嫌がらせをするような者は居なかったし、何よりもメルクリオに出会う事が出来た。


 第1王子として生まれながら、病弱ゆえに軽視され続けてきたメルクリオ王子。それでも優しくフランに接してくれたメルクリオ王子……。

 彼を生涯守り続ける事がフランの生き甲斐であり、全てとなっていった。

 その為に体を鍛え、メルクリオ王子を守る為に近衛騎士にまでなったのだ。


 そんな風に、感慨に(ふけ)りながら実の家族が住む屋敷を眺めていた時、背後から女の声が聞こえてきた。


「あらっ、どなたかと思えばお姉様ではございませんかっ?」


「……ジュリア」


 声の主はジュリア……、フランの実の妹だった。

 護衛のレオナルドを連れた妹は、屈託(くったく)のない笑みでフランに近寄ってくる。


「お久しぶりですわっ……、あら? お姉様が帰ってくるなど聞いておりませんでしたけど?」


「お父様に呼ばれたのです。……レオナルド先輩もお久しぶりです」


「フランチェスカ様もお変わりないようで。まさにっ、健っ勝っ」


 フランはジュリアの事が苦手だった。

 7歳から14歳までの間1度も顔を合わせる事無く過ごし、5年前に一家が王都へと避難してきてからも月に1度会うかどうかだ。

 決して嫌ったり、憎んだりしている訳ではないが……、どう接して良いのか分からないのだった。


 だからフランは、ジュリアと共に居たレオナルドへと水を向ける。

 彼は元近衛騎士であり、彼が抜けた後釜としてフランが近衛騎士となる事が出来たのだ。彼が騎士だった頃には稽古をつけて貰った事もあるし、知らない仲でも無かった。

 近衛騎士を辞めた後、家族の護衛として再就職したのは少々複雑ではあるが……。


「立ち話も何ですし、中に入りましょう。今日は泊まっていかれるのですか?」


「お父様の用件次第ですが」


「なら、ごゆっくりなさいませっ。王宮には許可を得ているのでしょう?」


「いえ、用事が済めば長居をするつもりは……」


「そう仰らずにっ。……そうですわっ。今日はワタクシがお姉様のお背中をお流ししますわっ。お風呂をご一緒しましょうっ」


「ちょ、ちょっとジュリア……」


 決してジュリアの事は嫌いではない。だが、この強引な性格がフランは苦手だった。

 そんな姉妹の姿を見たレオナルドは……。


「姉妹で湯浴み……。これぞっ、姉妹水っ入らずっ!」


「レオナルドっ! 黙ってついてきなさいっ!」


「ハッ!」


 そんな妹と、かつての先輩騎士の姿にフランは呆れの溜息を漏らすのだった。


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