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第11話 「妖精の国への招待」


 ユーキとエメロンが、アレクを探して奔走する日の午前、アレクは学校をサボって森に来ていた。


 母に言うと怒られそうだが、黙って行くのを躊躇(ためら)ったアレクは、自分に甘い兄にだけ告げてシュアーブ西の森にやって来ていた。

 そのような悪知恵を働かせても結果はあまり変わらないだろうが、自身の見通しの甘さにアレクは気付いていない。


 ともあれ、アレクは森の中を進んでいく。

 この森は危険な動物や魔物もおらず、ユーキたちと何度も遊びに来た事があるので、1人でも何の不安も無く歩を進める。

 そして昨日、新たな友人と出会った場所までやってきた。


「リゼット~っ! 約束通り来たよ~っ! いないの~っ?」


「ちゃんといるってば~」


 アレクが大声で呼びかけると、羽を生やした小人が返事をしながら飛んできた。

 その姿はまさしく童話やおとぎ話に書かれた妖精そのもので、飛んだあとにはキラキラと光の軌跡が残っているようにも見える。


「お、今日は泣いてないね~。えらいえらいっ」


「き、昨日だって泣いてなんかないしっ!」


 昨日、学校を飛び出したアレクは森でリゼットと名乗る妖精と出会った。

 リゼットは泣いているアレク(本人は否定しているが)に声をかけ、アレクはユーキとのいきさつを話した。

 話を聞いたリゼットは「ユーキって悪いやつだね~」と言ったが、その評価にアレクは納得がいかず反論しようとするが、陽が暮れそうになった為にアレクは翌日の再会を約束して帰宅する事になった。

 本当なら放課後にするべきだったが、ユーキとの気まずさを感じたアレクは学校をサボって今に至る。


 そしてリゼットとの再会から数時間。

 アレクはリゼットの「ユーキは悪いやつ」との評価を覆すため、ユーキの良い所、凄い所、カッコいい所を精一杯アピールした。


「ふ~ん、アレクはユーキのコトが好きなんだ?」


「うんっ、ユーキはボクの1番の友達だからねっ」


「でも、それなら何でアレクにヒドイこと言ったんだろね?」


「そ、それは……、ボクのコトを思って……」


 アレクは必死にユーキを弁護しようとするが、自分の主張に自信が持てない。あの時のユーキからは、確かに不快感や苛立ちを感じた。

 ならば自分が気付いていないだけで、ひょっとしてユーキを怒らせるような事をしてしまったのだろうか?もしそうだとしたら、自分は何てヒドイ人間だろうか。1番の友達を怒らせて、その事に自分で気付きもしないなんて……。


 そんなことを考えると、また涙腺が緩くなってきてしまう。これではいけない、先ほど泣いていないと言ったばかりなのだ。

 アレクは(かぶり)を振り、思考を切り替えて話を逸らす。


「そういえば、リゼットはこの森に住んでるの?」


「ん? 違うよ? こことは別のトコロに住んでて、この森には階段を繋いで来たんだよ」


「階段、を繋いで……?」


 話を変えようとしたアレクの質問にリゼットは不思議な返答を返す。

 森に階段を繋ぐ、とは一体どういう事なのか?まあ、不思議と言えば目の前にいるリゼットの存在そのものが、不思議としか言いようが無いのだが。

 アレクが疑問に首をかしげていると、リゼットは笑いながら話しを続ける。


「アハハ、ゴメンね。こんな説明じゃ分かんないよね? ん~、見た方が早いかな?」


 そう言ったリゼットは、木の無い少し開けた場所に移動をして、その場をクルクルと飛び回る。リゼットの飛んだ後の軌跡がキラキラと光って非常に幻想的な風景を作り出した。

 やがて光は大きくなっていき、リゼットの飛ぶ範囲全体がぼんやりと光りだす。

 そして光が弾けたかと思ったら、その場には紛れもなく階段が現れていた。


「すごい……」


 まるで、おとぎ話のような光景を目にしたアレクは口を半開きにして我を失っていた。


「ふぃ~、お疲れっ。どう? お姉さんに見惚れちゃった~?」


「うんっ! スゴイよっ! 今のなにっ⁉ 魔法っ⁉」


「ん~ん、違うよ~。アタシもよく分かんないんだけど、女王さまが神様からもらったんだって~」


 目の前で行われた、非現実的な光景にアレクの興奮は冷めやらない。

 アレクの質問はリゼットに否定されたが、どうやら魔法とは違うようだ。では何なのかというと、リゼットにもよく分からないらしい。


 アレクはよく見てみようと階段に近づいてみる。

 階段はキラキラと光を放っており、木や石では無さそうだ。そもそも物体であるのかも分からないが、恐る恐る触ってみると確かに硬い感触がある。

 階段の先を見てみれば3m程の高さで途切れており、その先もまたキラキラと光輝いていて空間がぼやけているように見える。


「ひょっとして、この先にリゼットの家があるの?」


「そだよ~、興味あるなら行ってみる?」


「いいのっ⁉」


「別にいいよ~。アレクなら女王さまにも怒られないだろうし」


 思いもよらないリゼットの提案にアレクの心が躍る。

 まさか自分が妖精の家に招待される日が来るとは。しかも先程からリゼットは「女王さま」と言っている。ということは、妖精の国だということだ。ならばリゼットの他にも、沢山の妖精たちが居るに違いない。

 こんな夢のような話を断るなんて選択肢はアレクには無かった。


 アレクはゆっくりと階段に足を掛ける。階段はしっかりしたもので、アレクが乗ったからといって崩れるなどという事は無い。

 足場が安定していることを確認したアレクは階段を上り、キラキラ光る空間の前で止まった。

 光る空間を見つめるが陽炎のようにユラユラとしていて、その先はよく見えない。


「どしたの~? ビビっちゃった? 大丈夫だよ~。んじゃ、アタシが先に行くね~」


 決して身の危険を感じていた訳ではないが、未知の体験に躊躇していたアレクを尻目に、リゼットは脇を抜けて光る空間に飛び込んだ。


 返事をする間もなく取り残されたアレクは呆然と数秒を過ごす。その数秒間で進む決意をしたアレクはギュッと目を瞑り、階段を上る足に力を込めた。

 きっとこの先にはおとぎ話で描かれるような、花が咲き乱れ、数十、数百の妖精が楽しく暮らす夢の国が待っているのだから。


「ほら、何ともなかったでしょ?」


 不意にリゼットの声が聞こえたのでアレクは目を開ける。


「え……っ? あれ……? ここが妖精の国……?」


 目の前に広がる光景は、アレクが期待したものではなかった。

 そこは先程までいた森とさして変わりの無い風景だった。一瞬その場から移動していないのでは、と勘違いした程だ。

 しかしよく見れば草木の雰囲気が違うし、足元には地面に埋まるように光る階段が存在している。確かにシュアーブ西の森とは違う場所だ。


「ほら、こっちだよ~。それはそうと、妖精の国? 国なんて大したものは無いよ~?」


「え? だってさっき、女王さまがいるって言ってたじゃないか」


「あぁ~、それはアタシがそう呼んでるってだけ。そもそもアタシたち20人もいないからね~」


 リゼットに案内され、森を歩きながら話す。

 どうやら妖精の国などというものは無く、女王というのもリゼットが勝手に呼んでいるだけらしい。確かに20人足らずの人口では、国も女王もないだろう。集落と呼ぶのさえ(はばか)られる。


 アレクは少し落胆するが、それでも貴重な体験には違いない。と、気を取り直して先を進む。

 そして10分ほど歩いた所でリゼットが「着いたよ~」と言った。


 そこにあったのは、またしてもアレクの想像とは違ったものだった。

 アレクの想像した妖精の家は、木の枝の上に造られた小さな家屋、木の(うろ)などの自然の穴を使った棲み処などといったものだった。


 しかし、アレクの目に映るのは開けた土地に建つ、何の変哲もない一軒家。

 扉や窓が見えるが、普通のサイズだ。20cmくらいのリゼットが暮らすには明らかに大きすぎるように見える。しかし、いくら辺りを見回しても他に建物は見当たらない。


「ほらほら、入って入って」


「う、うん」


 リゼットは混乱するアレクをよそに、中に入るように促す。

 扉を開けて中に入るが、その中身も予想通りというか、作りは古めかしいものの普通の家だった。


「ただいま~」


「あっ! リゼット姉ちゃんおかえり~」


「おねえちゃん、この子だぁれ~?」


 リゼットが帰宅の挨拶をすると、そこかしこから10数人の妖精たちがやってきた。そのどれもがリゼットと同じか、それよりも幼い少年少女に見える。

 彼らは口々に話しかけてきて非常に(かしま)しい。

 そんな状態にアレクが戸惑っていると、奥の部屋から人の足音がした。


「リゼット! まったくあなたは勝手な事ばかりしてっ!」


「あ、女王さま。ただいま~」


 リゼットが女王さまと呼んだその人は、20代中ごろに見える普通の女性だった。


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