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第10話 「サボりの行方」


トコトコ トコトコ リックがあるく


ふわふわ ひらひら レーシーがとぶよ


「レーシー ぼくらは どこいくの?」


「いいところだよ いいところ」


レーシーにつれられて リックはもりを どんどんあるく


「ついたよリック ようこそ ようせいの国へ」


もりをぬけると たくさんのようせいがとびまわる ゆめの国でした



『リックとようせいの王国』より一部抜粋




△▼△▼△▼△▼△




「アレク君はお休みのようですね」


 翌日、アレクは学校に来ていなかった。

 ユーキは昨日の一件の所為ではないかと罪悪感を覚えつつも、安堵感も同時に感じていた。そして、そう感じる自分自身に対する嫌悪感も。


「では授業を始めます。今日は人種の勉強をしましょう。大陸には私たちヒト族以外にも様々な人種が存在します。ドワーフ族、エルフ族、そして魔族ですね」


 ユーキの複雑な想いを置き去りに、ケイティ先生は授業を始める。

 ヒト族以外の他人種……、一般的には、それらを総称して亜人と呼ばれる。


 ドワーフ族。

 およそ700年ほど前に姿を現し、現在では大陸北東部の『アルカジー山脈』の麓に王国を持つ。

 背は低いが力が強く、健康で病気をする事が無い。ケイティ先生の説明では、100年以上も生きるらしい。

 昔からヒト族との交流も深く、ユーキも何度か目にした事がある。


 エルフ族。

 聖歴の始まるずっと昔から存在し、大陸北西部にある『ジュベル大森林』に住んでいるらしい。

 彼らは美しい容貌と長い耳を持ち、老いることがなく、一説には寿命で死ぬことが無いと言われているらしい。

 「らしい」ばかりというのも、彼らは殆ど『ジュベル大森林』から出る事が無く、ケイティ先生も実物を見た事が無いからだ。もちろんユーキも、見た事は1度も無い。


 そして魔族。

 彼らは70年ほど前に現れた新しい種族で、現在はアルカジー山脈を越えた更に北の『オリゲネス地方』に住んでいるらしい。

 その容姿はヒト族と殆ど変わらない。ただ1点、紅い瞳を持つ事を除いて。そしてヒト族よりも遥かに強い魔力を持っているそうだ。


 今から19年前の聖歴1338年にヒト族と魔族で戦争が起きた。その『魔人戦争』と呼ばれる戦争は、開戦から3年後に終戦したそうだ。

 両種族は和睦したらしいが、ヒト族の国ではエルフ以上に目にする事は少ないらしい。


(戦争か……。その後の帝国と聖王国の『10年戦争』は知ってるけど、魔族との戦争ってあんまり聞いた事なかったな……)


 ユーキが以前に住んでいた、レゾールの町はクライテリオン帝国に属していた。

 そのクライテリオン帝国とラフィネ聖王国は、『魔人戦争』終結の4年後に聖王国側が宣戦を布告する形で戦争を開始し、休戦まで10年の時を要した。その為、この2国間の戦争は『10年戦争』と呼ばれている。

 レゾールは戦地からは遠く、戦火の影響は少なかったが、過去の魔人戦争よりも現在の戦争の方が話題に上がるのは自然だったのだろう。


「ケイティ先生~っ。妖精っていないの~?」


 授業の最中、ふいにクラスメイトの1人がケイティ先生に質問をする。


 妖精。

 絵本や物語の中ならともかく、実在するという話は聞いた事が無い。

 ケイティ先生も同じ認識で、その事実を質問した生徒に返す。


 そのやり取りを見ていたユーキは(妖精、か……。アレクが好きそうな話だな……)などと、ぼんやり考えていた。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「ユーキ、アレクの家に行かない?」


 放課後、帰り支度をするユーキにエメロンがそう言ってきた。恐らくは2人の関係を心配してくれているのだろう。

 それは申し訳なくも、有難くも思いはするが、同時に余計なお世話だという気持ちも湧いてくる。


「アレクの家、知らねぇよ」


「さっきケイティ先生に聞いてきたよ。嫌なら無理にとは言わないけど……」


 つい、ぶっきらぼうな物言いになってしまったユーキの言葉のせいか、エメロンは少し引く。その様子を見たユーキはハッとなり、気持ちを落ち着かせる。

 これではただの八つ当たりだ。昨日と同じ間違いを繰り返すつもりか、と。


 自身にそう言い聞かせたユーキは落ち着いて考える。

 本当なら今日は、クララの父親に料理を教えてもらう約束をしていたのだが……。


(気を遣わせちまってるな……。カッコ悪ぃ……)


 エメロンはじっとユーキの返事を待っている。

 この優しい友人の気遣いを無駄にする事など、ユーキには出来なかった。


「クララっ! 悪ぃが親父さんに、今日は行けないっつっといてくれっ! エメロン、行こうっ!」


「え? う、うんっ!」 


 クララの返事を聞く事もせず、ユーキは駆け出す。ユーキは、昨日からの陰鬱とした気持ちが嘘のように晴れていた。

 アレクに会ったら、真っ先に昨日の事を謝ろう。そう決意をし、そしてそう思わせてくれた友人に小さく「エメロン、サンキュ」と呟いた。




 そしてエメロンと共に、アレクの家を目指して歩いて数十分。


「ここが……、バーネット男爵の家……?」


「そ、そのはず……、だけど……」


 2人の共通認識として、貴族の邸宅といえば大きなお屋敷というイメージがあった。

 高い塀に囲まれた大きな庭に整えられた花や池があり、数十人の使用人が働く立派な屋敷。そんなイメージだ。


 しかし、2人が辿り着いた場所にあったのは一軒家だった。……そう、一軒家である。断じて屋敷などと呼べる様な建物ではないし、大きな庭……どころか、塀すらない。

 その家は立派な佇まいではあるが、それは庶民の基準でだ。そこそこ裕福な家庭なら、もっと大きな家に住んでいても不思議はないだろう。実際、エメロンの家の方が大きく立派であった。


「貴族のお屋敷って感じじゃないよね……」


「うだうだ言ってても仕方ねぇな。……すみませーんっ!」


 ユーキは扉に近づきノックをする。

 少し待つと「は~い」と返事がして扉が開かれ、中から10代中ごろの青年が現れる。彼は薄茶色の髪をした、優しそうな碧い目をした若者だった。アレクの兄だろうか?


「えっと、どちら様かな? あ、ひょっとしてアレクの友達かな?」


「は、はい。そうです。アレク……くんはご在宅ですか?」


 彼はその印象通りに柔らかい物腰で問いかけ、ユーキは少し緊張しながらもアレクの所在を尋ねる。


「わざわざ訪ねて来てくれたのにゴメンね。アレクは今、家には居ないんだ。今日は朝から森に行ったはずだよ」


「森に……?」


「学校をサボって悪い子だよね。もしかして心配して来てくれたのかな? 本当に悪いコトしたね。良かったら、ウチに上がってアレクを待つかい?」


 青年の言動はまるで善意の塊のようで、まさしくアレクの血縁といった風に感じる。恐らく、居留守を使っているなどという事は無いだろう。


 しかし、学校をサボって森へ行ったとはどういう事だろうか?

 森というのは多分、シュアーブの西の外れにある森だろう。あそこには、虫捕りや魚釣りに6人で遊びに行った事がある。

 森で1人遊びをしているという事だろうか?


「あの……、アレクくんは森に何をしに……?」


「うん? 友達に会いに行くって言ってたけど?」


 ユーキの思った疑問をエメロンが代わりに問いかけるが、返ってきた意外な答えにユーキの疑問はますます深まる。


(友達……? 学校をサボって……? 俺たち以外の……?)


 ユーキの知る限り、アレクが学校外に友達がいるという話は聞いた事が無い。

 その友達とは誰なのか?いつ知り合ったのか?なぜ秘密にしていたのか?


 アレクの友達とやらが気になって仕方のなかったユーキは、居ても立っても居られなかった。


「俺は森に行ってみます。エメロンはどうする?」


「僕も一緒に行くよ」


「そうかい? 気を付けて行くんだよ」


 そうやり取りをして、2人は青年と別れて森を目指す。

 道すがらアレクの友達について話すが、当然エメロンにも心当たりはない。


 そうこう話をする内に、2人は森に着いた。

 何度か訪れた事のある場所だが、森は広く、見渡す限りではアレクの姿は無い。


「どうしようか?」


「2手に別れて探そう。陽が暮れる前に、ここに戻るって事で」


「うん、わかった」


 ユーキの案で、別行動をする事にした2人はアレクを探し始める。

 それから数十分後、先にアレクと再会したのはエメロンだった。


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