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三題噺  作者: 吾桜紫苑
17/17

17:銀髪、反面教師、秘密基地

山大さんに書いていただいたさんだいばなし(https://ncode.syosetu.com/n5875hr/53/)の話をベースに書いてみました。よければ両方お楽しみください。

「そうそう、羽黒にノワと初めて会った時のことも教えてもらったんだよ」


 修哉とフージュがピエールの元への里帰りから戻り、楓が腕を振るった夕食に全員が舌鼓を打ち、食後のコーヒーを味わっていた時のこと。

 里帰りしていた間のことを話すフージュが思い出したようにそう言うと、修哉が眉を寄せて微妙な顔をした。それを横目に、楓が相槌を打つ。


「羽黒さんも来てたんだ」

「はい、私に魔術書の解析を依頼したいとのことで、立ち寄った時に」

 当然のような顔でテーブルについていたミアが、銀髪を揺らしながら頷いて答えた。フージュ達と一緒に香宮に顔を出した彼女は、楓と「あれ、ミアさん。せっかくだしご飯食べてく?」「まあ、良いのですか? ご招待いただけるのなら喜んで」「うわその返しめっちゃ懐かしい」という会話を交わしてあっさりと招かれたのだった。修哉が微妙な顔をしているのを気にしているのは、慧くらいのものである。


「言われてみれば、どうやって知り合ったのかって聞いたことなかったわね。なんかやたらと兄さんたちに親しい面で絡んでは迷惑がられてる自称師匠、職場に一人はいるタイプのウザ絡み系おっさんっぽいなあって見てたんだけど」

「そんな目で見てたんだー……?」

「思いの外厳しい評価下してたな……」

「えっと、楓とどんな接点がありましたっけ……?」

 予想外の毒舌ぶりにフージュ、慧、悠希がやや引き気味の反応を示す傍ら、疾と修哉は「大体合っている」と頷いた。

「兄さんは確か仕事関係? だっけ。修哉兄さんもそんな感じ?」

「いや……」


 微妙に濁した修哉を見て、フージュが楽しそうに経緯を語る。相槌を打ちながら話を聞いていた楓は、しばしまとめる時間を置いて、口を開く。


「えーっと……協会の魔法士が座標の定まらない閉鎖世界に連続失踪して? 修哉兄さんが調査に行ったら羽黒さんに襲われて、魔力を根こそぎ吸い上げられる砂漠にポイ捨てされて? なんとか自力脱出したら気に入られて、取引して魔術知識と瀧宮流剣術の極意を交換した上で脱出経路教えてもらった……って感じ?」

 割と簡潔にまとめられた楓の言葉に、修哉はむっつりと頷いた。

「……まあ、そうだな」

「うわあ……なんというか、悪どいですね」

「恩を売ったと見せて盛大に利用してんな」

 悠希と疾が呆れ気味に感想を口にする。ミアとフージュが顔を見合わせた。

「そうなんですよね。今更聞いても、腹は立ちませんでしたが」

「ねー。羽黒が話すと、なんというか、お互い様なのかなって思っちゃったけど、普通に酷い話だよね」

「その辺りまで含めて詐欺師の手口だな」


 疾の指摘に、修哉は顔を顰めてむっつりと黙り込んだ。若い頃の失態を晒されて若干不機嫌になった顔を見ながら、楓はふと首を傾げる。


「んん……?」

「どうしましたか? 楓」

「いやー、なんかこう、修哉兄さんが落ちたその世界、聞き覚えがあるというか身に覚えがあるというか……慧はどう?」

 思い出そうと眉間に皺を寄せつつの問いかけを投げた先、これまで静かだった慧は真っ青な顔をしていた。

「あ、覚えがあるっぽい」

「あるよ! むしろなんで楓はそんな朧げなんだ!? 俺フツーにトラウマだからな!?」

「主に慧が酷い目に遭ってるっぽい」

「それはそうだろう」

 修哉の指摘に一同頷く。楓には魔力がなく、慧には魔力があるので、当然ではある。が、慧の魔力が枯渇した時点で、楓も絶体絶命のピンチであるはずなのだが、うろ覚えなのもどうなのかと一同視線で訴える。


 当の楓はうーんとマイペースに唸り、5秒ほど考え込んだ後でポンと手を打った。


「あ、思い出した。そうそう、あの世界にも私たち落ちてるわ。落ちたら今度は砂漠かーって思った途端に慧が倒れて、あ、これ死んだなって思ったやつ」

「大事件じゃないですか!?」

「でも全然死なないし周り静かだし、何事? って思ったら慧が魔力吸われてきつい……って死にそうな声で訴えてきたんだよね」

「それはトラウマにもなるね……」

「お前の体質だとむしろよく死ななかったな……」


 フージュと修哉がほぼ同時に頷く。慧のとある体質は楓の体質と相まって一時期本当に色々と大惨事だったのだが、かの砂漠においてはさらなる大惨事であった。同情の視線に、慧が項垂れる。


「魔力が……転移でごそっと増えるはずの魔力ごと掃除機みたいな勢いで吸われて……吸われ続けて倒れてもまだ吸われて……本当に死ぬかと……」

「……で。それを受けて楓はどうしたんだ」

 なんとなく先が予測できた疾が、生温い目を楓に向ける。楓は空笑いを浮かべて返す。

「ははは……とりあえず助けを呼ぼうと取り出した魔道具も全部使い物にならなくて。幸い砂漠には人も魔物も妖も幽霊もなーんにもいなかったからさ、すぐ死にそうな感じはなかったけど、そのままだと多分二人で干物じゃん?」

「そうだな」

 危うく干物になりかけた修哉から実感溢れる相槌を打たれ、楓は笑い顔のまま一息で続けた。

「だから、こう……『起きなきゃ死ぬから根性で起きて!!』って」


「鬼畜だな」

「容赦ねえですね」

「本当にそう思います」

「こういう時本当に斟酌しないな」


「そうは言うけど本当に仕方なくない!?」

 全員に辛口批判を浴びて、楓が思い切りむくれる。慧が死んだ目で宙空を眺め出した。

「まあ本当に仕方ないけど……あの半端ない虚脱状態で立ってって言われた時は、どうしてくれようって流石に思ったよな……」

「でも今だから改めて主張する! 魔力がなくても人間は立って歩いて生活できるんだよ! 生きる証拠が横でピンピンしてるわけなんだから!!」

「だから、そう言われて『そう言われてみればそう』って納得したし、ちゃんと立って歩いただろ」


 喧嘩になりかけたと思いきやの急展開に、フージュがこてんと首を傾げる。

「……そういうもんなの?」

「……理屈としては。瀧宮羽黒と俺は、瀧宮の秘技とされている身体強化魔術を身につけたからこそ動けた部分が大きかったが」

「ええと……魔力の流れを身体の一部とみなす、一歩間違えれば身体に致命的な負傷を負いかねない高等技術と以前説明を受けたような……?」

 修哉、ミアの解説に、慧が目を剥き楓が目を丸くする。

「そうだったんですか!?」

「へー、そうだったんだー」

 修哉が顔を顰めた。

「……おい、まさかそのあたりの基礎理論も知らずに実践したのか」

「いや、理論というか実践というか……『魔力を使わなくても人間は歩けるよな』って立ち上がってみたら歩けたというか……」

「その屁理屈で動けたやつは、瀧宮羽黒と奴から教わった俺だけだったはずなんだがな……」

「マジでその雑さはなんなんだ……」

 修哉が複雑な顔で呟き、疾が諦め顔でため息をついた。理論派の師匠たちに鍛えられたはずの慧だが、あまりに複雑な理論を聞き続けた反面教師現象なのか、本人は一貫して超感覚派タイプの魔術師である。


「で、話を戻すけど。とりあえず歩けるから移動しようって話になって、けど砂漠の果ては崖だったでしょ。慧に抱えて登れる? って聞いたらものすごい勢いで首を横に振られたから、じゃあ真ん中行こうって話になって。ビビった慧にひっつきおばけされながら進んだら、秘密基地でもありそうな穴が見つかったの。そこ降りたら、地下道だったんだよね」

「えっと、それって羽黒の話に出てきた……?」

 フージュが死んだ目の慧を気にしつつ尋ねると、楓は頷いた。

「多分そう。トロッコの通り道みたいな地下通路で、今度は慧が私をかついで進んで」

「楓」

「ごめん端折った、普通につまづいて転んだから慧が頑張ってくれた」

 察した疾の視線を浴びて大人しく白状し、楓はさらに続ける。

「で、なんかいい匂いするなーって思ったら松茸見つけてさ」

「……あれだな」

「そう、羽黒さんが回収して売り払ったとか言ってたやつです」

 楓は頷いて、慧は遠い目をする。

「近づくほどに魔力が吸われそうな感じがした先、何が出てくるかと思えば大量の松茸……楓は大歓喜でこれでもかと摘み始めるし……」

「……松茸……?」

 疾がふと呟き、ぎゅっと眉根を寄せる。それを見た慧が、さりげなく身体を遠ざけながら素早く告げ口した。


「はい! その後地下道から脱出して魔力回復を待ったものの、座標がすんごい不安定でとても転移は無理だと思って疾さんに救出してもらった後、少しして楓が出した松茸の土瓶蒸しはそれです!!」

「もうちょっと順序を追って! 流石に人聞き最悪すぎる待って兄さんせめて言い訳させて!!」


 割と本気の目で魔法陣を構築してみせた疾に、楓が慧にしがみつきつつ必死に訴える。疾は据わり切った目で促した。


「得体の知れない異世界のキノコを食わせるにふさわしい理由があるなら言ってみろ」

「脱出後に慧の魔力がすぐに回復しきらず、転移には時間かかりそうだし脱出後は魔物が普通にいたので安全地帯に逃げ込もうってことで街に出たところ、松茸がマジでマツタケという名前で珍味として愛されているという情報を得まして! いくらか買い取ってもらったお金で宿に泊まって、慧が必死こいて座標特定頑張ってる間に宿屋のお姉さんにマツタケ調理レシピを伺いまして! 部屋に戻って慧に毒がないか魔法で確認してもらった上で自分で調理して試食したら普通にマツタケとして美味しかったから戻った後のお詫びとして献上しました!!」


 素晴らしい肺活量と滑舌を披露した妹にひとまず魔法陣は消しつつ、疾はゆっくりと笑顔を作って問う。

「松茸と偽った理由は?」

「……ま、魔力回復効果があるって聞いたけど、兄さんそういう怪しげな食材苦手かなって……」

「お前ら後でゆっくり話な」

「アウトぉ!?」

「俺もぉ!?」

 思い切り顔を引き攣らせて悲鳴を重ねた楓と慧に、修哉とフージュは顔を見合わせ、やれやれとため息をついた。


「……お二人とも」


 と、途中から──松茸のくだりから──無言になっていた悠希が、静かに口を開く。その静かさに、楓と慧の背筋がびっと伸びた。

「きのこは触れるだけでも致命的な毒を帯びていることも珍しくありません。加えて、毒ではなくとも人体に有害な食物は多くあります」

「……いや、ほら、そこは安全性は現地で確認が」

「世界を渡ったら有害になる植物、ありますよね?」

 管理人の奥さんに聞きました、と言われて、楓が静かに口を閉じる。悠希がにこりと笑って慧に目を向けると、慧はすいっと目を逸らした。

「そこは、一応魔法で確認して、俺と楓と怜が毒見役でした……」

「毒見……」

 ごく小声で繰り返したミアは、その場でフージュの「しーっ!」というジェスチャーに口を閉じた。

「なるほど、最低限の安全性を、自分たちの身を危険に晒して、担保したんですか。──で、なぜ黙って食べさせたんですかね?」

「「……」」

 引き攣った顔で黙り込んだ二人を見て、悠希は眉を吊り上げた。


「──かんっぜんにアウトじゃねーですか! 後でと言わず今から、お二人ともお話があります!!」


「「ご、ごめんなさいー!」」

 雷を落とす勢いのまま説教を始める悠希に、楓と慧が即座に正座になった。それを見た修哉とフージュが、唖然としているミアを連れてそっと部屋を離れる。


「……ええと」

「気にしないで大丈夫だよ、ミア」

「よくある」

「良くあるんですか……」

 苦笑したミアにフージュが吹き出し、ミアの手を引いて笑う。

「ねえねえ、今夜は一緒にお泊まりでお話ししよ!」

「ええ、喜んで。ノワールもいかがですか?」

「……結構だ」

 あえて投げられた問いにため息と返事が返ってきて、二人は顔を見合わせて笑っていた。



 説教は2時間、説教後の(慧の)訓練は3時間続いたという。



 

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