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第九話:勇者は勇者の苦悩がある

 前話にいいねと、評価ありがとうございます!モチベに繋がります。

「は?実地訓練ですか?」


 少し間の抜けた声が出てしまったけど、俺は悪くないと思いたい。

 だって、まだ俺達がこの世界に来てから二週間と少しくらいしか経っていない……まぁ、覚悟の有無を問わなければ天職のお陰で、ほぼ直感的に天職に見合った身体の動かし方を出来る以上、訓練はさほど積まなくても良いと言えば言えてしまうが。


「ヒロの気持ちは十分わかる。俺とて新米を戦場に出したくはない……しかし、国に逆らうわけにもな?」


 苦笑いを浮かべ、髭を触るレムロスさんを見る限り、純度100%の本心ではないのは分かったが、いつもの様に口元に笑みを浮かべ続けておく、まぁ戦力を期待してるのはこの人もそうだろうしな。


「分かりましたよ。俺と姫川のやつは、確定として他のメンツは誰です?」


 天職として勇者となった俺と、聖女の姫川は攻守のバランスを考えれば確定枠だろうな。

 スキルのお陰で、多少の不利状況だろうが俺一人で崩せるし、僅かに負った傷や疲労感があっても姫川の援護があれば、すぐに全快し戦えるため必要となるなら聖女を守る盾……屯田の野郎か?


「盾使い、盗賊、精霊祈祷師、そして本人の強い希望からヒロトが参加する」


「屯田に、宮本、渋川の三人は分かりますが、葛城先生は戦闘向きではないのでは?」


 まぁ、個人的には元々、盗賊が天職で元々、サッカー部だった宮本は兎も角、デブの屯田と教室の端の方でずっと本を読んでた渋川の方も心配なんだが。

 ある程度進む度に、休憩とか言われたら普通に効率が悪過ぎて腹立つし。


「あぁ。この世界に来る前に、君達を導く立場だったからと自分が居ない場所で危険な目に遭わせたくないそうだ。私は幾ら戦闘中でも使えるスキル、高速調合を持っているからとは云え、危険と伝えたのだがな」


「あの人、そんな熱血教師だったか?」


 授業中にずっと黒板の方向いて教科書の内容そのままの板書と、読み上げしかしない時点でそういう風には見えなかったけどな……この世界に来て何か変わったって事か?


「そう心配するな。帝国騎士団の人間も明日、同行するからな」


「なるほど、確かにそれは心強いですね」


 頼むから後手に回ってばかりとかは辞めてくれよ。

 実地訓練で俺達の強さを見るつもりだってなら恐らく先手は俺達に譲るだろう、そうなれば必然的に何かあった時の対処は遅れる……これが死亡フラグじゃなくて、より強いチートを手に入れる強化フラグだったり事件だったりするお約束なら胸熱なんだがけどなぁ。


「よし、何か質問はあるか?」


「いえ、特には。連絡ありがとうございますレムロスさん」


「気にするな。これも私の仕事だからな、では他の皆んなにも話をしてくるからまたな」


「はい。明日はよろしくお願いします」


 頭を下げてレムロスさんを見送れば、気を良くして笑顔で去っていく。

 

「ふぅ……ざまぁ展開にならない様に勇者らしい態度に気を使うのも疲れるな」


 如何にも中世ファンタジーらしい石畳と、篝火に照らされた道はいつ見ても此処が、俺達の世界とは違うと教えてくれるな。

 用意された自室へと戻る最中にもすれ違う騎士や使用人達は、俺に恭しく頭を下げてくるしはっきり言って、この空気は非常に肩が凝って仕方ないのだが、俺や岸本が読む異世界転生や転移物の中には、チートを授かって調子に乗った結果、ざまぁ……簡単に言えば、格下だと思っていた奴に力負けして転落人生を辿る展開がある事を思い出し、そうなってたまるかと演じている俺も悪いと言えば悪い。


「あー……くそっ、本当に岸本の奴は何処に居るんだ?」


 彼奴が居ればこんな煩わしい事しないで、二人で冒険の旅にでも何にでも出るってのに!!

 今からでも誰か誘って、逃げるか?いや、この世界で一番の武力国家を敵に回して、生きていける気がしねぇっと、もう部屋に着いてたか。


「えーと、鍵は……」


「お帰りなさいませ、勇者様」


「また部屋で待機してたのか。メイリィ」


「はい。それが侍従の役目ですから」


 白と黒の王道メイド服に身を包み、俺の右手首に巻かれている赤い手首チョーカーと同じ色の物を首に身に付けている姿は、男としてクるものがあるがこの二週間、なにを話しても動かない表情と見たこともない昏い瞳が正直、不気味で相殺されている。


「……とりあえず、入れてくれ。それと」


「既に水の手配は済んでおります。御着替えをするであれば、外で待機しますが」


「あぁ……うん。そうしてくれ」


「かしこまりました」


 メイリィと入れ違う様に部屋に入り、陶器のコップに注がれた水を一気に飲み干す。

 ……キンキンに冷えてる辺りに恐怖を感じなくもないが、もう慣れたから無視して着ていた無駄に装飾のある服を脱ぎ捨て、ゆるっとした服に着替える。


「貴族みたいな服よりこっちの方が落ち着くな」


 日本で貴族みたいな服を着る習慣なんて無いのだから、当たり前と言えば当たり前だが、それでも息苦しいもんは息苦しい。


「着替え終わりましたか?」


「あぁ」


 振り返ってメイリィを見ながら、ベッドに腰掛ける。

 少し硬いのは残念だが、彼女がいつも洗ってくれているため、フワッとした太陽の香りが鼻を抜けていくのが数少ない癒しだな。


「明日、実地訓練に行く事になった」


「聞いています。地下迷宮に入るそうですね、勇者様は地下十層辺りが目標だとか」


「俺より深く話聞いてるな……それでお前は来るのか?メイリィ」


 無表情の彼女ではなく、チョーカーの力で見えているステータスを見ながら問い掛ける。


『名前:メイリィ・ホークス レベル11

 天職:メイド→スキル天眼により、スキル偽装を突破『暗殺者』

 アクティブスキル:加速思考、観察眼、短剣、偽装

 パッシブスキル:気配遮断、視線誘導、韋駄天』


 彼女の真実を知った時は、斬り合いに発展したけど先手を俺が取った事、この室内という圧倒的な閉鎖空間であった事、そして天職勇者の戦闘力の高さで二回、斬り結んだ後に組み伏せて勝ち取った。


「貴方様がそれを命じるのであれば」


「……フール王は命じていないのか。なら良い、お前は変わらず忠実な駒を演じててくれ」


「かしこまりました」


 勇者様と呼ぶ時は、メイリィが王の命令で動いている場合、貴方様と呼ぶ時は俺に命令権がある場合と分かりやすくて助かる。

 しかし、こういう細かい事はあまり得意ではないな俺は……単純に身体を動かしたりする方が性に合ってる。


「はぁ……今日はもう寝るから」


「では私も共に」


「……本当にソレ、拒否しちゃダメなのか?」


「はい。この城にいる限り、勇者様と褥を共にしろとの命令ですので」


「……分かった。ただ、寝るだけだからな」


「はい」


 ベッドに横になり、いつの間にかメイド服を脱ぎ捨て下に着ていた簡素なそれでいて、美しさは損なわない格好になったメイリィを迎え入れ、彼女に背を向けて目を閉じる。

 ……背中に柔らかい感覚や足に絡み付く感覚があるが、全力で無視して眠る事に全神経を費やす。

 どう考えてもフール王は美人局をして、俺をこの国に縛り付けるのが目的でメイリィはその為の、贄だと分かっているから手を出す訳にもいかない……思春期の男子高校生を殺す気か!?


 そんな感じで悶々を抱えたまま、浅い眠りだった俺は朝日と共に起き、メイリィに着付けを手伝って貰い、待ち合わせにはかなり早いが、集合場所である城門前で軽く素振りをして目を覚ます事にした。


「あれ、早いね。幸村君」


「……そういうお前もだろ。まだ、集合まで二時間はあるぞ、渋川」


「緊張で眠れなくて……それに精霊と話していれば時間も潰せるし良いかなって」


 俯きがちで中々視線が合わない渋川の周りには、赤や青、黄色といった小さな光の玉がクルクルと飛び回っておりアレが彼女の言う精霊なんだろうな。


「なるほどな……んじゃまぁ、俺は素振りをしてるからなんかあったら呼んでくれ」


「あ、うん。あ、ありがとう」


 なんのお礼かはなんとなく分かる。

 精霊祈祷師の制服なんだろうけど、身体のラインがしっかり分かるスーツが恥ずかしいのだろうな……俺だったら絶対、着たくないし、物静かな渋川には不向きな格好だ。


「姫川辺りなら喜んで着るだろうけど。男が釣れるならそれくらいはするだろうし」


 まぁ良いや、とっとと素振りしよ。

 腰に挿してるただの剣を引き抜いて、ブンブンっと剣を振り続ける……どうして刺激から逃げたのに刺激の追撃があるんだよ!!

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