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第六話:ゴブリンの王

「うぅ……本当に私が戦わなきゃダメ?」


 一先ずの食料と寝床を確保した白騎士と死霊の魔女の二人は、地下迷宮を進みながら邪魔なモンスター達を白騎士が殺していき、目的地の南の国、マグドニアへと進んでいるのだが時折、白騎士が瀕死にしたモンスターと死霊の魔女が一対一で向かい合う光景が発生していた。

 今回の相手は、武器を破壊され頭部から血を流している一匹のゴブリンだった。


『ギッ……』


 白騎士に縋る様な様子の死霊の魔女を見て、逃げ出そうとするゴブリンだったが即座に白騎士からの鋭い殺気を向けられ、硬直する。

 白騎士はどうやら、死霊の魔女に戦う覚悟を決めて欲しいようで、態と手加減してはこうして一対一で戦う機会を作っていると思われ、その意を汲んではいるものの未だ彼女は一線を越えられていない。


「──」


「うぅ……」


 死霊の魔女の手には、以前殺した冒険者の持ち物だった短剣が胸の前でギュと握られており、震える彼女を安心させる為にそっと背中に触れる白騎士だが、あまりその効果はない様だ。

 やがて、その光景に諦めたのか白騎士が死霊の魔女を追い越し、逃げる事すら出来ないほど怯え切ったゴブリンを両断し、絶命させるとバックから地図を取り出し眺め、死霊の魔女を抱えると歩き出した。


「……ごめんなさい、私……怖くて……」


「──」


 不甲斐なさや恐怖心、そしてこうして抱えられている事に対する安心感を覚えてしまう自分への、自己嫌悪を滲ませる死霊の魔女に白騎士は、ゆっくりと首を振る。

 言葉を発せない己の従者の優しさに甘えてしまう自分が嫌になりつつも、何度か戦おうとした疲労感から優しく揺られているのも相まっていつの間にか、こくり、こくりと舟を漕ぎ出す死霊の魔女。

 そんな彼女を横目で見ながら、都合よく、岩で多少ゴツゴツしているが、拓けた場所を見つけ白騎士は彼女を優しく降ろすと、すぐ近くにバックから取り出したテントを組み立て始める。


「──」


 籠手の割に器用な動きをする白騎士によって、瞬く間にテントが建てられると次に周囲の枯れ草と、上の階層から持ってきていたのであろうよく乾燥した枝で焚き火を作り、死霊の魔女を抱き抱える様に座る。


「……ありがとう」


「──」


 ドライフルーツと干し肉を彼女に渡し、白騎士は膝上の彼女が食べ終わるまで身動き一つ取らずに待つ構えを見せる。

 この間も周囲警戒は怠っていないのだから、騎士の力量の高さが窺える。

 パチパチっと焚き火の音が心地よい音を立てる中、死霊の魔女はハムスターの様に手に持っているドライフルーツに口を付けずに、ボーッと焚き火の揺らめきを見ていた。


「……昔からいつも初めの一歩が遅いんです。友達が出来ている事でも、私にとって初めてなら何をするにも怖気付いて……」


 懐かしい思い出を焚き火の揺らめきの向こうに見ているのか、ポツリポツリと彼女は話し始めた。


「村で一番、立ち上がるのが遅い子供だったらしいです。村で一番、言葉を覚えるのが遅かったらしいです。村で一番、火に慣れるのが遅い子供でした……男は狩りに、戦に出て女は家で料理を作る。それが村での生き方でしたが、料理を教わっても初めの、薪に火を着ける所から逃げてたんです。ボッて明るくなって、熱くなるのが怖くて……」


 子供の成長なんてそれぞれであるし、得意不得意があっても仕方のない話ではあるが彼女のそれは村にとって、かなりの初歩の初歩の段階で、何故出来ないのかと問われ叱責されてきたのだろう、話している表情は決して明るくはなかった。


「……でも、隣に住んでた男の子が、ずっと出来るまで付き合ってくれたんです。見本を示して、実践を促して……ふふっ、少しだけ今の騎士様みたいだなって今なら思います」


 彼女にとって大切な楽しい思い出なのだろう、先ほどより僅かに笑顔になりながら話すその姿に、未来を知っている白騎士いや、白騎士に混ざっている岸本は思わず顔を顰めるが、実体のない彼の表情を見れる者は居なかった。


「巫女見習いになったのも彼の勧めを受けてでした。要領の悪い私でも、神に仕えれば何か変わるかもって……本当に変わりました。悪い方向にですけど」


 巫女見習いとなった一年後、彼女は死霊の魔女だと予言されてしまい、何もかも全てを失って今、此処に居る。

 その絶望を孤独感を理解出来る者は同じ魔女しか居ないのだろうが、それでも寄り添おうと白騎士(岸本)は彼女の頭を撫でようとして、近くに置いてあった剣を手に取り死霊の魔女を地面に下ろし立ち上がる。


「……騎士様?」


「──」


 突然の行動に驚く彼女を他所に、白騎士は燃え盛る焚き火から一本、燃えたままの木を正面の暗がりに放り投げる。

 カランっ!と軽快な音を立てて転がる火付きの棒は、暗闇の中にいた複数のゴブリンを驚かせ、そしてゴブリンにしては豪勢な格好をした大人ぐらいの大きさを誇るゴブリンを照らし出す。


『ギギッ!』


「……まさか、ゴブリンロード!?」


 鉄製の鎧を身に付け、真紅のマントを靡かせるゴブリンの頭部には、奪ったのであろう金銀財宝とゴブリンの牙を組み合わせた王冠が悪趣味にも輝いており、手に持っている錫杖がよりそのゴブリンを君主たらしめていた。









 嫌な気配がするとは思ったけど、まさかのゴブリンロードのご登場か……本来なら地下迷宮の十五層辺りに居るはずのコイツがなんで十層前後の此処に居る?

 ……まさか、さっきまで出会ってたゴブリンは全部、野良じゃなくてコイツの支配下にあった偵察兵だったのか?

 偵察兵が戻らず、不審に思い配下を引き連れ、上の階層に態々来やがったと……コイツ、ゴブリンの癖にふんぞり返るだけの王じゃなく、現場主義だってかよ。


「──」


「騎士様……はい、下がっています」


 壁が背になる様に死霊の魔女を下がらせたけど、これ、どんだけ数いるんだ?

 数えきれないぐらいの敵意を感じるし、その中には何個か嫌な気配というか強者の気配が混ざっている気がする……この騎士の身体でそう感じるんだから、恐らくゴブリンチャンピオンやゴブリンジェネラル級と考えた方が良いか。


『ギァァァ!!』


 相当、我慢の限界だったのかゴブリンロードが叫ぶと同時に小汚い緑色が一斉に駆けてくる。

 悪いが、今更、ただのゴブリン程度障害にすらならんわ!!


「──」


 十匹以上纏めて横一直線に斬り裂き、ラウンズシールドで次々と来る連中を殴り飛ばしていく。

 一匹もこれより向こうには行かせねぇよ……!


『……ギィギッ!』


 ただの数では拉致が明かないと思ったのがロードの次の号令で、奴のすぐ近くから杖を持ったゴブリン共が何やら唱え出すと、拳ぐらいの大きさの火の玉が凄い数飛んできた。

 連携する気はないのか、俺へと迫る通常、ゴブリンすらも焼いているし狙いも甘いがそれでも祈祷使い……シャーマンまで取り揃えているとは大層な群れだな。


『ギィ!?』


 足元の死体を蹴り上げ、ゴブリンシャーマンへと勢い良く蹴り飛ばすと、発動途中だった火の玉とぶつかり爆発を起こし、ロードを巻き込みながら一気にシャーマンが全滅する。

 どうよ!本来の騎士なら出来ないサッカーのお味は!……ゴブリンの頭部ってのが悪趣味なんだけど。


『ギィィアア!!ギア、ギギァァ!!』


 チッ、あれくらいじゃロードは死らないか……唾を撒き散らすほどブチギレてんなぁ……完全に火に油を注いだなありゃ。


『ギィ』


 ドスンっと足音を立て現れたのは、二メートル以上の体躯とボディビルダーの如き、肉体美を誇り金色に輝く両刃斧を二刀、握り締めるゴブリンチャンピオンであった。

 ……はっ、冗談きついぞオイ……ただでさえ、戦闘慣れどころか特化してるレベルまで進化したチャンピオンがゴツい武器携えてるってだけで面倒なのに、それが二体だと!?


『ギィィ!』


 深緑色のゴブリンチャンピオンと黒色のゴブリンチャンピオンが、両刃斧を構えながら突進し、放つ一撃をラウンズシールドで受け止めるが、すぐに浮遊感を感じたかと思うと、横へと二メートルほど吹き飛ばされてしまった。


「騎士様!!」


 すぐに着地をして体勢を立て直したは良いが不味いな……死霊の魔女をこれでは護れない……!


『ギィィ!!』


 俺の焦りを加速させる様に複数の通常ゴブリンと、チャンピオンの二体が俺と死霊の魔女の間に立ち塞がる……クソッ、ふざけんなよゴブリン風情が!!

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