第五話:異世界と言ったらこれでしょ!
一時間ぐらい前にも投稿してるので、前話からどうぞ。
良心が痛まないと言えば嘘になるが、これも全て死霊の魔女の為だ……どうかこの場で俺達に出会った不幸を呪って死んでいって欲しい。
物言わぬ死体に黙祷をした後、彼らが持っていたバッグを漁ると俺の予想通り、干し肉やドライフルーツ、瓶に詰められた水などの食料に加え、テントや簡易的な寝具が丁寧に入っており、今回の冒険の為に用意されたものと判断できる。
良かった、これで彼女の食事に困る事は一先ず避けられた……とは言え、この量だと可能な限り少量で済ましても一週間から二週間保てば良い方か。
「……騎士様、この方達を殺す必要はあったのでしょうか?」
頷き肯定する。
俺は兎も角として、君は食事を取らなければ生きていけない。
相手が魔女に対して敵意が無いのであれば、少し分けて貰う事も可能だったとは思うが、明らかに彼らの目は魔女に対する敵対心と殺せた時の夢に魅入られていたから、対話など望めなかったと思う。
それでも、今俺の目の前にいる優しすぎる彼女は伏し目になってしまう。
「私は……いえ、なんでもないです」
言い淀んだ彼女の言葉の続きが俺には分かってしまう。
魔女と断じられるまで、巫女見習いとして生きて来た彼女はとてもじゃないが、他者を犠牲にして生きる選択を取れる人間性をしておらず、むしろ犠牲となった人々に加え、戦で踏まれてしまった花や燃えてしまった木にすら心を痛める心根の持ち主だ。
だからこそ、死ぬ事への恐怖心と自分なんか存在しない方が良いという二律背反な感情を抱え込んでしまっており、俺にいや、騎士に助けを望んだのも間違いなく本心なのだが、それと同じくらい死ぬべきだと思っている彼女が言いかけた言葉は間違いなく、『私は生きている意味があるのでしょうか?』という言葉だろう。
「……あっ……騎士様……」
慰めの言葉は思いつかないし、発する事も出来ないが彼女の手入れなどされなくても美しく煌びやかな黒髪を籠手越しではあるが、ゆっくりと撫でると伏し目がちだった瞳に涙が浮かび零れ落ちる。
彼女が泣き止むまでずっと、俺は撫でながら考える……心の何処かで彼女が死を望んでいたとしても、この騎士はそれを望んでいないし俺も推しを救える機会を手放すつもりもない。
例え、それが俺の醜いエゴだったとしても、俺がこうして異世界に呼ばれた以上、捨てるべきではない信念なのだとこの時、俺は誰に告げる訳でもなく彼女とこの日の俺に誓う。
「あの、もう大丈夫です……ありがとう、ございます」
暫くして泣き止み、俺を見上げた彼女は涙で腫れた瞳を精一杯和らげ、笑みを作り浮かべる。
……なぁ、幸村?お前がもし、俺の立場なら俺より上手くやれるか?いや、やれるんだろうな……お前は出会った時からずっと、物語の主人公みたいな奴だったし。
神聖ジャスティア帝国は現在、かつてない程の活気に支配されていた。
帝国領内のありとあらゆる場所で、様々な出店が開かれ人々が笑顔で大通りを歩きながら出店で買い物をし、時に食事を楽しみながら曲芸を披露する旅芸人に、チップを投げたりなどその活気は祭りの様相を示していた。
「おっ、来たぞ勇者様だ!!」
「聖女様もいるぞ!!」
国民達は城から現れたお立ち台のある豪勢な馬車と、その馬車を護衛する帝国騎士団に歓喜の歓声をあげると、お立ち台に座し煌びやかな衣装に身を包み、笑顔で手を振っている二人を一目見ようと詰め寄りあっという間に長蛇の列を生み出した。
「ヒロ様!!どうか魔女を討ち滅ぼし、救世を!!」
「ユリネ様!!美しきご尊顔を私に向けてください!!」
向けられる歓声に必死に作り笑顔を浮かべているのは、この世界に転移してきた幸村 英雄と姫川 百合音の二人であった。
何故、彼らがこの様な状況に置かれているのかはこの祭りから一週間ほど遡り、転移した者達がどの様な能力を有しているか確かめる鑑定式での事だった。
「鑑定式と言っても特別な事をする訳じゃない。今から配るプレートに、君たちの血を少しだけ付けて貰えばそれで大丈夫だ。プレートには、今の君達の強さと名前、天職が浮かび上がるから君達の身分を保証する物としても使えるから大事に取っておいてくれ!!」
集められたクラスメイトと教師、総勢三十名の視線の先に立つ顎鬚が特徴的な帝国騎士団長、レムロス・ガナードは彼らの緊張を解す為に明るい声で説明するが、一部を除き表情はあまり良い物ではなかった。
「……先ずは私から行きましょう。これでも彼らの教師ですから」
「分かった。これで軽く斬って触れると良い」
手渡された冷たいナイフに怯む教師であったが、後ろで生徒達が見ていると掛けている眼鏡を一度、直してから指先を斬り、ぷっくりと膨らむ血を一見するとただのネームプレートにしか見えない鉄の板に触れさせると微光を放ち、先程まで書かれていなかった文字が書かれていた。
『名前:ヒロト・カツラギ レベル1
天職:調合師
アクティブスキル:
パッシブスキル:高速調合、異世界言語、自動翻訳』
「……これは」
「ふむ……調合師というのは様々な効果を持つ薬品を生み出す事が出来る職業だな。本来であれば、かなりの時間をかけて学ぶ筈の薬草や薬剤の知識を初めから有しているのが特徴的だ。スキルの方は、調合する時に手早く行えるという意味で、戦闘中であろうと適した薬品を作れる筈だ。他の二つは、恐らく会話などに不便がない様にだろう」
「なるほど……レベルというのは?」
「戦闘経験をどれだけ積んでいるかの指標だな。初めは簡単な戦いでも上がるが、上になればなるほどより過酷な戦いを生き延びた証となる。参考程度だが、今の俺が20だ」
そう言ってレムロスは自身のプレートを全員に見やすい様に見せる。
『名前:レムロス・ガナード レベル20
天職:戦士
アクティブスキル:剛剣
パッシブスキル:直感、指揮、頑健、勇猛』
「俺のスキルは剣の一撃強化になる剛剣、感が鋭くなる直感、指揮する資格の証、指揮、身体が頑丈になる頑健、恐れ知らずになる勇猛だな。まぁ、天職通り戦う者向けって感じだ。詳しい話は後でするから、とりあえず全員やってくれ!」
「私がやって無害なのも判明したので、皆もどうぞ。此処は従うが吉でしょう」
教師であるカツラギにも言われた事で、生徒達は名簿番号順に次々とプレートに触れていき、彼らの天職が明らかになっていく中、姫川の番となる。
「うぅ……ナイフとか怖いよぉ」
「だ、大丈夫だよ!ぼ、僕もやったけど、注射くらいの痛みだったから!」
いかにもぶりっ子という態度を取る姫川に釣られる様に、丸い身体の持ち主であり天職が『盾使い』だった屯田が少し、ニチャっとした笑顔で言葉を発するが見事に姫川はそれを無視し、幸村を見ていた。
「早くやれって。後がつっかえてるんだから」
「……はーい」
期待通りの反応が得られなかった事で、不機嫌になりながら姫川はあっさりと指を斬り、プレートに触れる。
『名前:ユリネ・ヒメカワ レベル1
天職:聖女
アクティブスキル:祈る者、回復魔法、聖魔法
パッシブスキル:聖体、異世界言語、自動翻訳』
「……は?」
「聖女!?凄いな!!神に選ばれた乙女の証だ!!」
「ぶっ!?」
本性を知っている幸村はレムロスによって読み上げられた天職に思わず、吹き出してしまうほど、彼の中で姫川という少女は聖女から程遠い存在であった。
しかし、屯田を含む数名からはその通りだと思われたのか結果がわかるや否や、彼女を褒め称える。
「す、凄いよ姫川さん!」
「あ、ははは。うん、そうだねぇ、ありがとぉ!」
自分でもまさかの結果に驚きつつも、仮面を被り続ける辺り、彼女の面の皮はかなり厚い様だ。
そんな一部のお祭り状態など興味なく、自分の番が来るのを落ち着きなく待っていた幸村の番がいよいよ来る。
「よしっ!」
興奮が隠しきれないと言った感じで、ナイフを受け取るやすぐに自分の指を切りプレートに触れると、今までの者達とは明らかに違い、目を開けていられないほどの輝きを放ち、文字は刻まれた。
『名前:ヒロ・ユキムラ レベル1
天職:勇者
アクティブスキル:聖剣、天眼、全属性魔法
パッシブスキル:頑健、勇猛、経験加速、韋駄天、無尽魔力、自然治癒、異世界言語、自動翻訳、神の寵愛』
「……ハハっ、これチートってやつだろ」
「これはッッ!?すぐに王へ報告しなければ……この世界でただ一人しか居ない天職、勇者が確認されたと!!それと国庫を開けろ!!保管された聖剣を彼に!!……ヒロ君と言ったな。君は間違いなく、この世界の救世主だ!!」
夢にまで見た異世界転移が叶ったかと思えば、自身はチート持ちというまるで物語の様な展開に幸村は、自らの表情が欲望に染まった満面の笑みに変わっていくのを抑える事は出来なかった。