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第四話:英雄足り得る資質

 あっぶねぇ……気持ちよく身体が動くもんだから調子乗って、ブンブンとやりたい放題してたら抜けられてた……投擲でどうにか出来たけど、もっと気を引き締めないと駄目だな。

 多分、本来の騎士ならこんな凡ミスはしないだろうから、確実に俺という不純物が混ざってる影響だとはっきり分かって、悲しくなってくるなコレ。

 でもまぁ、そりゃそうか、歴戦の騎士に比べれば俺なんか日本っていう平和な国で、ただ創作物が大好きな一般オタクだった訳だし、混ざって倫理観が無くなって無ければそもそも戦うなんて行為が出来るわけもなく……


「騎士様?」


 声に反応して視線を足元から上に上げて見れば、俺がぶん投げた剣をわざわざ引き摺りながら持って来てくれた死霊の魔女の心配そうな顔があり、その表情を見た瞬間に胸の辺りが苦しくなるのを感じ、ウジウジとした思考が消え、ただ主君を心配させてしまったという不甲斐なさだけが残った。


 安心してくれと伝えたくても声は相変わらず出ないので、諦めて剣を両手で受け取り背中へと納刀し、悪党鼠(ローグラット)達が出て来た方へと死霊の魔女の心配そうな視線から逃れる様に向ける。


「其方に何か……もしかして、地下迷宮に行くつもりなの?」


 俺の動きだけで分かってくれるとか聡明過ぎないかこの子?

 地下迷宮……この世界は、巨大な陸続きの大陸をしているのだが、そのせいか地下にはかつての超古代文明の跡とか、神話の残り香とか作中で言われる場所が広がっており、今、俺達が居る洞窟みたいに地上にも数え切れないほどの入り口が存在し、先ほどの悪党鼠(ローグラット)の様な独特な進化を遂げたモンスターが、徘徊しているものの戦う事が出来て表を歩きづらい者にとっては国を横断することが可能なルートとして使える為、魔女を抱えてマグドニアに向かうには適してると俺は思っている。


 あとはまぁ、死霊の魔女に戦う事を覚えて貰うのにも良いかなっと。

 奥に向けて歩き始めた俺の後ろを不安そうに着いて歩く彼女に、前線を張って貰うつもりは毛頭ないが俺に何かあった時、きっと戦えた方が良いに決まっている。


 ……もしかしたら、簡単に消えてしまうかもしれない存在だしな。








 比較的、汚れの少ない新品同然の装備に身を包む者達が緊張の面持ちで、周囲を警戒しながら歩いており、よく見れば彼ら一人一人は青年になったというぐらいの年齢で、若く英雄という夢を見る者達だ。

 

「……地下迷宮、第十層。やっぱり、上と環境が違うな」


 先頭を歩く皮鎧に、緑のポンチョという動き易さ重視の装備に身を包むこの一党における偵察を担当している青年が、周囲を警戒しながら緊張を解すために口を開くとすぐ後ろにいた大柄な青年が、近くに生えている苔を見つつ答える。


「少ない水分で育つ為だろうな……此処より下なら水脈にぶち当たって潤ってるだろうけど」


「此処はちょうど乾燥してるからね。唇が裂けて嫌になるわ」


 大柄な青年の言葉に返したのは、最後尾を歩く杖を持った女性で一党唯一の精霊使いだ。

 彼らは、自分達の村の近くにある入り口から出てくるゴブリンを退治した事をきっかけに、魔女を倒す英雄に強い憧れを抱き、強くなる為に地下迷宮への探索を始めた所謂、駆け出しの探索者達だ。


「そう言うなよリア。ちゃんと、塗り薬は持ってきてるだろ?」


「そうだけど……もぅ、乙女心が分かってないんだから」


「ハハッ、ユウキにそれを期待するのは無理だな」


「えぇ……俺が悪いのか?」


 彼ら三人は幼馴染なのもあって、とても距離感が近くこうやって下らない事でも笑い合える気楽さを持ち合わす良い一党だと言える──現にこうしている間も、先頭を歩くユウキは僅かに聞こえた音に反応し、一党に止まる様に指示を出していた。


『キキッ!』


 彼らの足音が止まった事で、奇襲の失敗を悟ったのか岩裏からゴブリン三匹が姿を現し、それと同時にユウキ達一党も戦闘体制に入る。


「ホルン!」


「おう、任せろ!!」


 大柄な青年──ホルンはユウキの掛け声を合図に、背負っていたバックを落とし木の板に金属を貼り付けたお手製感のある大楯を構えながら、ユウキ達の前にどっしりと構え立つ。

 一瞬の沈黙の後、錆びた短剣を持つゴブリン三匹が我慢の限界と言わんばかりに、駆け出しホルンの構える大楯に勢いよく、短剣を振り下ろし、甲高い金属音を立てて弾かれる。


「ユウキ!リア!」


「右をやる!」


「なら私が残りを!……我願う、大気に宿し火の精霊よ、瞬きの火を……発火!」


 大きく体勢を崩した隙を見逃す事なく、ホルンの背後からゴブリンの物とは違う手入れが行き届き、鈍い銀色を放つ短剣を腰から抜いたユウキが駆け、言葉通り三体の中で最も右側に居たゴブリンの頸動脈を見事に断ち切り、鮮血を上げると、それとほぼ同時に残りの二体がリアの手元から放たれた拳ぐらいの大きさをした火球によって、燃え上がり醜い悲鳴を上げながら地面を転がり回る。


『ギギァ!?』


「ッッ!?ごめん、一匹まだ生きてる!!」


「任せろ!」


 転げ回った事で運良く火が消えたゴブリンが、その目に憎悪の色を浮かべながら最も近くに居たユウキへと勢いよく飛び掛かるが、リアの言葉で警戒していたユウキは短剣でゴブリンの短剣を受け止めると、碌に手入れのされていない錆びた短剣をそのまま鍔迫り合いでへし折り、ゴブリンを横真っ二つに切断した。


「ふぅ……これで終わりか?」


 ゴブリンは群れを成す生き物だと知っているユウキは、警戒を続けるがこれと言って足音や鳴き声などが聞こえる事はなく、安心して短剣を腰に納刀しようとした瞬間、ホルンがユウキの後ろ、暗闇に浮かび上がる黄色い瞳を見つけた。


「ユウキ後ろ!!」


「なにっ!?」


 ホルン達の方へと飛び退きながら、改めて短剣を構え直すユウキの視線の先には確かに、黄色い瞳が自分達の方を見ているのが分かり、それが自分達より背の高い──恐らく二メートル前後──と見抜くと同時にゴブリン達の死体を見て、瞳の正体に勘づく。


「気をつけろ、もしかしたらホブゴブリンかもしれない」


「ッッ……マジか」


 ホブゴブリン。

 通常は人間の子供と同じぐらいの背丈しか無いゴブリンだが、苛烈な生存競争を生き抜き、高価な栄養と戦闘経験を得る事で成長したゴブリンの進化形態の一つであり、より上にゴブリンチャンピオンやジェネラルゴブリンといった格闘戦闘に優れた種が存在し、その為かホブゴブリンの強さは千差万別であり駆け出し探索者の死因となる事が高い事でも知られている。


「……俺達で時間を稼ぐから強い祈祷を頼む。ホブなら祈祷耐性もまだ低い筈だ」


「分かった……死なないでよユウキ、ホルン」


 思わぬ強敵に緊張感が走るユウキ達一党だが、それ以上の敵と相対している事にすぐ気がつく事になる。

 睨み合いをしていると、漸くホブゴブリンが動き出し、それと同時にガチャリという金属製の鎧が擦れる音が彼らの耳に入り、困惑していると暗闇の向こう側から()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が現れた。


「「「ッッ!?」」」


 自分達が警戒していたホブゴブリンは既に死んでいる事に驚く一党を他所に暗闇の向こうから、ホブゴブリンを殺した存在……白い鎧に身を包んだ騎士と騎士の後ろに隠れる巫女服の女の子が姿を現した。


「──」


 白騎士はホブゴブリンから剣を引き抜き、血を払うと一党達を見て兜を彼らの後ろにあるバッグへと向ける。

 そんな白騎士の動きに理解が追いついていない一党だったが、巫女服の女の子──死霊の魔女を見てその顔に絶望と、一握りの欲望が浮かび上がる。


「あの子……魔女じゃないか?」


「……えぇ多分そう。この気持ちの悪い魔力は間違いなく魔女よ」


「ッッ……あの、私は皆さんを傷つけるつもりは……」


「そんな嘘誰が信じるかよ!!俺達を騙そ──」


 死霊の魔女の言葉を遮って、威嚇する様に叫んだホルンは自らの言葉を全て言い切る事なく、大楯ごとその首を白騎士によって綺麗に切断される事となった。


 未来有望だった彼らの冒険は此処で幕を下ろす事となる──時には運の良さも英雄足り得る資質だ。

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