第二話 吸いまくられる
「そこの牛の自己犠牲と忠誠心に免じて、話だけは聞いてやろうかしら。牛、お前は床に座るのかしら。壊れるから」
ベルと名乗った子豚は僕たちを招くと座り、芋をまた食べ始める。僕たちは言われたとおりに座る。
「おい! 牛男を元に戻せ!」
僕はベルを睨む。
「うしおって、その牛の事かしら? ベルには無理よ。ダイエットするしかないわ」
ベル言うには、さっきの魔法は辺りにある栄養を集め与える祝福の魔法で、解除不能、防御不能のベルオリジナルスペルらしい。やはりエルフ恐るべし。
なぜ、そんな地獄なものを開発したかと言うと、魔力と辺りにあるエネルギーから食べ物を作る魔法の開発の副産物で、その暴発で自分も太ったとの事だ。
ベルは食べ物を作る魔法が出来たら、この世界の戦争を、減らすことが出来るのではと語った。
こいつ、実は案外いいヤツなのでは?
「それより、お前、変身の魔法とか呪いとかについてしらないか?」
僕はベルの話が落ち着いたのを見計らい切り出す。
「変身の魔法や呪い? お前その牛を人間にするのかしら?」
ベルは牛男を見る。
「何を言ってるのだ! 私はこの姿を誇りに思っている!」
牛男は目をむく、そんなに牛の顔が好きなのか?
「牛男じゃなくて僕が変身するんだよ、何か判んないか?」
「すぐすぐにはわかんないのかしら。時間をかけて調べないと」
ベルは僕の目をじっと見る。その澄んだ瞳に吸いこまれそうになる。
「お前、魂が濁っているわね」
ベルは目を細める。
「おいおい、唐突に人を鬼畜みたいにいうなや」
僕は食いかかる。
「違うわ。魂になにか混じり物があるのかしら……」
ベルは僕の目をまたじっと見つめる。
「それはおいといて、お前、指をだすのよ!」
ベルに言われるまま僕は指をだす。
ぱくん!
「……ッ」
ブタに喰われた!
「おい! ぶた! オレを喰うな!!」
僕は急いで手を引っ込める。ばっちいな、指に唾ついたぞ。エルフというのは何て危険な生き物だろう。人も食うのか?
「違うわよ。魔法実験をするから魔力をよこすのかしら」
「嫌だ気持ち悪い」
僕は即座にベルに応える。
「ベルは口から魔力を吸えるの。口同士がいいかしら? それが嫌ならとっとと指を出すのかしら」
ベルから魔力があふれ出す。僕は命の危険を感じ、諦めて指を出す。
ぱくん!
ベルが食む!
チュバチュバ!
チュバチュバ!
チュバチュバ!
なんつー絵だ、巨乳美少女の指を太った少女が無心にはむはむしてる。それを太った牛男がみつめてる。シュールすぎる。悪夢かよ。
チュバチュバ!
チュバチュバ!
なんて言うか、動物に餌をあげてるみたいだ……
チュバチュバ!
チュバチュバ!
ベルは目を瞑りしあわせそうだ。そんなに美味いのか?
退屈だ……
そうだ、僕は今、吸魔のロザリオをつけてる。外してさっさ終わらせてやろう。
僕はロザリオを外す。
「ウボボボボボッ!」
ベルの口と鼻から白い光が漏れる。
「あんた何のつもりよ! ベルを殺す気かしら!!」
「時間かかりそうだから、加速してやったよ」
僕は、ベルの食べてた蒸かし芋を手に取る。
「なんで、お前干上がらないのかしら?」
ベルが不服そうに言う。魔力吸われると干上がるのか?
そんな危険な事しないでほしい。
「鍛え方がちがうからな」
僕は応え、芋をベルにあてがう。あ、食った。
「胸だけで無く魔力も巨大ってお前何者なの?」
「今は、まだ、駆け出しの冒険者だ、いずれは英雄になるつもりだ」
そこで僕は血迷った。何も考えていなかったのだろう。
「お前も一緒に冒険しないか? 運動して痩せないといけないだろう?」
「ベルが、ベルが冒険者……」
ベルは目を丸くする。大きいクリックリだ。もしかしてこいつ痩せたらめっちゃ可愛いんじゃ?
「もっとベルに魔力をよこすのかしら、そしたら考えるわ」
ベルは芋を食べ終わると、また、僕の指を食べる。
しばらくして、やっとこの謎時間が終わった。
「さっきの魔法の分は回復したわ。ベルのマナはかなり高いはずなのに。まだまだ余力あるようね。お前、なんて便利なのかしら」
ベルは早口でまくし立てると立ち上がる。
「今ならやれそうな気がするわ!」
ベルは呪文を唱え始める。
「あまねく存在するマナよ。我らを満たしたまえ」
ベルの右手に光が集まる。
「アンブロシア!!」
ベルは、右手に集まった魔力を搾り取るように握りしめる。
ヌチョ!
きったねー音を出しながら、その絞られた魔力は物質化する。
黒くて、ウェットなかりんとうみたいなそれは、まるでう○こだ!
「喜ぶのよ! 成功したわ! マナを食べ物に変換するのに成功したわ。これはアンブロシア。神話で神々の食べ物って意味よ。ああ、これで世界の歴史が変わるかしら!」
ベルはそのう○こみたいな物質を満面の笑顔で僕に差し出す。
「さあ! 食べるのかしら!」
「食えるか! ボケェ!!」
僕は問答無用でベルの差しだした手を、やつの顔に押しつけた。
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