第二十一話 勝利
「かかってこい!」
モミはパンツを投げ捨てると、僕の方にお尻を突き出す。ギャラリーの間ではパンツの争奪戦が始まる。
「ば、馬鹿な!」
僕の口から呟きが漏れる。たとえ酔ってるとはいえ、これだけの衆人環視の中、パンツを脱ぐとは……エルフ恐るべし! なんたるメンタルの強さだ!
「……………………」
モミはかかってこいと言っているが、僕には不可能だ。僕が一撃を放てば間違いなくモミはスカートをたくし上げるだろう。そうすれば、生でモミに触れる事になる。たとえモミであろうが、生は無理だ、生は……
まさかこういうカンチョーの防御策があるとは……思いもよらないし、思いついてもコレを実行出来る胆力の持ち主はそうそう居ないだろう。
もしここでぶっ放したとすれば、人として大事な一線を越える事になる。それに勝利を得たとしても、僕には不名誉な二つ名がつくだろう。生カンチョー聖女という……
「くっ!」
僕は唇をかむ。エルフ恐るべし!
「これで、あなたの最大の攻撃は封じたわ!」
モミはギャラリーからジョッキを受け取り一口飲む。
もっと言い方を考えてほしい。これでは僕の唯一の攻撃がめっちゃ凄まじいカンチョーみたいだ。
「次は、わたしのターンよ!」
モミはゆっくり振り返る。
「マリー! 上! 上を見て!!」
モミは焦って僕の頭上を指差す。
二番煎じかよ! 僕は付き合いで上を見てやる。今度はしっかり口をつぐんでいる。馬鹿め! モミは瞬間移動して、僕にしがみつき、僕の口にジョッキを当てようとするが、きつく結んだ僕の口を見ると悔しそうな顔をして自分で飲む。
『自分で飲むんかい!!』
口を開けられないので、心でつっこむ。
「!!!」
僕の口に暖かく柔らかいものが押し当てられる。
「おおおっ!」
ギャラリーからどよめきが起こる。
ななななな何だ?
モミが僕にチューしてる!!!
僕は頭が蕩け、力が抜ける。そこに熱い液体が注ぎ込まれる。芋くささが、鼻をぬける。
ゴクン!
口を塞がれてるので逃げられず飲み込む。瞬時にして体が熱くなる。
ぼ、僕のファーストキス……
ショックとアルコールで僕は腰が抜けへたり込んだ……
僕はそのままうつ伏せに倒れる。なんて強い酒飲んでやがる! 毒かこれは! 体が動かない、頭がガンガンする。胸が押しつぶされて痛い……
「キャハハハハハハハッ!」
悪魔の哄笑が聞こえる。少しづつ遠くなる。意識が飛びそうだ……
まだだ!
気を失ってたまるか!
考えろ!
まずは、モミの瞬間移動を封じないと僕に勝ち目はない。モミが瞬間移動したのは……
まずは、カフェで会ったとき、座ってるはずが、気がついたら乳を揉まれてた。
カフェでバトったときも何回か、高速移動か瞬間移動したけど、あまり覚えてない。
カフェで僕が床に投げた大金貨を拾った時は、多分、拾うと戻るで二回瞬間移動している。
カフェで酒を飲まされた時も多分。
あとは、シャワーに乱入してきた時も……
あ、モミに裸で抱きつかれた事を思い出し、さらに体が熱くなる。
けど、カフェでメキシカンローリングクラッチホールドを決めて、モミを晒し者にしたときは逃げられ無かった。
なぜだ?
モミは瞬間移動した後も服を着ている。服ごとしているということだろう。ということは……
「ドワッシャセイッ!!」
僕は気合を入れふらつきながら立ち上がる。
「ウォオオーッ!!」
ギャラリーから歓声があがる。けど、それも遠くに聞こえる。やばい、意識が飛びそうになってる!!
「モミ! てめぇは大きな勘違いをしていりゅ! オレの攻撃はカンチョーだけじゃにゃい! てめぇのスカート引っぺがして、エルフのお宝さらけ出してやりゅ!!」
僕はモミをびしっと指差す! すこしふらつくな。
「ウォオオーッ!!」
「おっぱい! おっぱい! おっぱい!」
ギャラリーが沸く! なんだかなぁ、いつの間にかここでは僕の名前はおっぱいになっている……
僕はシュプレヒコールに両手で応える。
僕とギャラリーが一つになった!
僕に勇気が湧いてくる。僕たちの望みはただ一つ!
モミをぶっ倒す事だ!!
「モミ! 今度はてめぇにチャンスをくれてやりゅ!! てめぇの最高最大の攻撃を放ちやがれ!!」
僕は背を向けモミにお尻を突き出す。ギリギリギャラリーにはパンツは見えてないはずだ。
「ほう! わたしも舐められたもんだな! わたしは貴様ごときとは違う! たとえ貴様がパンツを脱いだとしても、最高の一撃を放つ!! そして貴様の強大なおっぱいを揉みしだいてやる!!」
僕はパンツ脱いでないって! 僕もあなたとは違います。どんなに酔っ払ってもパンツは脱ぎません!!
「オオオオーッ!!」
「モ-ミ! モーミ! モーミ! モーミ!」
今度はモミが群衆を味方につける。沸いたギャラリーからモミコールが起こる。これだけの群衆が叫んでるから、こいつの本名はなにか知らんが、これからはモミと呼ばれ続けるだろう!!
「おっぱい! おっぱい! おっぱい!」
「モーミ! モーミ! モーミ!」
コールが僕とモミの二つに別れる。けど、おっぱいモミモミって言われてるみたいでなんかやだ!
コールが最高潮に達した時モミが動く!
「死ねーっ!! おっぱいーーー!!」
モミは叫び、僕の方に駆けてくる。ギャラリーに解りやすいように、瞬間移動しないその心意気、あっぱれ!!
「くぅ!」
僕の意識が飛びそうになる。完全に致死量飲まされた。多分もうこれが最後のチャンスだ!
「ウオオオオー! セイヤサッ!!」
モミの掛け声が響く! お前はおっさんかよ!
ザシュッ!!
僕のお尻に激痛がはしる。お酒のおかげで少しにぶい。ここだっ!!
「グラビティ・ぜりょ! いんふぃりりぃ!」
なんて言おうとしたのか、僕にも解らない。僕はモミの手をお尻で挟み、モミごと重力を遮断する。僕たちは宙に浮かぶ。胃の中のものが逆流しそうになるのを僕は飲み込む。
英雄はリバースしない!!
「うぷっ!!」
モミから変な声が漏れる。あれだけ強い酒を飲んで暴れてからの無重力は地獄だろう。へべれけで絶叫マシンに乗ってるようなものだ!
僕は出来るだけモミに触れながら後方宙返りをして、モミに後ろから抱きつく。こりゃ、僕、パンツ丸見えだな……
「モミ! 逃げられにゃいだろう! おまえの瞬間移動は密着してるものも持ってくにょだろう!」
「……ッ!!」
「モミ! ぼきゅの勝ちだ!! ギブアップしりょ!」
モミはジタバタするが、空中で足がついてないので力が入らない。
「まだあたしは戦える!!」
何かを飲み込んでモミは吠える!
「それなりゃ! エルフのお宝! さらけ出しやがれ!!」
モミのスカートをたくし上げる。モミは押さえ込んで抵抗するが、少しづつ太ももがあらわになる。
「ウオオオオー!」
ギャラリーが熱気に包まれる!
「モミ! ギブアップだにゃ!」
僕は囁く。モミは涙ぐむ。
「……ギブアップ……」
カン、カン、カーン!!
レフリーが鍋を叩いている。
地上に降りると、モミはへたり込む。僕の手をレフリーが掴み、高らかとあげる。
「モミ選手のギブアップにより! 勝者おっぱい! おっぱい選手勝利!!」
僕は勝った!! その声を聞いて僕は意識を手放した……
第三章 聖女、町で暴れる 完
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