舌戦
「決めましたわ。裸にひん剥いて吊して、穴という穴にお花を生けてあげましょう。我が力よ遍く命を言祝げ。百花繚乱」
エルエルのゆっくり上げた手から光の粉が溢れ辺りに降り注ぐ。辺り一面のあらゆる植物に蕾が生え、それが花開く。様々な色彩に囲まれ、そして辺りは甘い香りにつつまれた。おお、なんて女の子っぽい魔法なんだ。やってる事は花咲か爺さんだけど、それを美少女がやるだけで全く趣が違う。辺り一面花づくし。まるで桃源郷だ。滝に花。その美しさに僕はしばし時を忘れた。けど、やつの目的はなんか僕に花をブッ刺すなんて下品極まりないものだったような?
「フフッ。捕まえたわよ」
エルエルが消えたと思ったら、僕の右腕が掴まれていた。花に気を取られて油断しすぎた。けど、僕は動じない。
「なあ、僕たちって今何してるんだ?」
「えっ?」
僕とエルエルは見つめ合う。傍から見たらかなりのレベルで百合百合しい事だろう。濡れそぼった美少女と岩に膝をついた美少女。僕が傍観者なら好物なんだけど、今は当事者だ。悲しい事に。
「美しい。まるで1幅の絵画みたいだ。滝、花、天使。今ここを切り取ったら神殿に飾れる素晴らしい絵にもなることだろう」
「マリー、あんた何言ってるの?」
エルエルの令嬢ロールは終わったみたいだ。地に戻ったという事は交渉のチャンスだ。コイツはサイコパスだが一応天使。天使は多分善なる生き物のはずだ。そこを攻める。
「エルエル、お前は光と闇どっち側に属するのか?」
「いきなり何言ってるのよ。光に決まってるじゃないの?」
「けど、お前、幾つか先っちょ黒いぞ」
僕はエルエルの羽根の先を指差す。
「しょうが無いじゃない。長い間、堕天してたんだから」
そうコイツは長い間、死王として世界に恐怖を振りまいていた。
「それだけが玉に瑕だな。せっかくこんな美しい場所で美しい天使がいる。そうだ。羽根毟ってやるよ。そして、僕が癒したら白い羽根が生えでもくるんじゃないか?」
「そうね。私もすこし黒いの気になってたのよ。なんか先が黒いって女子的にはなんか良くないじゃない」
「そうと決まれば。羽根を白くするぞ。けど、心に闇があればまた生えてくるのは黒いんじゃないか。すまなかった。僕が悪かった。だからもう復讐に囚われるのは止めて白い羽根を生やしてくれ」
「分かったわよ。しばらくは休戦ね。下で戦うまでは」
ブルブルって羽根を揺らして水を飛ばす。僕にも結構水かかって不愉快だけど我慢我慢。
そして、僕はエルエルの先が黒い羽根を毟り始める。チョロいチョロい。




