第一話 また変身
「町に入りたいのか? それなら通行書を見せろ」
僕はとっさにマリーの木の冒険者認識票を門番に見せる。
「なんだぁ、ひよっこの冒険者か、頑張れよ」
門番のおっさんに頭をくしゃくしゃされる。
「余計なお世話だ。おっさんこそ頑張れよ」
おっさんは僕の頭から手を離すと扉を開けてくれた。
今、僕は町に戻ってきた所だ。あの後、三人に追いかけられた僕は、重力操作を利用したマッハ走りで、三人を振り切ってきた。町と反対に誘導したから、彼女たちはすぐには帰ってはこないだろう。
僕がいるのは、町に入る一般人用の通用扉だ。町は堀と、土と石が混じった城壁に囲まれている。三カ所に跳ね橋が架かっており、それぞれに車用門と通用門がある。いつもは人が多少いるのだが、今は昼食時だからか、誰もいない。
ドクン!! ドクン! ドクン!
やばい! 来た! この感触は…
なぜだ? いままで何もなかったのに……
僕はふらふらと道のわきにある衛兵の詰め所に向かう。
「トイレ貸してくれ」
衛兵は一人、力士のような体型の無精ひげの汚らしいやつがいた。
「ああ、あっちだ。男女別だから、間違えんなよ」
教えてもらった方へ向かう。
あった。小用の並んだ所を通り過ぎ、奥にある個室の一つに滑り込む。便器の蓋を下ろして座り込む。
「ウガッ! グッ! ガガガガッ!」
我慢するが、声が漏れる。心臓の辺りが締め付けられるようだ。
また、僕は意識を手放した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ウウッ……」
ああ、また、僕から甲高い声が漏れる。終わったんじゃなかったのか……
胸が苦しい。鎧を外し収納にしまう。
ビチッ!
また、服がダメになる。胸の所のボタンが弾け飛んだみたいだ。あーあ、シャツの予備がもう無いよ……裁縫練習しよ。
刺激が強すぎるので、体をみないように、目を瞑って着換える。モミ特製ブラジャーともらったショーツ。苦労して緑のワンピースに袖を通す。胸、パツパツだよ、弾けそう。
「おおい、大丈夫か?」
足音がする。さっきの衛兵だろう。
近づいてきて、乱暴に扉を叩く。
僕は息を殺す。
どうする?
どうする?
「入ってんだろ。開けるぞー」
トイレに入ったときに当然鍵はしている。
バンッ!
鍵かかってるのにも構わず、力技で鍵をぶっ壊されて扉を開けられた。
衛兵と目があう。こ汚い力士さんだ。
「こんにちは」
ニコッ!
取り敢えず、最高の笑顔をプレゼントする。
「おう。姉ちゃん、なにしてるんだ? ここは男子便所だぞ」
ニコッ! ニコッ!
二倍攻撃! 笑顔でおしきっちまえ。
「お、おう。さっき兄ちゃんが入ったはずだが、何処行った?」
近づかないで欲しい、おじいちゃんの入れ歯のような臭い息がかかる。
「知らないですわ。すみません、間違ってはいったんですけど、つい、我慢できなくて……」
上目遣いで、じっと見る。こんな時のため、こんど鏡見て可愛い仕種を練習しよう。
「お、おう。しょうがねーなー。解った」
力士は踵を返すが、またゆっくり振り返る。
「よく見ると、おめぇ、可愛いなあ……ほんとに人間なのか?」
おっさんが赤くなるな! 気持ちわるいわ!
「ありがとうございます」
ニコッ! 少し引きつった気がする。
しばらく力士は、僕の全身をなめ回す様に見る。特に胸を念入りに。
最高に気持ち悪い。
しかも嫌な予感がする。
「おめぇは、嘘をついた!」
力士は気持ち悪い笑みを浮かべる。
「おめぇは、魔法使いの男にここに呼ばれて、金を貰っていかがわしい事をここでしてた。俺が来るのに気づいた男は魔法で逃げた。それが真実だ。俺のいう言葉が真実だ!」
何言ってるのだろうか? どうして、こんな奴ばっかに会うのだろうか……
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