第四十一話 説得
どうにか1人、多分能力的には最大勢力を、無力化できた。モモさんはやばい。あの怪力と、瞬時にして分厚い鎧を纏って黒騎士化する能力。もし黒騎士になられていたら、なす術が無くなっただろう。そうなってたら逃げるしかなかった……
ん、逃げる?
「………」
なんで、僕は逃げなかったのだろう。超加速したときに、とっとと逃げとけば良かった……
気を取り直して考えるが、状況がよろしくない。
まず、無茶し過ぎて全身が痛い。
さらに、超加速で使いすぎてマナが少なく、底をつきかけている。因みにマナとは魔法を使うときに使用するエネルギー源。心の力、精神力とか言った感じのものだ。
あとは、おしっこめっちゃしたい。
今、2人と対峙している訳だけど、おしっこはおいといて、時間を稼がないと、加速魔法が使えない。ばかみたいにある僕のマナは、すこしの時間経過で、結構回復する。
幸い、さっきの超加速を警戒してか、あちらは仕掛けてこない。
よし、自慢の流麗なトークで時間稼ぎをする事にしよう。
「君たち、この、不毛な争いは、もう止めにしないかい?」
僕は、両手を開き、自分の出しうる最高のエクセレントイケメンボイスで、少女2人にゆっくりと語りかける。
「………?」
アナがサリーを手で制する。サリーは、呪文を中断する。
「私は、君たちに危害を加える気はないし、君たちの友人には、とっても悪い事をしたと思う。すまない」
僕は深々と頭を下げる。
アナは、もう、不意打ちは狙わないはずだ。彼女は、いままでを鑑みるに、魔法で自分を強化しながら戦うスピードタイプの戦士だろう。そのスピードで僕に劣ると見せつけられた今、どうすべきか迷っているはずだ。さらにたたみかける。
「私の置かれた状況を君たち自身に置き換えて考えてほしい。気がついたら裸で、持ってるものは一つのカボチャパンツのみ、しかも大勢の人が近づいてくる気配がする。君たちならどうする?」
アナそしてサリーの目をしっかりと順に見つめる。よく見ると2人とも可愛いな。
「そりゃー、パンツはいて、胸は隠して助けを求めるわよ」
サリーが口を開き、アナが頷く。
「少し待ってほしい。君たちは黄金認識票の冒険者、いわば、あまねく人々からリスペクトされるべく存在だ」
僕は手を振り回し大仰なジェスチャーを加える。
「その国の宝とも言える英雄が、人前で裸で何をしていた? エッチな行為かな? それとも露出狂なのかな? 人々はそう思うに違いない。噂では、そういう話ほどよく広まるし、誇張されやってもないすごい事をしていた事になるだろう!」
そして、声のトーンを落として、
「君たちの名声は地に落ち、誰も尊敬してくれなくなるだろう」
両の手のひらを上に向け、やれやれのポーズをとる。
「例えば、近所のおばさんがこう言う、『あそこに住んでる人、勇者なんですって、だけど、露出狂らしいわよ。やーねー』って風にだ……」
僕は一呼吸おいて、
「今までの事を踏まえて、もう一度考えてほしい。君たちは、カボチャパンツをどうするかな?」
「多分、私は顔に被って逃げるな……」
アナが目を伏せる。
「あたしもそうするかも……」
サリーも目を伏せる。
「それが私のいま置かれてる状況だ」
静寂が辺りをつつむ。
「では、私は、ここを去ってもいいかな?」
「「………」」
2人は、何も言わない。
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