グラビティ・ゼロ(後)
バキッ! ボギボキボキッ!
しがみついた木が傾き始める。親父、木をへし折りやがったな!
一瞬にして僕は中空に投げ出される。身の竦むような浮遊感が体を襲う。それも刹那で急加速して落下していく。僕は鱗を必死で抱きしめる。
ふわっ!
一瞬落下が止まった! これがゴキブリ鱗の力なのか?
それでも地上まではまだ高さがある。
「あべしぶっ!」
僕は顔面から地面に叩きつけられたが、何とか立ち上がれるくらいのダメージですんだ。
ズズーン!
木の倒れる音がする。運良く立ち上がって移動したけど、木の倒れた場所は僕が墜落した場所だ。コロス、親父コロス! 絶対コロス!
「今の感覚をつかめ。あとはどんどん飛んでものにしろ。極めればこういう事も出来る」
親父はひょいと跳び上がると空中で停止して座禅を組む。両の足の裏が上を向いたすぐにほどけない奴だ。神様にでもなったつもりか? そして、またどこからともなくラーメンを出して食べ始める。くそっ、自分ばかり食いやがって!
千載一遇のチャンス!
僕はロザリオをこっそり外しポケットに入れて無詠唱で加速の魔法をかける。後で動けなくなってもいい。人の限界を超えたスピードで、僕は親父にカンチョーを放つ。
「死ねやコラァ!」
「はうっ!」
山に籠もって初めて親父に一撃与える事が出来た!
馬鹿め! 空中で座禅を組むなんてカンチョーしろと言ってるようなものだ。
「痛え! オイコラくそガキィ! ぶっ殺す!」
そして、僕らは前よりも一層熱の入った修行を繰り広げた。
それから、毎日毎日来る日も来る日も、修行の合間にはゴキブリ鱗を持って飛びつづけ、ゆっくり落下、空中停止を経て、重力コントロールが出来るようになった。いつのまにか鱗なしでも出来るようになり、汚い鱗はどっかに投げ捨てた。親父とまた熱の入った修行になったのは言うまでも無い。
怪我して治るの繰り返しで、いつのまにか自動回復も体に叩き込まれて、数々の虐待を経て、全属性耐性と環境適応のスキルも手に入れた。そして晴れて竜戦士になることが出来た。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「こんな感じで必殺の『グラビティ・ゼロ』を取得したわけだよ」
なんか脱線したけど、気にしないどこう。
「ふうん、いいお父さんじゃない。子供思いの。マリーちゃんお父さんと仲良しなんだね」
どこをどう聞いたらそうなるんだろうか。まあ、ある意味仲良しと言えなくもないか。
「そういえば、この体では親父と会ってないな」
「じゃ、今度ご挨拶にいきましょ」
サリーは僕の手をきゅっと握って僕を引っ張って行く。
親父か……出来れば会いたくないな。フラグで無いことを祈りながら僕たちは歩いていった。
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