第十七話 聖女貞操の危機
「うーん。おはよう」
僕は目を覚まし、伸びをする。よく眠れて爽快だ。何故か、いっぱい泣いたあとはよく眠れる。それにしても、マリーは涙腺が弱すぎる。ん、多分魔力も全快だ。
僕は立ち上がり、自分の影に沈み込む。シェイドの部屋でシェイドにタッチして貰って、久し振りに男の体、キラ・シドーに戻る。
そうだよ、キラのままだったら、思う存分一人で入浴出来るし、一人で眠れる。男にタッチしなければいいんだ。全身を鎧で覆って、直接タッチ出来ないようにしよう。
僕は、影から出てベッドのわきに立つ。視線が高いのが気持ちいい。
「ま、キラさんおはよう……」
モモさんが起きてくる。
「マリーちゃんおはよう……」
サリーはまだ寝ぼけている。
アナと金カブは安全を確認して、自分の部屋で寝ている。
僕たちは、部屋から出ると、廊下で簀巻きになったアルスと目が合う。
「お前、誰だ? なんでマリーの部屋から出てきた!」
アルスの殺気が膨れ上がる。そうだ、初対面だ。
「ぶっ倒す!」
アルスが簀巻きのまま凄む。いきなしぶっ殺すは飛躍しすぎだろう。
うーん、なんて説明しようか? こいつに触ったり、触られたらアウトだ。
「俺の名前は、キラ・シドー、マリーの親族だ」
出来るだけ低めの声を出す。なんか最近はマリー率9割くらいで、キラである自分が自分じゃないようだ。今まではずっと男だったのに。
僕は相手を知ってるけど、アルスは僕の事を知らないはず。ボロが出ないようにしないと。ん、けど、ばれた方がいいのでは? そしたらアルスにはもうつきまとわれないのでは?
「親族って親類なのか? なんか関係性がピンとこないけど、ま、いいか。それで、マリーはどこなんだ?」
ん、それでいいのか? ざっくりだな。
「悪いが、マリーには訳あってここにはいない。個人的な事だから、詮索はするな。代わりに俺が行く」
「あん、お前、なに仕切ってんだ? お前強いのか?」
アルスが布団にくるまれたまま、超ガンたれてくる。
ヤンキーか。まあ、身の程をわきまえさせてやるか。
「これで終わりだな」
僕は、アルスの首元に突き付けた木刀を降ろす。
「負けだ! 俺の負けだ! お前強いな。一緒に行くことを許してやる」
アルスは納得したようだ。ここは城のトレーニングルームで、加速能力でアルスをいたぶってやった。アルスのスピードよりは僕の方が格段に上だ。
「頼もしい限りだな。これからも宜しく!」
アルスが右手を差し出す。少し躊躇い、僕は手袋ごしに握手する。変身は直接接触が変化の条件みたいで、マリーにはならないはず。
「よう! キラ、元気だったか? よく眠れたか? 俺はお前のおかげで昨日は悶々だったよ!」
ギル王子が背中を叩いてくる。ん、僕のせい? なに言ってんだ? こいつは? 気にせず出発の準備をする。
僕たちは今サンドリバーの中庭に集合してる。イカが巨大なイカに変身して宙に浮いていて、その下には、僕たちが乗り込む籠が吊してある。サンドリバー重騎士団の面々も中庭に寸分違わす綺麗に整列している。
「俺たちは、これから、魔領に向かう。もしかしたら、ここにはもう戻って来れないかもしれない。別に強制はしない、力を貸してくれる者はついてきて欲しい!」
僕は言い放ち、籠に乗り込む。
『あたしたちは、当然ついてくわ!』
サリーとシェイドが乗り込んでくる。2人並ぶと双子みたいだ。
「わたしも当然!」
モモさんも乗り込んでくる。
「パーティーリーダーの私もいくぞ!」
アナだ。
「俺は冒険者だからな! 孤児院のみんなも心配だしな!」
アルスが金色の髪を掻き上げる。こいつはなんだかんだでいい奴だしな。
「サンドリバーの男は前進あるのみだ!」
王子も乗り込む。
「迷宮都市! 魔領! 行ってみたかったのじゃ!」
学長のじいさんも乗り込む。
「タコとマグロに逢いたいしね」
ウニだ。いたのか?
「子豚に復讐しないとな!」
でぶ魔神も乗り込む。こいつは信頼出来ないが必要だからな。
「留守は任せて下さい……」
ゲイボーイサクラは涙目だ。連れていって、昨日のお返しをしたいとこだけど、こいつにはこいつの仕事がある。帰って来たらお仕置きだ。
「王子に敬礼!」
騎士団長の号令のもと、サンドリバー騎士団が僕たちに敬礼する。
「それでは、魔領に向けて出発!」
僕の掛け声でイカが浮き上がる。
とりあえず、まずは魔神の城へ向かおうと思う。
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