第十一話 天空を翔る
「早く帰りたい……」
思いが口を出る。
謎の演舞で僕以外が盛り上がったあと、騎士数人がかりでなんとかドラゴンの首を切り、血抜きして、しょうがないから僕の魔法の収納に入れた。僕の魔法の収納は母さんから貰ったものだが、あんなでっかいドラゴンを入れたのにまだまだ余裕がある。
もう、昼過ぎで干し肉とパンをかじりなから、馬車に揺られている。同じ馬車に、王子、サクラ、団長が乗っている。僕の隣にサクラ、僕たちと正対して王子、その隣に団長が座っている。心なしか、馬車が王子たちの方に傾いてる気がする。団長が重いのだろう。ちなみに王子は今だパンいちだ。
「おいおい、何言ってるんだ? 今日は祝賀会! あすは結婚式と披露宴だ!」
王子がドヤ顔でのたまう。何言ってんだろう? あ、わかった!
「よかったな! お前たち結婚するのか。子供はできないかもしれないが、頑張れよ! 応援してるよ!」
僕はサクラの手を握って勇気づけてやる。サクラは真っ赤になる。よかったな、夢がかなって。王子だからなんでもオッケーだろう。2人で仲よくサンドリバー演舞をしてる光景を思い浮かべてほっこりとなる。
「何いってやがる! お前とだよ!」
王子が僕に顔を近づける。
「寄るな! 変態! 誰と誰が結婚するんだ?」
「俺とお前だよ! マリー! サクラ、確保だ」
「グラビティ・ゼロ!」
僕は逃げようとするが、サクラに呪符を張られる。
「王子、了解! 不動呪符だ。もう動けないよ。そうだね、こいつになら王子を任せてもいっかな」
「よかねーわ! サクラ、離せ。お前にが王子と結婚しやがれ!」
体が硬直して動かない。
ヤバイ!
このままではなし崩しに結婚させられてしまう!
ビリビリッ!
上から馬車の幌を突き破って、汚い触手が入ってくる。僕はそれに巻き付かれて、穴から馬車の外に引きずり出される。な、なんだ?
「マリーちゃん確保ーっ!」
サリーの声が聞こえる。
見ると気球のようなものに吊された籠から、サリーがこちらに手を振っている。
助かった……
「ただいま! みんな!」
僕は触手によって、籠のなかに引き込まれ、解放された。籠は6畳間くらいの広さがあって、サリー、モモさん、アナとウニがソファに座っている。
「「お帰りなさい!」」
みんながハモる。けど、誰も近いてきてはくれない。それもそうだろう、僕は粘液まみれだ……
あたりを見渡すと、頭上には丸い巨大なイカが浮いていて、それから伸びる触手が籠の四隅を掴んでいる。
イカ臭い!
とにかくイカ臭い!
なんてきったない乗り物だろう!
籠の上には透明な大きなパラソルがあり、それに一定期間おきにベトベトなんか液体が落ちてきている。
勇者や英雄達がもつ天空の移動手段。物語の中では不死鳥であったり、飛行艇であったりする。それらを手に入れて大空を舞うのは風を切って爽やかなんだろうなと思っていた子供時代。
その時の夢を返せ!
空飛ぶ巨大イカ?
もれなく臭い?
なんかきったない液体を垂らします?
なんか嫌だ……大事な何かを踏みにじられてる感半端ない……
魔物に攻められてる街に勇者が現れる!
イカに乗って!
ドラゴンと熾烈な空中戦を繰り広げる!
イカに乗って!
人々を苦しめる魔王を討伐にいく!
イカに乗って!
どう考えても人々にリスペクトされる未来が見えない。
後ろ指さされる未来しか……
「あたしたちの、至高の入浴時間を邪魔した罪は万死に値する!」
サリーが拡声器みたいなのを口にして、声を張り上げる。
「食らいなさい! ネロキャノン! てー!!」
サリーが右手を上げ、振り下ろす。
イカの口? からとめどなく黒い液体が噴射される。僕は動けないので見えないが地上では地獄絵図が繰り広げられてるのであろう。黒いぬめぬめした液体の中でのたうちまわるマッチョマンたち。見えなくてよかった……
「マリーちゃん。綺麗綺麗しましょうね!」
モモさんがどこからか濡れたタオルを出して、僕の顔や体を拭ってくれる。そしてぎゅーしてくる。
「……しあわせ……離さない……」
モモさんが呟く。僕もしあわせだ。
「あ、モモ。何してんの? いつの間に」
サリーも寄ってきて、僕にぎゅーする。
「勝手にいなくならないで、さみしかったんだから……」
視界がサリーで覆われる。暖かい。
全体的に疲れてた僕はすぐに眠りにおちた。
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