第十二話 イカ地獄
「お前、何、イカなんかと喋ってるんだ?
大丈夫か頭?」
冷たい声が投げかけられる。ロロだ。
首から下はドロッとした黒いものに覆われてる。顔にも髪にも若干墨がついてる。
「近づくな! 汚ねーっ!」
ついつい口から本音が漏れる。
ザバーン!
浴槽から黒い塊が現れる。ドロドロ粘っこいものが流れ落ち、塊は両手らしきものを頭にのばす。それはしばらくじたばた足搔いてた。
じゅぽっ!
やっと抜けて、多分兜を床に置く。きったねー粘液にまみれたモモさんが現れる。多分、なにも着てない!
粘液がまとわりついてるが、その美しいプロポーションが垣間見える。
「マリー、なにしてるの……」
モモさんからいままで聞いたことのない低い声が発せられる……『ちゃん』が無い呼び捨てだし。
「イカって美味しいのかしら?」
先生のめっちゃ低い声が響く。
声の方を見ると、頭からつま先まで隙間無くドロッとした黒い粘液にまみれている生き物がいる。剣を手にしていて、目と口だけがかろうじて解る。
「ど、泥人間!」
「泥人間じゃないわ!」
いままで、ゆっくり話してた先生が初めてクィックに話した!
「なんでお前だけ、墨くらってないんだ!」
ロロが僕を睨む。
「マリーちゃんとあのイカはどういう関係なの?」
モモさんが近づいてくる。イカ臭い生臭い!
「マリーちゃん、さっき、仲間っていってたわよねー!」
多分先生が近づいてくる。正直怖い!
妖怪みたいだ。
僕は、どろどろ三姉妹に囲まれる。
スケルトンに囲まれてた時より恐怖を感じる。
「そんなに、怒んないで、お風呂にでも浸かりましょう!」
僕は最高と思われる笑顔で三姉妹を見渡す。
「お風呂? 何処にあるの?」
モモさんが冷たい目で僕を見る。
背筋が凍る!
浴槽を見ると白濁色だったはずのお湯は、黒に近い灰色になってて、コポコポ泡立ってる……
辺りはイカ臭い空気に覆われて、切り落とされた無数のイカの触手がのたうちまわってる。壁や天井までも墨にまみれて、かつての綺麗なお風呂の面影は微塵もない。泡立ってる灰色のお湯をたたえた浴槽からは、巨大なイカがこちらに頭を倒して浸かってる。
「イ、イカ地獄!」
僕の口からつい漏れる。三人も肯く。
「よくも!」
ザシュ!
なんか先生の後ろの虚空に現れた黒マントの人物を、振り向きもせずに先生が切り伏せる。
それは、粉になって消える。
やべぇ!
こえぇ!
「先生! 今のって、僕たちを転移させた方なのでは?」
僕は泥人間に話しかける。
「そうね、そうかもね。それで? 今はお風呂とこの状況の話でしょー」
泥人間が口を開く。
イカ臭い!
どうすればいい?
このままでは、僕もくっさい粘液まみれにされそうだ。
それだけは勘弁して欲しい。
僕は綺麗好きなんだ!
「イカ! 死んだふりしないで、変身を解いてこっち来い!」
イカが少年に戻り、僕の横に駆けてくる。
「え、子供?」
モモさんとロロがびっくりしている。先生の表情は解んない。
「やっぱ、死んだふり解りました?」
イカが僕を見る。こいつ僕に責任をなすりつけるつもりだったな。
「イカっ! 一緒に謝れ!」
「「すみませんでした!」」
僕とイカは土下座する。いかん、我慢できない。
「墨なだけに!」
ついつい顔を上げて言う。
「反省しろっ!」
べちーん!
ロロのビンタが僕に炸裂した!
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