第二十四話 すれ違う心
「サリー、一緒に行こう……」
僕にとってはとてもとても長い時間、サリーと口づけを交わしてた。ずっとずっとそうしてたかった。鼓動は速くなり、サリーの鼓動も僕にシンクロしている。顔を離して、息が当たる位の距離で、僕はサリーに呟いた。
サリーは一瞬悲しそうな顔をすると、僕に強くしがみつく。そして、離れていった……
気が付くと、僕はパンツだけになっていた。サリーの姿はそのまんまだ。まだ、心の距離があるのか。
「マリーちゃんっていつも裸か下着だけねー」
サリーが嬉しそうに目を細める。
「行くって、何処に、冒険?」
サリーは椅子に座る。
「何の為に冒険するの? お金? 地位名声?」
サリーはコーヒーを一口飲む。
「あたしは、お金のためだった。あたしが生まれた所は分かんない。ここから遠い遠い国。なにも持って無くて、ゴミを漁って、雨水を飲む暮らし。ある日、あたしは邪悪な魔法使いに捕まった。待ってたのは人体実験。目の前で何人も死んでったわ……あたしは、その実験で生き残った」
そして、サリーは口を閉じる。一瞬、サリーの姿がブレたかと思うと、サリーの後ろから、もう1人のサリーが現れる。違いは必要最低限のみ覆った黒のエロい下着だけつけてるのと、若干目がつり目で鋭い。よく漫画とかである、主人公の偽物って感じだ。
「こうやって会うのは初めてだな。シェイドだ」
二人目のサリーはそう言うと、いつの間にか出てきたもう一つの椅子に座る。やばい、大きなスライムの先端だけ隠したマイクロビキニに眼がとられる。
「ん、キラ。あたしの胸に興味があるのか? しょうがないな」
シェイドは、ブラに指をかけ、中身を出そうとする。僕は後ろを向く。見とけば良かった。
「シェイド止めて!」
サリーが叱る。
「いいじゃないの。減るもんじゃ無い」
「シェイド! あたしと同じ体で遊ばないで」
「んー、解ったわよー」
「あたしはその実験で、体の中に2つの心を持ってるわ、サリーとシェイド。私達は、その実験場から幾つかの魔法を盗んで逃げだしたわ」
サリーはシェイドと呼ばれた黒いサリーの方を見る。
「殺人以外の悪いことは、ほとんどしたよな!」
シェイドが笑って僕を見る。シェイドはサイコパスなのか?
「私達は薄汚いドブネズミよ。本来だったらマリーちゃんのような天使に触れる価値すらないわ」
サリーは、顔をしかめ、目を閉じる。
「ドブネズミのどこが悪いんだ? 一生懸命生きているなら、ドブネズミだろうが何だろうが、僕は汚いとは思わない」
昔聴いた事がある、温かい歌が頭に浮かぶ。ドブネズミのように綺麗になりたいって感じのフレーズがある曲だ。
「ありがとう。マリーちゃん。けど、それに、もう、あたしはお金には困らない。おととい、聖杯の上に、1メートル位ある魔石が生み出されて、それをオークションにかけたら、数十年くらいは贅沢に暮らせるお金になったわ。あと、もう1個、メロンみたいなのも出てきたし。マリーちゃんの仕業でしょ、ありがとう」
サリーは力無く笑う。
「別にたまたまだよ」
サリーは大きく息を吸う。
「私は、ここで伯爵夫人として暮らしていくわ、普通に結婚して、普通に子供を産んで、普通に死んでいくわ。マキュロ伯爵はいい人よ。太ってたあたしにも素敵だって言ってくれた。ずっと前から求婚されてたけど、今回踏ん切りがついたわ」
「サリー。あんなののどこがいいんだ?」
「伯爵は伯爵よ、ずっとここを治め続ける。もう、冒険に行く必要はないわ。何日もお風呂入れなかったり、食べられるものなら何でも食べたりする必要はないわ。ずっとずっと平和よ」
「あいつの事が好きなのか?」
「知らないわ? どうなのかなー? どうでもいい。普通、いや普通より少しいい暮らしが出来れば」
サリーは僕から目を逸らす。
「それに、あたしは強くない。普通よりは十分強いけど、あなたは多分英雄か梟雄になる。あたしは足手まといにしかなれないわ。もっと強い人を探せばいいわ」
サリーの言ってる事は全て本心だろう。ここでは嘘がつけない。嘘がつけない事にサリーが気付かないって事は、彼女は全て本当の事しか話すつもりがないんだろう。
「サリーがシェイドの事を話したのは、お前か初めてだ」
シェイドは目を細めてそう言うと、サリーに入っていった。
「大好きだよ! けど、ごめんなさい。さようなら……」
サリーはそう言うと、一気にコーヒーを飲み干した……
世界が一瞬にして崩れ切り替わる。
曲の名前はザ・ブ○ーハーツのリ○ダ・リン○です。私の最高に好きな歌のうちの1つです。
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