第十二話 膝枕
「先客がいるな」
先頭にいたアナが立ち止まる。
部屋に入ると、固いものを金属で叩くような音がする。
部屋はとても大きく天上も高い。奥の方で、三人の男女が、茶色いずんぐりむっくりした巨人と戦っている。多分あれがタイタンというヤツだろう。他の2人より頭一つくらい背の高い双剣使いが、巨人の攻撃を引き受け、他の2人が支援したり魔法を放っているように見える。
僕はそれを見たとたん、凍りついたかのように動けなくなる。
『セイクリッド・マローダー』
僕を追放して、ランダムワープポータルに叩き込んだ三人だ。
ゆっくりと呼吸する。
「どうした? マリー、顔が真っ青だぞ」
頭から血が抜けたようで、さらに息が苦しくなる。力が抜けて、モモさんの方に倒れ込む。
「マリーちゃん、どうしたの貧血?」
「そうみたい……だ。悪いが、横にならせてくれ」
どうも、この体は貧弱みたいだ。僕は深窓のお嬢様なのかよ。
「しょうがないわね」
モモさんが優しく僕を横たえると膝枕してくれた。やばい、なんのご褒美だ。僕の心臓の鼓動が早くなり、さらに気が遠くなる。横を見ると、横転した世界で、戦っているのが見える。けど、全く状況が理解出来ない。
僕が美少女に膝枕されてる!
まるで世界征服でもしたような気分だ。
あ、そう言えば残念な事に僕は女の子だけど……
「善戦してるようだな。横取りはタブーだから観戦させてもらうか」
アナが僕の横であぐらをかく。こいつ男みたい、いや、おっさんみたいだな。
戦いを見てるけど、正直全く頭に入ってこない。今、僕は幸せだ。柔らかい太股の感触が最高だ。あと、なんかいい匂いがする。
どうでもいいが、あいつらはとっととやられちまえばいい。
なんか、ジェフが剣手で巨人をたたいたり、イリアが火とか氷とか出したりしてる。ヘルメはチョロチョロしてる。あいつらはクズだけど、今だけは少し感謝してる。この至福の時間を与えてくれたことを。
「だめだな」
アナは頬杖をついて見てる。おっさんだ。麦酒が似合いそうだ。
「そうね、攻撃が効いてない。均衡が崩れたらたたみかけられるわね」
サリーがアナのよこで体育座りで解説してくれる。そうなのか、早くたたみかけてくれ、がんばれタイタン! あ、けど膝枕はまだ継続したい。複雑な気分だ。
「そういえば、東方の煮込み料理でタイタンってあるよな」
僕は心に浮かんだどうでもいいことを呟く。
「それは、『炊いたん』でしょ。煮物のような料理だけど、それは普通の人には通じないと思うわ、東方マニアの人にしか」
モモさんが解説してくれる。饒舌だな、モモさんは東方マニアなのか?
「見ろ、崩れたぞ」
目をやると、ジェフが一振りの剣を失って、一本の剣を使いタイタンをなんとかいなしている。
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