第十話 逃亡
「そうだ、フロアボスだ。20層の奴は掻っ攫われたけど、30層は我らがいただく」
アナは胸を張る。あ、こいつ胸ないな、ぺったんこだ。得心だ。だから無い物ねだりでやたら僕の胸を狙ってるのか。
「あのですね、できれば僕は地上に帰りたいのですけど」
正直こいつらとは早く別れたい。とってもとっても心臓に悪い。
「駄目よ、大したドロップアイテム出てないから、このままだと赤字よ」
サリーは、さっきからこの部屋のドロップアイテムを集めている。けど、こいつらが赤字かどうか知ったこっちゃない。
「いや、赤字ではない。こいつを売ろう。この見た目とでっかい胸に収納持ちだ。多分大金貨十枚くらいにはなるだろう」
アナは僕の肩をがしっと掴む。
「何言ってやがる! 僕を売るな!」
ちなみに貨幣価値だが、大金貨一枚で働き始めたばかりの者の初任給くらいで、その十分の一が小金貨、その十分の一が銀貨、その十分の一が銅貨で、その十分の一が銭貨だ。まあ、だいたい小金貨一枚が一万円くらいだろう。
「お前に選ばせてやる。私達と一緒にフロアボスと戦うか、今すぐ地上に戻ってオークションにかけられるか好きな方を選べ」
アナが最高の笑顔を僕に向ける。僕は掴んでいるアナの両手を振り払う。
「どっちも選ぶか、バーカ! グラビティ・ゼロ!」
僕は部屋の出口に駆け出す。
「あ、逃げるな、こら!」
隙をついたので、すんなり出口を出て通路に出る。この体に少しは慣れたので、並みの人よりは早く走れてるはずだ。進むと道がほぼ直角に曲がってる。チャンスだ。
「ホーリーライト!」
角を曲がる前にマックスで光を放つ。そして曲がった瞬間に跳び上がり天井近くで停止する。アナたち三人は目が眩みしばらく立ち止まってから走り始める。ちょろいちょろい。あとは、僕を諦めて下層に進むのを待ってやり過ごして地上を目指せばいい。1人では少し不安だが、あのアナと言う奴と一緒にいる方がもっと不安だ。
しばらくして、三人が僕の下に戻ってきた。
「あーあ、マリーはどこにいったんだろう?」
アナがぼやいている。
「多分、遠くに行ったんだろうね」
サリーがアナに答える。なんか心なしか棒読みのような気が……
「あーあ、収納持ちの回復魔法使い。わたしたちには格好な仲間だったのになぁ」
モモさんも棒読みだ。なんだ?
三人は僕の下を通り過ぎていった。
よし、やりすごしたな、地上を目指そう。一人では危険かもしれないが、フロアボスと戦うよりは安全だろう。
僕は地上に降りると歩き始めた。
「巨乳ゲットだぜいっ!」
いきなり何者かに後ろから胸を掴まれる。ぱっくり胸元があいたメイド服なので、胸がはみ出そうになる。
振り返るとアナだ!
「キャアアアアアッ!」
僕はつい叫んでしまう。
「何故、何故見つかった?」
「お前は存在感がありすぎるんだよ! 特に胸!」
アナにめっちゃハグされる。女性、しかも美人さんにされてるのに全く嬉しくない。
しばらくして、僕を解放して、アナは首にかけた冒険者認識票を出して見せる。
「私達は、黄金の認識票の冒険者だ。悪いがお前のする事など、まるっとお見通しだ!」
アナはどやるが、さっき間違いなく一度は通り過ぎたよな?
「もう、逃がさないわよ」
サリーががしっと僕の手を握る。残った手はモモさんが掴む。そして仲良く3人横並びで歩く、いや正確には引きずられて行く。
「私が掴む場所がないではないか?」
アナの声がしたかと思うと、両足を掴まれて体が浮く。
「ほぅ、お尻丸見えだな」
「見るなやコラ。離せ、離せーっ!」
3人に持ち上げられたままスーパーマンが飛んでるようなポーズで、無理矢理下層のフロアボスを目指すことになった。
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