表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

はじめてのとうみん

作者: 蠍座の黒猫

 ふかい山のおくに、ツキノワグマの母子おやこがいました。

去年きょねんの2月に生まれたぼうやのこぐまは、もうすぐ一年になるのにまだ小さくて、母くまに心配しんぱいばかりかけていました。


 ふゆ本当ほんとうさむくなってきたよるのことでした。

ぼうやがお空をみていると、お空のいちばん上から、つよひかほしが一つぴかりとながれました。

「おかあさん、おほしがおちたよ。とってもたかいところから、おそらのしたまでおちてきたよ。」

まっ白ないきをはずませて、こぐまは母ぐまへ言うのでした。

「そうなのね。それはながぼしよ。とおいお空をたびしたお星さまの最後さいごひかりなのよ。」

ぼうやのきらきらと星を宿やどしたようなひとみを見つめて、母ぐまはおもい出していました。

二ねんまえに、生まれてすぐしんでしまったこぐまのことを。

「ぼうや。もうおやすみなさい。こんやからながい冬のねむりですよ。」

母ぐまは、こぐまとごすはじめての冬眠とうみんを、今晩こんばんからはじめようとしていました。

「ぼく、まだそんなにねむたくないよお。」

「おほしさまのさいごのひかりをよくおぼえていてね。ながいゆめの中で、またきっとあえるから。」

母ぐまは、まるで自分じぶんに言いきかせるようにぼうやに言いました。

「さあ、おくへ入って。あったかくしてねんねしましょう。」

「おほしさまもねんねするかな。」

「そうよ。はるまで、お山もおほしさまも、みんなねんねするのよ。」

母ぐまは、ぼうやを巣穴すあな一番奥いちばんおくしこみました。

こぐまをむねいだくようにしながら、自分じぶんは巣穴の入り口をふさぐように丸くなります。

「うーん・・・」

ぼうやはもうねむり始めています。

母ぐまは、そんなぼうやの首元くびもとを少しめてやってから、しずかにめをとじました。


――しんしんと夜はけていきます。

満天まんてん夜空よぞらに、つぎからつぎへとほしが流れてえていきます。

ときに大きな火球かきゅうとなり、夜空を煌々(こうこう)とらしますけれど、それはひとときのことで、すぐに静かな夜空にもどります。それは、まるで音のないうつくしい調しらべが、はるか永遠えいえんへとかなでられているようでした。

ふかい山のぶなの森には、白いゆきほのかにひかっています。とおい空の彼方かなたでは、まるでだれかがそっと見まもっているような灰色雲はいいろくものカーテンがありました。

 星々(ほしぼし)のときはとても長いので、生きているすべてのものにとっては、まるでまっているようです。けれど、ながぼしのように、時折ときおりそれがまぶしくかがやくおわりの時を見せてくれることがあります。そのことは、おわりの美しさと、静寂しじまのなかにあるはじまりの予感よかんを見せてくれるものでもありました。

 また、春が来るでしょう。そのとき、このくまのおやこはせて強張こわばった身体からだをほぐしながら、ゆたかな森でえさをさがすでしょう。そのとき、まだのこゆきを口にするかもしれません。えた身体からだつめたい雪のあじは、ぎた冬の名残なごりの味なのです。ぼうやは、初めて見る早春そうしゅんの光に目をほそめるでしょう。そして季節きせつの始まりというよろびをるのです。その姿すがたを見るしあわせこそが、母ぐまにとってただ一つの大切たいせつな光そのものなのです。

 この母子のように、春になればいのちがあちこちでまします。そのいのちのほのおの光こそがこの星の光であり、永遠のように長い星々の終わりの光とついになる、始まりの光なのです――


 母子おやこ寝息ねいきこえてきました。もうすっかりとねむったようです。母ぐまのおなかのあたりにうももれて眠っているぼうやの可愛かわいいまぶたが、ぴくりとうごきました。もしかしたら、あおひかながぼしのゆめを見ているのかもれません。そして、もしかするとぼうやが目をましたら、あたらしい小さなおとうといもうとが母ぐまのちちんでいるかも知れないのです。おかあさんの熊たちは冬眠中とうみんちゅう出産しゅっさんします。だから、ぼうやも知らないうちにお兄ちゃんになっているかも知れないのです。

 今も、どこかで始まりが眠りの中ではぐくまれています。雪解ゆきどけがたのしみですね。



おわり

冬の童話2022企画作品です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 静かで優しいお話でした。 楽しく読ませていただきました。 冬眠中に出産、びっくり!
2022/01/17 16:21 退会済み
管理
[良い点] おもしろかったです。 クマって冬ごもり中に出産するんですか。勉強になりました。
[良い点] 「冬の童話祭」から参りました。 熊の母子の静かな暮らしと星々の世界が対照的になっているのが印象に残ります。 春に目覚めるいのちの炎と、流れ星が見せる星々の終わりの光。どちらも素敵だと思いま…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ