唇
唇に物凄く柔らかいものが触れていた感触があった。
未知の感触だ。一瞬疑問に思うと同時に咳き込んで海水を吐き出した。
ゴホッ!ゴホッ!ゴフゥ!
ハァハァハァハァッ、ハァァ。
少し落ち着いた。
大丈夫?
そう日本語で声をかけられた。混乱の極みだ。
海、浮いてる、空、青い、女神、キレイ。女神、俺死んだか、三途の川、金無い、渡れない、ならいいか。
ある程度考えがまとまったところで女神をよく見る。見納めだと思ってじっと見る。女神もこっちを見てくる。その瞳はわずかに青がかった緑色。黒目の私は引き込まれるしかない。無造作に、自然に触ってみようとする。触れた。
「女神様」思わず呟いた。
瞳が揺れて少し困惑した表情を浮かべる。
「メガミサマって何だっちゃ?」
ん!?だっちゃ!?女神語か?待て待て待ておかしすぎる!落ち着け!状況を判断せよ俺!
私の頭は彼女に抱き抱えられているが、さっと周りを見渡す!そうだ!この娘は愛機から出られなかった私を助けてくれたんだ!
それで、人工呼吸で助けてくれたんだ!間違いない!
とりあえずお礼を言わねば!
「セ、セ、センキュー」
彼女はニッコリと笑う、なんだこれはなんだこれは!
なんだこれは!死を覚悟した次の瞬間に、なんだこれは!
「あなた日本人でしょ、英語できるっちゃ?」
「あっ、はい、少し判ります。」
「オーケー、とりあえず意識戻ったし、舟に乗って!」
「はっはい。」
なんか気圧されて敬語になってしまった。まあいいか。
それから私と彼女は舟の上で日本語と英語でやりとりした。
その結果、私の英語より、彼女の日本語の方が上手だとなり、日本語で話すことになった。
「君の日本語、本当に上手だね、どこで学んだの」
「ウチの隣の人が日本人なの。遊びにいっているうちに覚えたっちゃ。」
「君の名は?私の名はソラといいます。」
ここは敵地だ、本名は言えない。
「わたし?、私の名は、ノアよ。」
「ノア、良い名前だね。」
「ソラって、スカイのこと?良い名前ね!」
それからも、私と彼女はすっかり打ち解けて話しながら、海岸に向かった。