決着
隊長機はこの戦闘空域から離れつつある。
そして敵の二番機は無事に機外に脱出し、すぐにパラシュートを開いた。
これで舞台は整った!
このまま少しずつ隊長機から遠ざかりつつ決着をつける!
奴は旧式のP36に乗っているが、P40はもう残っていないのだろう。
P36は初めてだが、相手に不足はない!
高度はお互いに1500メートル!零戦が一番得意な高度だ!
スロットル全開!一気に接近する!
奴も接近してきて一瞬の交差!
まるで鏡に写したような同じ挙動!
そこからは旋回合戦だ!P36の旋回性能はどうだ!
目で追いながら力一杯操縦桿を引く!
ほう!結構速い!P40より速度は遅いが、その分旋回性能が良い!
まるで陸軍の隼みたいな奴だ!
しかし、性能は零戦の方が上!!そこからはお互いに優位をとろうと上下左右の激しいロール!急旋回!激しく攻守を入れ替えながら、僅かなチャンスでの撃ち合い!
弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾!!
お互いの鉛弾が空を切り裂いてゆく!
時間にすると数分、少しずつ私の方が優位となり、奴の後方の占有率が上がってくる!
頑!!頑頑!
相互にジャブがヒットし始める!
クソ!あまり被弾するのはマズい。
防御力ではP36のが上かもしれない。
しかし、奴も少なからず零戦の7.7ミリ弾を食らっている、性能的な不利も感じただろう、不意に急上昇を始めた!
急上昇?!低高度において零戦の最も得意な分野だぞ!
「選択を誤ったな!」
叫びながらスロットル全開!!
馬璃馬璃馬璃馬璃馬璃馬璃馬璃馬璃!!
黒煙を吹き!一千馬力級栄エンジンが吼える!!
急速に接近してゆく!縦旋回戦!照準器に少しずつP36が近付いてくる!
歯を食い縛って操縦桿を引き続ける!一周!もう少しで必中ぞ!
そして頂点に差し掛かる!
ゾクリ!この感覚!
奴は急激なロールを打つ!急すぎて照準器を通り過ぎ撃てなかった!
インメルマンターンか!ナメるなよ!
ベテランなら使える空戦の大技だ!
奴に続いて機体をロールさせる!
だが!奴は更にローリングに入る!
クソ!今さら後には引けない!
魅死魅死!翼がきしむ!
奴が視界から消えて行く!
何処だ!!全力で周囲を見回す!
一瞬!背後上方至近距離!殺意が溢れる!とっさにフットバーを蹴りつけて機体を滑らせて回避!
弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾!!
頑!!頑頑!!頑頑!!
この野郎!!やるじゃねえか!!
奴は凄まじい挙動の反動で運動エネルギーを使い果たす!失速寸前だ!
今度はこっちの番だ!
ウ雄雄オオオオ!!!四肢全てを駆使して零戦を操作する!!
ドリフトだぁ!!!!
零戦は未確認飛行物体UFOのように説明出来ない不可思議な動きを行う!
凄まじいGのなか、不思議なほどにP36が照準器に入り込んでくる!
奴は後ろを振り返り驚愕の表情だ!
勝った!!躊躇はない!20ミリ機関砲と7.7ミリ機銃の発射レバーを握り込む!
弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾!!鈍鈍鈍鈍鈍鈍!!
頑!!頑頑頑頑頑頑頑頑!業炎!!
命中!!エンジンから火が出て黒煙が機体を包み込む!
垣間見えた操縦席の奴と目が合うと、私を見て不敵な笑みを浮かべた気がした。
零戦は無理な挙動でベクトルが異なり、P36はあっという間に離れて黒煙と共に厚い雲の中に消えていく。
追撃する気にはならなかった。今から追いかけて止めを差すなんて、日本男児の、空の男のやることではない。
勝ったか・・・
現在地はよくわからないが、オアフ島からそう遠くは離れていないだろう。
野郎、うまくやれば助かるな。
今度会ったらどうしようか、正直もう戦いたくないな。
さて、隊長機は無事だろうか、可能なら合流したいが。
ふと燃料計を見ると、激しく減っている!
そんなバカな!計器を叩き、そして機体を確認する!
燃料がキラキラと七色の虹となって大空に漏れ出している!
零戦が虹を描いて私の勝利を祝福しているようだ。
しかしマズイ!
こんな海上で!
母艦は遠い!
・・・・・死ぬのかな。




