散布
攻撃隊はそれぞれ、あらかじめ指示された攻撃目標に向けて急速に分離して行く!
離れ際にお互いに敬礼を交わす。見ると皆は微笑みを浮かべているが、この微笑みは、熟練の自信と、死を怖れない覚悟がそうさせるのだ。
私も当然微笑み、攻撃隊と別れる。
攻撃隊は、真珠湾付近に設置されているウェーバー要塞及びバレッタ要塞に向かう。
この要塞二ヶ所に最大の40.6センチ砲台が4門設置されているのだ。
設置場所はスパイの情報に基づいたものらしいが、先の奇襲攻撃時に情報通り存在が判明しているので、攻撃破壊は比較的容易と思われた。
鈍、鈍、番番!鈍鈍、番番!!
遠いが高射砲陣地からの砲撃が炸裂し、付近の空域に破片と黒煙を撒き散らす!
当たるかよ!
敵戦闘機は、数機が飛行場から緊急発進して上がってくる様子が見える。
少ない、あの程度なら護衛隊の敵ではないな。
私は呟く。
敵戦闘機の驚異は少ない。淵田隊長もそう考えたようだ。
遂に淵田隊長以下、特別部隊の九七式艦上攻撃機6機も、隊長の合図を機に1機ずつ別れてオアフ島各地に向かう。
あわせて零戦も同じ、1機ずつの護衛となる。私は淵田隊長の護衛を任された。絶対に守らなければならない。那須と神鳥谷に合図を送る。
二人とも余裕の笑みだ。なんて奴らだ。思わずガッツポーズ!奴らも返してきた!お互い、任務を全うして赤城で会おう!
淵田隊長機が目指すのは南東のワイキキビーチ付近だ。6機のなかでは目標は一番近い。
海岸線が近づいてくるが、対空陣地も近くなってきて脅威に感じる。
空戦ならば怖れることはないが、対空砲の爆発は無性に怖い。
高度1500メートルに降下、爆撃コースをとる。
私は隊長機の後方で周囲の見張りに集中する。
チラリと隊長機である九七式艦上攻撃機の主翼下部が目に入る。
そこには、通常であれば日の丸が描かれているのだが、今は、ハワイ王国旗が描かれている。
ハワイ王国第7代、カラカウア王が使われたという、ロイヤル・スタンダード旗。
8本の白、赤、青のラインの中央に、コート・オブ・アームが入った旗だ。
昨夜から、絵の得意な隊員が一気に仕上げたものだ。
即席の割には素晴らしい。日の丸も良いが、このハワイ王国旗は華やかで、攻撃機というより、空中旅行をしているような感覚になる。
これを見たら、皆驚いて腰を抜かすに違いない。自然と笑みがでる。
敵機は来ない。遠くで空戦の輝きが見える。
私達はワイキキビーチを超えて、オアフ島上空に進出!
地上には一般人らしき人影が見え、こちらを指差している。
海岸線を越え、ここから中心街に、北西に進路をとる!
九七式艦上攻撃機が吊るした大型爆弾の扉が開く!
薔薇薔薇薔薇薔薇薔薇薔薇薔薇薔薇
薔薇薔薇薔薇薔薇薔薇薔薇薔薇薔薇!!!
オアフ島上空に大量の、美しく、棘を持ったビラが撒かれ始めた!!
それはハワイの歴史を変える、驚天動地の神の紙であった。