邂逅
私は今、空母機動部隊の上空6000メートルにおいて、那須一飛曹と神鳥谷一飛兵とともに周辺警戒を行っている。
高度6000メートルの世界は酷寒の世界だ。
空気も薄いため酸素マスクを着用している。
この高度であれば短時間なら酸素マスク無しでも居られるが、長時間となると少しずつ思考力が低下し、一瞬の判断が遅れてしまうのだ。
我々零戦隊の目的は、第一に空母の絶対防衛、そして第二に敵攻撃機の撃滅である。
空母6隻から上がった零戦の数は総数78機、26小隊である。
指示通り高度3000メートル班、4000メートル班、5000メートル班の3班に別れているが、新海小隊は各員抜群の視力を買われ、最高高度6000メートルで見張り中であった。」
四方は雲量も少なく、果てしなく見通しが良い。
操縦席内はガソリンとオイルとハワイの空の香りが混じった冷たい空気に満ちており、酸素マスクの隙間からそれらの香りが僅かに混じって私の肺に流れ込み、そして身体中に染み込んで行く。
零戦も私も、同じ空気を吸って、それを糧に自らを脈動させるのだ。
音の世界は爆音だ。他の音はほぼ聞こえない。
しかしその爆音に包まれていると、何故か安らぎの気持ちになってきて、かえって集中力が研ぎ澄まされる。
目をつぶっても、機体からオーラが放たれて周囲全てを把握できるような感覚になるのだ。
実際にそれで命を救われたことは幾多もある。
私は水平線の彼方を見つめながら、必ず来るであろう敵機を待ち続けた。
キラッ!
一瞬の光り!北方!水平線より上!
ゴーグルの奧、自らの視野で捉えた一瞬の輝きを視野の中心に捉え直し、目を見開いて最大望遠で捉える!
もうなかば確信している、あとは再確認だ。
キラッ!!輝き二つ!間違いない!
来やがった!!
思わず叫ぶ!
一瞬早く二番機が加速する!
だよな!!続くぞ!!
神鳥谷にアイコンタクト!
頷いて着いてくる!
鈍鈍鈍!!弾弾弾!
二番機が合図に20ミリと7.7ミリを発射する!
私と三番機も試射で応じる!
3機は薄い飛行機雲を残しながら滑らかに加速して行く!
敵までの距離は約30キロ!高度は約4000!
2,3分で邂逅する!
少し遅れてモールス信号も鳴り出す!警戒艦からの信号だ!50機以上!なんとか聞き取れる!
ヤバいぞアメ公本気だ!
やってやるぞ!
大声で叫んだ!
全機が一気に高度を上げ始める!空戦の鉄則、優位を取るのだ!
栄エンジンが唸りを上げる!
最初はホンの小さい粒、それが時々光を反射する黒い点となり、やがて航空機の編隊だと解ってくる。
しかも、手前に比べて、後方に続く機影は大型だ!爆撃機の大編隊か!
これは凄い迫力だ!初めて見る!
しかし、とりあえず脅威は急降下爆撃機と雷撃機だろう。事前の指示でもそうだった。
魚雷を抱えてる奴は居ないのか?後続の敵影を見ても、見える範囲では居ないようだ。
ふむ。ならば爆弾を吊るした急降下爆撃機をまず叩く!
敵戦闘機はP40とP36が相当数向かってくる!
あれ!?陸軍戦闘機だよな、昨日の戦でF4Fは壊滅か!
これは本当に総力戦だぜ!
敵戦闘機編隊は3方向から襲い掛かろうとする零戦隊に対応すべく、3隊に別れた。
我々3機はその上を飛んでいたので敵からも対象として除外されたようで、高高度から両軍の動きを観察できた。
那須に合図を送る、ここは待て。
了解!
両者は滑らかに、そして機敏にそれぞれの目標を定めたようだ。
大空を翔ぶ猛禽の群れと群れがまさに交差しようとする!!
大空の騎馬戦が、今!!




