日の出
待機室には制空隊が残った。
板谷少佐が振り返り、指示をする。
「さて、それでは具体的な話だが、まず、直掩は小隊ごと、3機ずつ2時間交代だ。詳しくは搭乗割を見ておけ。」
はい!
「昨日のPBYカタリナ飛行艇の話だがな、まぁお前ら聞いているだろうが、あいつはまだ若手だったからな、結果的には、反復攻撃のなか、一撃離脱の際に引き起こしが遅れて衝突してしまったのだ。」
「新海小隊は先日B17を撃墜したと思うが、カタリナの堅さも想像以上だ。本当に接近しないと20ミリは当たらない。今日も大型爆撃機の襲来が予想されるので、射撃タイミングをよくイメージしておけ!」
「了解!」
「全機上がったときの直掩は高度3000班、4000班、5000班の3班体制だ。」
「敵の情報については、モールス情報を受信し、的確に対応せよ。モールスが苦手な古参兵も、最低限理解できるようにな。」
「了解!」
「以上だ、質問はあるか?」
「はい、無線機なんて、雑音だらけでよく聞き取れませんよ。」
「モールス信号ならば、なんとか聞き取れるさ、お前は得意ではないからな、今回の敵急降下爆撃の被弾は、そこの不備を突かれたと言ってもいい。外周の駆逐艦は少し前に敵機情報を伝えてきていたらしいのだよ。直掩は全く気付かなかったのだがね。そういうことだ。」
「了解しました!がんばります!」
「うむ、ほかにはないな、では各自待機とせよ。」
ザッ!お互いに敬礼!
さあ、今日も忙しい一日となる、生きて明日を望めるだろうか。
12月10日の日の出は午前6時59分である。
空母赤城に太陽の光が降り注ぐ。
いや、降り注いではいない。太陽は水平線の真横から深紅のレーザー光線を放ち、世界最強の空母機動部隊の各艦艇を黄金赤色に染め上げる。
飛行甲板には、零戦が3機横隊の4列、計12機が整然と並べられている。
私達は零戦の傍らに立ち、その太陽の力を全身で受け止める。
あまりに神々しく、涙が出るのをさりげなく隠す。
全世界に太陽信仰はあるが、それもこの光景を見たら当然だと感じさせる。
真冬のハワイ海上は酷寒だが、太陽光が熱を乗せてきて、暖かさを感じる。
零戦の準備は整った。
あとは出撃命令を待つのみだ、
オアフ島までは約300キロ、間もなく敵の索敵機がやって来るだろう。
それまではまだ待機だ。我々は再び待機室に戻り、体調を万全に保つ。
そして約1時間後、艦が速度を上げ始めた!
我々は顔を見合わせ飛行甲板に急ぎ駆け上がると、遠くに敵の索敵機であるアメリカ海軍機のPBYカタリナ飛行艇が1機見える!
それに喰らいつこうとする直掩の零戦6機!
艦橋も、皆で見守るなか攻撃が始まった!
罵詈罵詈罵詈罵詈!!
遠くに聞こえる戦闘音は落雷のようだ。零戦の機関砲とカタリナの対空機銃が空に雷を放つ!
いけー!やれー!
甲板員も私達も大興奮だ!
しかし、零戦有利は圧倒的なのだが、なかなか墜ちない。既に艦隊の情報は送られてしまっただろう。
そして、いよいよカタリナの双発エンジンが炎上!緩やかに落下を始め、搭乗員が脱出して落下傘を開く。
やったぞ!
零戦に被害はない!よし!
思わずガッツポーズだ!
それから数分後、改めて我々零戦隊に出撃命令が下され、我々は蒼穹の鷲となった。