待機
今後の作戦指示を受け、我々制空隊は敵機の攻撃に備えて待機となった一方、攻撃隊は明日未明まで休息となった。
日没まで約3時間。攻撃隊を出撃させる時間的猶予はないとの判断であった。
格納庫では整備兵も連日の準備と機体整備でかなり疲労が溜まっているようだ。
交代で休憩しているようだが、そのまま格納庫の角で眠ってしまう状況だ。
そんななか、私達3人は格納庫の機体を見にやってきた。
待機中はやることがないので、何か手伝えることはないかと思ったのだ。
「新海小隊長、攻撃機はどれも被弾が多いですね。」
特に弾痕が残る九七式艦上攻撃機を一周すると、神鳥谷が機体をコンコン叩いて観察しながら話しかけてくる。
「そうだな。この被弾でよく帰ってきたな。これは修理は難しいのではないかな。」
「攻撃機は速度も遅いですから、敵艦の対空砲は我々の25ミリよりも大口径で、速く、遠くまで飛ぶようです。」
「うん、確かにな」
「攻撃機は時速約380キロですから、秒速は約100メートルです。」
「う、うん、そうだな。」
「対空砲の有効射程を5000メートルと仮定した場合、攻撃隊は1000メートル手前で魚雷を投下するとして、投下前は40秒間、投下後は60秒間撃たれ続けることになります。」
時速を秒速、時速を秒速・・・・
「おう。」
「要するに、100秒間撃たれ続けるのです。発射速度は毎秒2発として、対空銃座一つにつき、200発浴びることになるでしょう。」
「ほう。一つに200発。そうやって計算すると厳しすぎる状況だな。」
「はい、私もそうでしたが、敵弾を喰らっている時はガンガン凄い音がして、死んだと思い叫んでいました。」
「へぇ、普段冷静な神鳥谷君でも叫んだりするのか。で、何を叫んだ?故郷の彼女か?」
「そんな女性はいません!頭に浮かんだのは、母と、何故か飼っている鳥の名前でした。」
「へぇ、鳥か、なんだいその鳥ってのは」
那須一飛曹が興味をもって横から聞いてきた。
神鳥谷は少し言いづらそうにモジモジして言う。
「アヒルです。」
プッ
ワッハッハッハッハ!アヒルかよ!名前は!ヒッヒッヒ!
「こうすけ」
「こうすけ!」「こうすけ!」ヒッヒッヒ!それは死ねんなぁ、あのシーンで、こうすけ~!なんて言ってたのかよ!俺が死ぬ!俺が死ぬわ!
神鳥谷は少し怒ったようだ。
「あ、ま、まあゴメンな、ちょっとホラ、緊張が続いてたからさ、そういう意味ではありがとうな。こうすけ。」
那須のフォローは間違っているが、もう面白いからいいや。
そんな話を咲かせながら、そのあとも自機を確認したりしていると、太陽は世界を茜色に染め上げ、やがて日没を迎えた。




