帰還
帰りの距離は約450キロ。少し近くなり約2時間弱の行程だ。
帰りの航路は自分でも確認するが、厚手のグローブをしているので座標の測定作業は難しい。
単座戦闘機は空戦に突入すると激しく動くので現在地がわからなくなり、単独での帰投は困難になるのだ。
しかし雷撃隊の先導があれば安心だ。護衛する代わりに道案内をしてもらう。持ちつ持たれつだ。
我が赤城隊は24機が帰還の途についた。
雷撃機2機、急降下爆撃機1機の損害である。
どの隊も攻撃隊は3,4機の損失を受け、攻撃隊は20機近く姿が見えない。
寂しいが、あれだけの戦果であれば、20機の損失は少ないと思うし、見事な散華であった。
帰路もひたすら美しい蒼い海と水平線を見渡しながら飛ぶ。
こんなにも美しい景色が見れる日本人は我々以外にいない。
父と母に見せてあげたいし、もし妻となる女性ができたらこの景色を共有したい。
この光景の素晴らしさは、私の言葉で伝えることは出来ない。
やがて遠くに幾筋もの航跡!機動部隊が見えてきた!
空母は無事だろうか?じっと目を凝らす。
平たい艦影を数える!
ひ、ふ、み、よ、いつ、む!
ひふみよいつむ!
6隻全部いる!
しかし、空母1隻から白煙が上がっているようだ。
嫌な予感がする。
徐々に接近すると、左側に設置された艦橋!甲板後部にアの文字!我が母艦赤城だ!
赤城から白煙が上がっており、甲板上は作業員が復旧作業に大わらわの様子が見てとれる。
損傷は大丈夫か?着艦できるのか?
淵田隊長の指示で攻撃隊は別れ、それぞれの母艦に向かう。
母艦に近づくと、飛行甲板の右舷前部に命中弾を受けたようで、甲板に穴が開きめくり上がっていたが、消化作業は成功しつつあり、甲板後部の着艦スペースに問題はなさそうであった。
係員を見ると、着艦ヨシの合図を出している。
よかった。
帰れる場所がある。
こんなに嬉しいことはない。




